近年で最も特徴的なバッテリーEVサルーン
係員が近寄ってきて、毅然とした表情でサイドガラスを叩く。恐る恐る窓を開く。「クルマをここに停めている理由は?」。と、厳し目に問いただされる。
【画像】容姿と中身の高バランス ヒョンデ・アイオニック6 競合クラスのBEVサルーン アイオニック5も 全124枚
イタリア北部、コモ湖を望む高級ホテルの敷地にいた筆者は、イベントへ招かれたクルマの入場を妨げていたらしい。「ごめんなさい。間違えました。違う会場だったようです」。と慌てて答える。
続いて、フェラーリ365 GT4 BBと一緒の撮影へ挑む、離れた場所に立つフォトグラファーについても聞かれる。「それでは、彼は?」。どう答えようか考えた一瞬の間に、後ろでクラクションが鳴る。
「すぐに移動してください」。屋根を軽く叩かれ、立ち去るよう要求された。筆者の本当の目的は、ヒョンデ・アイオニック6の斬新なデザインが、誰もが知っているような高級車と並んだ時、どう見られるのかを確かめることだった。
急いでアイオニック6を敷地の出口まで走らせる。公道へ戻ろうとすると、メルセデス・ベンツ300SLRを撮影しようと集まった、一眼レフを手にした群衆へ阻まれる。ベストアングルの邪魔をしてしまったらしい。
しかし、彼らはアイオニック6を好意的に受け止めたのか、カメラのレンズが向けられる。筆者の予想は正しかったようだ。このバッテリーEVは、近年最も特徴的なサルーンといえる。数年後には、時代の先駆者として評価される可能性を持っていると思う。
サルーンではなくストリームライナー
もちろん、1955年製の300SLRに並ぶ価値が生まれることはないだろう。70年後に、143万ドル(約207億3500万円)へ相当する金額で落札されるとは思えない。それでも、2023年を象徴するモデルにはなり得るだろう。
ヒョンデの上層部、特にデザイン部門を率いるイ・サンヨプ氏は、アイオニック6をサルーンではなく、ストリームライナーと呼んで欲しいと話す。マーケティング部門が主導しているのかもしれないが、デザインチームの影響力の大きさも間違いない。
効率を求めるなかで匿名化が進み、ブランドらしい個性は薄まりつつある。メルセデス・ベンツEQEやテスラ・モデル3などは、わかりやすい例といえる。だが、ヒョンデは異なるベクトルを向いている。2極化する可能性はあるが、個性はあった方が良い。
そんな事を思いながら、街の広場へ向かう。アイオニック6のスタイリングを際立たせるためには、当たり障りのない景色に停めた方が望ましい。湖と山岳地帯へ取り囲まれるように、観光客で賑わうホテルやレストランが並んでいる。
テラス席でティータイムを楽しむ人が、アイオニック6へ目線を送る。混雑した一角を通り過ぎると、数人から見つめられた。可動式の花壇を避けて、フォトグラファーが仰々しく撮影を始めたからかもしれないが。
視覚的なセンスと心に抱かせるカリスマ性
親子連れが、スマートフォンをこちらへ向ける。だが、そんな注目も束の間。
高級ホテルへ向かう高級車が頻繁に通過するリゾート地にとって、珍しいクルマは特に珍しい存在ではない。ブガッティ・シロンが、アストン マーティン・ザガート・ヴァンキッシュと一緒に、スーパーの前へ駐車しているほどだ。
小雨が降る中、なだらかなリアウインドウを雨水が流れ落ちる。ボディにファサードの景色が映り込む。ピクセル状のテールライトが色っぽく灯る。やっぱり、ドラマチックな容姿だと再確認する。
ヒョンデの電動パワートレインの技術力は、テスラやポールスター、フォルクスワーゲンといったメーカーと、大差はないかもしれない。しかし、視覚的なセンスや心に抱かせるカリスマ性では、アイオニック6の方が勝っていると思う。
実際、近年のヒョンデのデザインには話題性がある。1970年代の雰囲気を匂わせるアイオニック5もそうだし、SUVの新しいサンタフェも、シンボリックな容姿だといえる。アイオニック6を予言したコンセプトカー、プロファシーも、高い評価を得ていた。
2022年には、古いハッチバック、ヒョンデ・ポニーのスタイリングを現代へ焼き直した、燃料電池を積んだコンセプトカーのNビジョン74もインターネット上で支持を集めた。いずれもが、自社のブランドイメージの醸成へ一役買っている。
この続きは後編にて。
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みんなのコメント
行動も車もクソ気分悪い。