独自チューニングで154psと23.8kg-m
最新のホットハッチは、すっかり複雑で高価になった。モデルによっては、英国では5万ポンド(約805万円)を超える例すらある。小さなボディへ搭載される技術も、レーシングカーさながら、といったことも珍しくない。
【画像】間違いなく面白い154ps アバルト500e 内燃エンジンのアバルト595 電動ミニも 全119枚
少し感傷的になる事実かもしれない。それでは、電動パワートレインならどう仕上がるのか。アバルト500eは、バッテリーEV(BEV)としては初となる、本気のホットハッチを目指したモデルといえる。
内燃エンジンで一時代を築いた象徴的なモデルは、次世代でも魅力を維持できるだろうか。先陣を切って体現を試みた、注目の1台だ。
名前が示す通り、アバルト500eがベースとするのは、BEVのフィアット500e。内燃エンジンの500をチューニングしていた、従来の手法へ通じる。500eではメカニズムの関連性が以前より強く、駆動用バッテリーやモーターは基本的に共有する。
駆動用モーターはフロント側に1基。内部ロスの改善や細かな改良が施され、最高出力154psと最大トルク23.8kg-mを叶えている。フィアット500e比で、35psと1.5kg-m増強された。
フロア下に敷き詰められる駆動用バッテリーは、実容量で37.3kWhのリチウムイオン。こちらはほぼ同一品だが、電流の制御が若干異なるという。
駆動用モーターからタイヤへパワーを伝達するギア比は、9.6:1から10.2:1へロング化。加速力と最高速度のバランスが、最適化された。好戦的なスタイリングが、スポーティ感を強めている。
内燃エンジンのアバルト695よりどこでも速い
これらの変更で、航続距離はフィアット500eの320kmから264kmへ短くなった。急速充電能力はDCで最大85kWと、変わりはない。
ステランティス・グループのBEV開発で主任技術者を務めるマウリツィオ・サルビア氏は、アバルトを名乗るに相応しい500eになったと話す。内燃エンジンのアバルト695より「どこでも速いです」。というコメントが、期待を膨らませる。
加速時間を確認すると、20km/hから40km/hまでの中間加速は695から約1秒短縮。40km/hから60km/hも同様で、ステランティス・グループが有するイタリア・バロッコのテストコースも、約1秒速く周回できるらしい。赤信号ダッシュも同様だろう。
0-100km/h加速時間は0.5秒だけ695に届かない。とはいえ、1.4Lの内燃エンジンは駆動用モーターより26psも強力。車重も約400kg軽いから、避けられない事実といえる。むしろ電動パワートレインは健闘している方だ。
シャシーでは、フロントがマクファーソンストラット式、リアがトーションビーム式となるサスペンションへ独自の設定が与えられ、ショックアブソーバーは専用品。ホイールベースは24mm伸ばされ、トレッドは60mm拡大された。
前後の重量配分は、フィアット500eの63:37から57:43へ改善。サソリマークの木箱でチューニングパーツがディーラーへ届き、組み付けられていた時代は過ぎ去ったが、しっかり動的能力は高められている。
タイヤはブリヂストンのスポーツコンパウンドを履く。これも専用開発品だ。
排気音を模したサウンドジェネレータ
BEVらしい装備といえるのが、アバルト・サウンドジェネレータ。荷室フロアの下にアンプとサブウーファーが組まれ、別に専用のスピーカーも備わる。アバルト・レコルト・モンツァの排気音を模したような、図太いサウンドを再生するために。
システムのスタートボタンを押すと、サウンドジェネレータの響きは耳だけでなく背中からも感じる。サブウーファーで低音域が強調され、かなりうるさい。量産車として認可される、ギリギリのボリュームだとか。
このシステムの開発には、述べ6000時間が費やされたそうだ。古くからのアバルト・ファンの意見を参考にしながら。
アバルトの欧州部門を率いるガエターノ・ソレル氏によれば、感情を揺さぶるために必要な機能だったという。BEVの音響体験が乏しいことは事実で、真剣に向き合った成果として評価すべきだろう。感じ方は、人それぞれだと思うが。
さて、今回アバルト500eを試乗したのは、バロッコのテストコースと周辺の一般道。比較のため、サーキット・エリアでは内燃エンジンの695が先行するかたちで走行した。
ピットレーンに並ぶ小さな500eへ乗り込む。ドライビングポジションは、内燃エンジン版と比較してそこまで高くないことに安心する。内装の大部分はブラックのアルカンターラで仕立てられ、スポーティな雰囲気に不足はない。
基本的なインテリアのデザインは、通常のフィアット500eと同じ。アシッド・グリーンとポイズン・ブルーという、アバルト専用のボディ色に合わせて、鮮やかなステッチが施される程度だ。
この続きは後編にて。
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