屋根は開いた方がイイ フェラーリ296 GTSへ試乗 PHEVで830psのオープン・スーパーカー 後編

特徴づける流暢な走りを生むシャシー

筆者はこれまで、フェラーリ296 GTBではアセットフィオラノ・パッケージが組まれたクルマしか運転した経験がなかった。これにはマルチマティックと呼ばれる、サーキット前提の本気で有能なダンパーが装備されている。

GTSでもアセットフィオラノは選択できるが、今回の試乗車にはノーマルのダンパーが組まれており、物足りないのではないかと想像していた。だが、それは間違いだった。ノーマルのダンパーでも、圧巻なほど洗練されている。

一般道で許されない速度域でなければ、姿勢制御は秀抜。ヒタヒタと安定性を保ちながら、靭やかな乗り心地を叶えている。公道との相性は抜群だ。他方、アセットフィオラノの場合は、凹凸が酷い区間で少し不安定になったことも事実ではある。

この姿勢制御が、フェラーリを特徴づける流暢な走りの素地を生み出す。296 GTSは、極めて機敏で落ち着きを失いにくい。ステアリングホイールやペダル、サスペンションが見事に調和している。タイヤの限界を超えても、自信を失うことなく操れる。

ただし、カーボンファイバー製タブシャシーで構成されるマクラーレンのスパイダーほど、コーナー進入時の鋭いステアリングレスポンスや、前後タイヤの統一感は得ていない。そこまでシリアスではない。

操縦性の精度でいえば、クーペのGTBと比べて5％ほど落ちている可能性はある。旋回時にごく僅かな反応の遅れがあり、アンダーステア傾向が微かに強まっているように感じる。とはいえ、些細な違いでしかない。

非常にパワフルで洗練されたPHEV

プラグイン・ハイブリッド（PHEV）のパワートレインは、非常にパワフルで洗練されている。システム総合で830psの最高出力や、75.3kg-mの最大トルクの値は驚異的なものだが、それ以上にゾクゾクさせるのがエネルギーが生成される過程だ。

アクセルペダルを踏み込むと、166psの駆動用モーターが内燃エンジンの低回転域でのトルクを補完。息を呑むほどシャープな反応を引き出す。その敏感さは、想像以上。

仮に駆動用モーターがなくても、3.0L V6ツインターボ・エンジンは激しくレスポンシブな様子。フェラーリは、従来の自然吸気V8エンジンと比べて、回転上昇の鋭さは15％ほどしか劣らないと説明する。

ブースト圧の上昇も同様に鋭く、スムーズでリニアに8500rpmまで吹け上がる。タイヤのトラクション不足で、不意に水をさされることもない。ターボラグも皆無といえる。

ドライバーが望めば、ミシュラン・パイロットスポーツ4Sタイヤを自在に打ち負かすことも造作ない。不安を感じることなく。

事実、この296 GTSはフェラーリのテストコース、フィオラノ・サーキットを、260kgも軽い488 ピスタから0.3秒遅れで周回できるという。つまり、間違いなくサーキットも得意分野のオープントップ・ハイブリッド・スーパーカーといえる。

公道での運転が中心なら即決でGTS

ルーフを開けば、運転の楽しさは明確に拡張する。電動で折りたたむのに必要な時間は14秒。走行中でも48km/hまでなら操作できる。高速で走行しても、風の巻き込みや圧力差で生じる共振音に悩まされることもない。

リアウインドウも下げれば、パワートレインとの境界は限りなく小さくなる。アクセルペダルの傾き具合で変化する吸気音や排気音、機械音が重なり合い、歴史あるフェラーリの崇高なシンフォニーに浸れる。

これは、クーペの296 GTBでは体験できないこと。この上なく素晴らしい。短距離ながら、駆動用モーターだけでの走行時には不自然なほどの静けさも味わえる。

GTSとGTB、どちらの296を選ぶべきか。公道での運転が中心のドライバーなら、即決でGTSと答えたい。オープンの296でも不満なく速く、正確に操れる。サーキットのラップタイムを削る目的以外、GTBを選ぶ理由はないとさえいえる。

英国価格は27万8893ポンド（約4601万円）からで、安くはない。しかし、尊いコミュニケーション力を備えるマクラーレン720S スパイダーと大差はない。間もなく登場するPHEVのスーパーカー、マクラーレン・アルトゥーラ・スパイダーとも。

マクラーレンとは非常に悩ましい2択になるが、筆者はフェラーリが僅かに上回っているように思う。夢中になるほど楽しく感情豊かで、まとまりがあり、能力は寛大。サウンドにも惚れ惚れする。

スタイリングが気に入ったのなら、迷う必要はないかもしれない。

フェラーリ296 GTS（欧州仕様）のスペック

英国価格：27万8893ポンド（約4601万円）
全長：4565mm
全幅：1958mm
全高：1191mm
最高速度：330km/h
0-100km/h加速：2.9秒
燃費：15.4km/L
CO2排出量：153g/km
乾燥重量：1540kg
パワートレイン：V型6気筒2992ccツイン・ターボチャージャー＋電気モーター
使用燃料：ガソリン
駆動用バッテリー：7.45kWh
最高出力：830ps/8000rpm（システム総合）
最大トルク：75.3kg-m/6250rpm（システム総合）
ギアボックス：8速デュアルクラッチ・オートマティック

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コルベットというかアメ車臭がすごい