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【中野信治のF1分析/第2戦】低ダウンフォースでも『曲がる&止まる』レッドブル。FIA F2今季初優勝の岩佐歩夢の大きな一歩

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【中野信治のF1分析/第2戦】低ダウンフォースでも『曲がる&止まる』レッドブル。FIA F2今季初優勝の岩佐歩夢の大きな一歩

 2023年F1第2戦サウジアラビアGPはセルジオ・ペレスがポール・トゥ・ウインを果たし、前戦に続きレッドブルがワンツー。さらに3位にはフェルナンド・アロンソ(アストンマーティン)が入り、表彰台には開幕戦と同じメンバーが顔を連ねました。日本期待の角田裕毅(アルファタウリ)、そしてF1直下のFIA F2で今季初勝利を飾った岩佐歩夢(ダムス)の戦いの模様とともに、元F1ドライバーでホンダの若手育成を担当する中野信治氏が独自の視点でレースを振り返ります。

  ☆  ☆  ☆  ☆  ☆

【中野信治のF1分析/第1戦】今季最大のサプライズ。アロンソのオーバーテイクと百選錬磨の技。3強に食い込むアストンマーティン

 ジェッダ・コーニッシュ・サーキットは高速レイアウトの市街地コースということで、各車がダウンフォース量を落として挑む一戦ですが、そのサウジアラビアでもレッドブルは他を圧倒しました。低ダウンフォース仕様にしてもクルマが非常に安定しており、レッドブルのマシン『RB19』はダウンフォース量に関係なくタイムを出せるクルマという印象です。

 サウジアラビアGPでのレッドブルはストレートスピードが速いだけでなく、外から見ていてもクルマストレスをかけずにコーナリングしているようにも見えました。

 ブレーキの踏力もそこまで強くなく、軽めのブレーキングでしっかりと減速できている。それにともないピッチング(編注:加減速時の荷重移動により車両の重心位置が変化し、減速時は車体が前傾、加速時は車体が後傾する現象のこと)もあまり出ない。それにはクルマの完成度の高さもありますが、ドライバーふたりの“クルマの弱点を打ち消すドライビング”も強さの要因だと思います。

 サウジアラビアGPではレッドブルがワンツー。ただ、2年連続チャンピオンのマックス・フェルスタッペンが予選でのマシントラブルにより15番手からのスタートとなったこともあり、ペレスがポール・トゥ・ウインを飾りました。

 F1ではファステストラップを記録すると1ポイントが手に入るため、ペレスがファステストを記録すれば、ドライバーズランキングでフェルスタッペンを逆転する可能性もあり、レース終盤はこのふたりのファステストラップ更新合戦も面白かったですね。結果としてはファイナルラップに1分31秒906を記録したフェルスタッペンがファステストをもぎ取り、ドライバーズランキングトップを死守しました。

 ペレスとしては(予選でも)フェルスタッペンにマシントラブルが発生しているのに、毎周ファステストを更新し合うほどプッシュする必要があるのかと思ったかもしれません。開幕から2戦目にしてチーム内のガチガチの戦いの火蓋が切って落とされたので、今後のふたりの関係・メンタリズムにも変化があるでしょう。チームが今後ふたりをどのようにコントロールし、ときにどちらを優先するのかにも注目したいです。

 開幕戦に続き、今回のレースもフェルナンド・アロンソが話題の中心にいました。フロントロウスタートから一時はトップに浮上し、2戦連続となる3位表彰台を獲得しましたが、スタートの際に左側にタイヤ1本分くらい、スターティングボックスからはみ出していたことで5秒のタイムペナルティが科されたました。

 スターティングボックスの線はドライバーの視点からはとても見えにくく、わずかにズレることは大いにあり得ると思います。なので、グリッドに着く際にはかなり手前からスターティングボックスの枠線を意識しておかないと、正確なポジションに停めることはできません。ドライバーとしてはかなり緊張する場面のひとつでもあります。

 でも、サウジアラビアGPのアロンソはグリッドに止まる直前に右側に視線を振ったり、スタートに備えて準備を進めながらの停止だったので「あ、しまった!」という感じだったかもしれませんね。本人のコメントのとおりアロンソのミスだと思います(笑)。ミスではあるのですけど、スターティングボックスがとても見えにくいという事実は、他のドライバーもコメントしていたとおりです。

 私の現役時代のF1マシンもスターティングボックスが見やすいクルマではありませんでしたが、そこまで気にすることはありませんでした。現在のF1は安全性が強化されてヘッドセット周りが高くなったりしてドライバーから見える範囲が狭くなっているので、その影響はあると思います。でも、久しぶりのフロントロウスタートでアロンソも興奮していたのかもしれませんね(笑)。その辺もアロンソらしいなと思いました。

■F1角田とFIA F2岩佐のそれぞれの第2戦

 第2戦での(角田)裕毅は今回も結果的に11位とポイント獲得まであと一歩のレースでした。裕毅はF1参戦1~2年目のころにいいレースの際に逃さずチャンスを掴みに行くということを学んだと思います。同時に、状況が悪いときに自分とクルマのパフォーマンスをいかに引き出すかも学んでいたと思います。その経験は今回のサウジアラビアGPでも実践できていたのではないでしょうか。

 苦しい状況でもいい走りを続けていれば、たとえポイントを獲得できなくても裕毅の評価が下がることはありません。マシンが苦しいということは、レースを見ていればわかりますし、チームも理解しているはずなので、裕毅が悲観する必要はないと思います。個人的には気持ちを上げて1戦1戦に臨んでほしいなと思っています。

 開幕戦のバーレーンGPもそうでしたが、裕毅の走りはアルファタウリ『AT04』のポテンシャルを100パーセント引き出していると感じています。そのため、安心して裕毅の走りを見ることができています。クルマが良くなったときに、確実にポイントを取ることができる走りです。

 終盤のケビン・マグヌッセンとの1ポイントをかけた10番手争いのバトルも、ストレートの速いマグヌッセンに対して裕毅は自分とマシンの長所と短所を把握した上で、巧みなライン取りやDRSを利用してポジションを死守しようとしていましたね。最後は1コーナーのブレーキング勝負でイン側で止まりきったマグヌッセンに抜かれてしまいましたけど、オーバーテイクを決めたマグヌッセンも、裕毅もともに、頭脳戦とも表せる見事なバトルを見せてくれました。

 次戦はオーストラリアGPということで、アルバートパーク・サーキットはストレートも長くはありませんから、ストレートが遅いアルファタウリの苦手な部分は少しは解消されるかもしれません。ただ、AT04は低速コーナーをそこまで得意としているようにも見えていないので、いいセットアップを見つけてほしいところです。

 F1を目指す若手ドライバーが参戦するFIA F2では、ダムスから参戦する(岩佐)歩夢がスプリントレース(決勝レース1)で4番グリッドスタートから今季初勝利を飾りました。今季の歩夢は、昨年の歩夢とはまったく違いますね。戦い方が3~4年のベテラン勢と遜色ないですし、タイヤの使い方が本当にうまい。スタートもきっちりと決めましたし、レース展開については100点満点に近いところにいると思います。

 自分自身のことを俯瞰で見て、自分がやれること、やるべきことをリスクのない範囲でやっています。FIA F2はポイントを取り続けなければタイトルを掴むことはできません。今後のステップアップに向けて、冷静に戦えていると思いますし、ダムスというチームとともに成長していると言いますか……歩夢がダムスというチームを成長させているとすら感じています。

 DAZNで配信中の『Wednesday F1 Time』でも歩夢が話していましたが、今季ダムスにはモナコ出身のアーサー・ルクレールが加入しました。フランスチームにフランス語圏のドライバーが加入したことで、チームミーティングでの言語がフランス語になってしまっていたそうですが、歩夢はチームの今後の成長・チーム内の雰囲気も考え、英語でミーティングをすることを進言し改善を図りました。

 これは歩夢の好調を維持するためには大きな動きですし、進言したからには優勝という結果で証明することはドライバーにとっては大切なことです。ルクレールはやはりフランス語圏のドライバーですので、フレンチ・コネクションがかなり強いドライバーだと思います。ルクレールも自分がタイトルを獲得するために『できることはなんでもやる』でしょうから、歩夢はまず、コース外での大きなミッションをひとつクリアできたのではないかと思います。

 現状、FIA F2においてダムスのマシンは最速ではないのですが、歩夢とチームのセットアップ力。そしてルクレールとの共闘体制をいかに作れるかが今後の鍵となると思います。やはり、FIA F2はドライバーひとりでは戦えません。ルクレールに『岩佐はすごい。一緒に戦うしかないな』と思わせることができれば歩夢の勝ちです。そうなればダムスとして2台ともに強くなりますし、そうなれば今季好調のMPモータースポーツやARTグランプリに追いつくことができるアイディアもたくさん出てくると思います。

 今後のダムスがどのような結果を残せるかは、歩夢のコース内・コース外を問わない働きにかかっていると思います。ダムスはかつてのチャンピオンチームですから、ポテンシャルは秘めていると思います。それをいかに引き出せるかが、2023年シーズンの歩夢の戦いの大きな鍵となるでしょう。


中野信治(なかの しんじ)
1971年生まれ、大阪出身。無限ホンダのワークスドライバーとして数々の実績を重ね、1997年にプロスト・グランプリから日本人で5人目となるF1レギュラードライバーとして参戦。その後、ミナルディ、ジョーダンとチームを移した。その後アメリカのCART、インディ500、ル・マン24時間レースなど幅広く世界主要レースに参戦。スーパーGT、スーパーフォーミュラでチームの監督を務め、現在はホンダ・レーシング・スクール・鈴鹿の副校長として後進の育成に携わり、F1インターネット中継DAZNの解説を担当。
公式HP:https://www.c-shinji.com/
SNS:https://twitter.com/shinjinakano24

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みんなのコメント

1件
  • 本当に低ダウンフォースなんでしょうか?。

    DRSが開くまではメルセデスより最高速は伸びないような印象がありました。
※コメントは個人の見解であり、記事提供社と関係はありません。

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