ミニバンがスポットライトを浴びる日
「ミニバン」はいま、世界的な一大ブームを迎えるSUVの影に隠れている。
【画像】ミニバンってこんなにお洒落だったっけ?【欧州で注目の最新ミニバン3車種を写真で見る】 全48枚
先日、日本カー・オブ・ザ・イヤーの特別賞として日産セレナ(テクノロジー部門)が選ばれたように、国内ミニバン人気は非常に高い。しかし、グローバルではSUVがほぼ主流となってきている。
ミニバンから手を引くメーカーもあるため、人気は「下火になっている」とよく言われるが、本当にこのまま衰退してしまうのだろうか?
今回はミニバンの良さと課題、海外のニューモデル、各市場の動向を考えてみたい。
海外の最新モデル おしゃれな個性派も
まずは、海外で最近発表されたニューモデルをいくつか見ていきたい。
レクサス
日本の高級車ブランド、レクサスが高級ミニバンのLMを発表した。これまでも中国や東南アジアで販売されてきたが、フルモデルチェンジに伴って日本や欧州などターゲット市場を大幅に拡大している。
ボルボ
ボルボは11月、高級電動ミニバンのEM90を公開した。全長5206mm、車重2700kg超という、レクサスLMを上回る大柄なボディを持つEVだ。1回の充電での航続距離は最長738km。今のところ中国市場でのみ導入が確認されている。
フォード
最近、筆者が個人的に注目しているのは5人乗りのフォード・トルネオ・クーリエで、欧州向けのパネルバンから派生した乗用車タイプである。最新型はSUVのようなアクティブなデザインを盛り込んでいる。
BYD
中国BYDは10月、アルファード/ヴェルファイアを彷彿とさせるような高級電動ミニバン、デンツァD9を出展して話題となった。メルセデス・ベンツとの共同開発によるもので、中国では2022年の発売以来、10万台以上を売り上げているという。
海外と日本のミニバン事情 中国で売れる理由
ミニバンはそれぞれの国・地域でどのように受け入れられているのだろうか。欧州、北米、中国、日本の現状についてざっくりとまとめてみたい。
欧州
商用車ベースのモデルが多い。複数のブランドが参入し、電動化も進んでいる。ただし、ブランド間での部品共有も多いので、デザインや走り、車載機能で差別化できるかどうかが鍵となる。安全規制、環境規制、走行性能、内外装の質感など要求は厳しい。
北米
北米では一般的に、ミニバンは「サッカーマム」と呼ばれるような母親(父親)が子供の送り迎えに利用するクルマというイメージがあるようだ。トヨタ、ホンダ、クライスラー、キアが参入しているが、全体的にモデル数は少なく、残念ながら盛り上がっている様子はない。
中国
中国では室内の広さに価値を見出す人が多いと聞く。一部では、「一人っ子政策」が2015年に撤廃されたことを受け、SUVやミニバンに注目が集まるようになったとも言われる(ただし、出生率は一時的に増加したが、少子化と核家族化は未解決)。特に人気なのがトヨタ・アルファードで、これに続くように国内外のブランドから高級路線モデルが雨後の筍のように登場している。
日本
人口1億2000万人、年間販売台数420万台(2022年)の日本は、世界第4位の自動車市場である。ミニバンに関しては国内専売モデルが多いが、ルノー・カングーなど欧州車も根強い人気がある。市場の「裾野」は広く、モデルの多様性も実に豊か。
ミニバンって何が良いの? デメリットは?
ミニバンの一番の武器は「広い室内空間」だ。実用性や使い勝手の良さが重宝される時代、クルマを単なる道具として使う人にも響くはず。一般に「プチバン」と呼ばれるような小型車でも、室内の広さはワンクラス上(あるいはそれ以上)ということもある。
多人数乗車でも窮屈な思いはしないし、モデルによってはキャプテンシートなど豪華装備が充実している。中国市場では広さが重視されており、高級車に求める特徴の1つとなっている(中国仕様にはロングホイールベース車の設定が多い)。また、キャンプや釣りなどアウトドアにも適しており、さまざまなライフスタイルに柔軟に対応できる。
一方で、効率の悪さも無視できない。ミニバンの乗車定員は5~10名程度が一般的だが、常にフル乗車で走るわけではない。多くの場合、広さを活かすことができず、ただ「空気」を運ぶ状態になってしまう。なんとなく「もったいないな」と感じる人も多いのではないだろうか。
また、背の高い箱型ボディは空力性能が心配だ。空気抵抗が大きいと燃費や安定性、快適性にも影響を与えるし、横風にも煽られやすい。とはいえ、SUVと同様にこれから高性能化が期待できるし、電動化に伴う低重心化や細かい制御など一定程度の改善も見込める。
他のクルマからはどう映るだろう? ネット上では、ウィンドウフィルムを貼った大きなミニバンが前方にいると信号などが見えないという声もある。周囲に圧迫感を与えるのは確かだが、ミニバンに限った話ではない。これを解決しようとするなら、クルマの設計ではなく、ドライバーのマナーを含む交通環境に焦点を当てるべきだ。
生活に寄り添ってくれるクルマ
まだまだ語り足りないが、筆者は今後ミニバンの魅力が再発見・再発明されることを期待している。それには個人的な思い入れもある。
筆者が幼い頃、我が家には「天才タマゴ」こと初代トヨタ・エスティマがあった。子供ながらにその形や広さ、頼もしいエンジンが大好きで、家族の思い出も詰まっている。免許を取る頃にはすでに買い替えてしまっていたが、もしタイミングが合えば両親にエスティマを譲ってもらうよう頼んでいただろう。
人の生活にとことん付き添ってくれるミニバンには、表現し難い魅力を感じる。地域によっては縮小してしまうかもしれないが、欧州では多様性が豊かだし、中国の盛り上がりもアツい。日本独自の発展も楽しみだ。
ミニバンはこれからも驚きと喜びを与えてくれると思う。
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