ポルシェのブランド体験施設、ポルシェ・エクスペリエンスセンター東京(PEC東京/千葉県木更津市)が2023年10月で開業2周年を迎えた。PEC東京は2周年を記念し、10月14日に『ポルシェGT4 eパフォーマンス』のイベントを開催。ドイツ本社から専門チームが来日しイベントをサポートした。このイベントに先駆けたメディア取材会が行われ、モータースポーツや自動車のテクノロジー分野に精通するジャーナリスト、世良耕太が参加。『ポルシェ718ケイマンGT4 eパフォーマンス』に同乗し、その魅力を深掘りする。
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『ニッサン・ハイパーフォース』GT500で培った空力技術を最大出力1000kWのEVコンセプトカーに/世良耕太が選ぶ一台
『ポルシェ718ケイマンGT4 eパフォーマンス』(以下、GT4 eパフォーマンス)は、バッテリーに蓄えた電気エネルギーでモーターを駆動して走るフル電動車両である。ポルシェは2021年9月にドイツ・ミュンヘンで開催されたIAAモビリティで、コンセプトスタディの『ミッションR』を発表した。将来の電動カスタマーレーシングの姿を示唆するモデルだ。
この『ミッションR』の技術を積んだテスト車両が『GT4 eパフォーマンス』である。テストして技術を鍛えるだけでなく、世界各地を旅して電動カスタマーレーシングの魅力を伝え、ステークホルダー(利害関係者)からフィードバックを得る役割を担っている。直近では、9月のF1開催週にシンガポールを訪れたというし、11月には中国に向かう予定。2024年はオーストラリアを訪問することが決まっている。
『GT4 eパフォーマンス』は『718ケイマンGT4クラブスポーツ』のシャシーをベースにしている。量産電気自動車(BEV)の『タイカン』のようにBEV専用シャシーではないので、80kWhの容量を持つバッテリーをフロアに効率良く搭載するというわけにはいかず、フロントコンパートメント、助手席の足元、リヤに3分割して搭載している。
ハイブリッドシステムの電圧は900V。バッテリーは最大350kWの出力で充電することが可能で、この場合、計算上はバッテリー残量20%から80%まで約15分間で充電することが可能だ。
モーターは最高回転数22500rpmの永久磁石同期型をフロントとリヤに搭載。予選モードでの最高出力は800kW(1088ps)、レースモードでは450kW(612ps)に抑えて走る。レースモードで走った場合は一充電あたり25~30分の走行が可能。予選モードでは10分間の連続走行が可能だが、「内々ではパーティーモードと呼んでいる」と、『GT4 eパフォーマンス』のプロジェクトマネージャーを務めるオリバー・シュワフ氏は教えてくれた。「ほとんどロケット」だと。
『タイカン』のリヤは2段変速ギヤを備えているが、『GT4 eパフォーマンス』の場合、フロント/リヤともシングルギヤである。「スペック上は340km/hを出すことも可能だが、ギヤ比の設定で、ここにある車両は270km/hを上限に設定している」と教えてくれたのは、テクニカルプロジェクトリーダーのイエンス・マウラー氏。
古く(?)は2010年のニュルブルクリンク24時間レースに参戦した『911 GT3 Rハイブリッド』の、電動フライホイールを用いたハイブリッドシステムの開発を担当。「トップを走っていたのに、あと1時間半というところで壊れてね」と話すので、「原因はハイブリッドシステムでしたっけ?」と聞き返すと、「エンジンだよ!」と苦々しげな表情で答えるのだった。
バッテリーとモーターの冷却はオイルを用いて行い、冷却システムは1系統。フロントに大きなマイクロチューブラジエターを搭載しているのが確認できる。2015年から17年まで、ル・マン24時間レース3連覇を果たした『ポルシェ919ハイブリッド』もマイクロチューブラジエターを適用していた。この車両の電動系開発にも携わっていたマウラー氏は、「チューブの長さは3km。通常のクーラーより30%効率が高く、5kg軽い」と説明してくれた。
テスト&デベロップメントドライバーを務めるマルコ・ゼーフリート氏の助手席で、タクシードライブを味わった。800kW(1088ps)の予選モードで、である。外で聞いていてもフル電動車両に特有の電磁音とギヤノイズが入り混じった高周波は目立つが、車内にいると大迫力だ。全身が音に包み込まれる感じである。ドライバーのアクセル操作に応じて、電磁サウンドが強弱する。
加速は強烈のひと言だし、サステナブル素材を63%使用したミシュラン製タイヤのグリップの範囲内、それも摩擦円の相当内側で走っているらしいことは感じとれるのだが、加速/減速/旋回時に発生するGは相当なもので、無意識に脚を突っ張らせていたのだろう。翌日、尻が筋肉痛でC3POのような歩き方になっていたことを告白しておく。
一充電あたりの走行が25~30分と聞いて、「短いんじゃない?」と思うかもしれないが、PEC東京で2.1kmの、アップダウンが激しく、タイトなコーナーが連続するコースを2周体験したうえで感想を述べると、「10分でも充分」が本音だ。
「なぜ、ポルシェは電動カスタマーレーシングを始めようとしている?」の問いにシュワフ氏は「それはストリートカー(量産車)で起こっていることだからです」と答えた。量産車の世界でフル電動化が進んでいるから、そこから派生したレースカーを用意するのは当然の考えということだ。
「ストリートカーの開発とレースカーの開発は手を取り合って進む必要があります。電動レーシングカーで開発した技術をストリートカーの開発に生かすのが理想。そうすることで、技術開発の進化が早まります。オープンコンペティションにすると技術開発に歯止めが利かなくなるので、ワンメイクシリーズを考えています」
既存のポルシェ カレラカップのような形態で電動カスタマーレーシングのワンメイクシリーズ立ち上げを構想している。カレラカップの置き換えではなく、当面は並行して進めていく考えだ。
「最も大きな課題は充電インフラの整備です。25台から30台を同時に充電できる設備をサーキットに設ける必要があります。クルマだけ用意しても、シリーズは成り立ちません。『GT4 eパフォーマンス』は車両をサービスするのに6名の技術者が必要ですが、これを単純化する必要もあります。スペアパーツのコスト削減も必要です。電動レース車を当たり前のように人々が受け入れる、マインドセットの変化も必要です」
ポルシェは2024年までを『GT4 eパフォーマンス』の“デモフェーズ”に位置づけ、2025年以降を電動カスタマーレーシング実現に向けた“移行フェーズ”に位置づける。実際にレースが始まるまでに「数年かかる」と見ている。ポルシェの考えを聞き、『GT4 eパフォーマンス』を間近に見て、タクシードライブを体験した身から言わせてもらうと、ポルシェは電動カスタマーレーシングの実現に向けて“本気”である。
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みんなのコメント
R/Cの電動レーシングカーかよw R/Cもエンジンなら5秒で満タンなのにw