7月8日、宮城県のスポーツランドSUGOで開催されたENEOSスーパー耐久シリーズ2023 Supported by BRIDGESTONE第3戦SUGOスーパー耐久3時間レースで、午後に行われたグループ1の決勝レースでは、DAISUKE/元嶋佑弥/中山友貴組TKRI 松永建設 AMG GT3が嬉しいST-Xでの初優勝を飾った。
TKRIは片岡龍也が手がけるチームで、『Tatsuya Kataoka Racing Invitation』の略。2017年に立ち上げられた『T’s CONCEPT』に加わっていたDAISUKEのステップアップを目指し、2020年からスーパー耐久のST-Zクラスに参戦。メルセデスAMG GT4で戦ってきた。DAISUKEと片岡の物語については別項に記したので、ぜひご覧いただきたい。
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そんなTKRIの初戦の舞台だったのが、2020年のスポーツランドSUGOだった。この年はコロナ禍のため開幕がずれ込み、SUGOは10月に第2戦として開催された。この時は混戦のなか6位でフィニッシュ。この年は優勝することはなかったが、2021年は第2戦SUGOで初表彰台獲得が初優勝という嬉しい結果を残した。
多くのカテゴリーで栄冠を残してきた強豪RSファインのメンテナンス、そして切れ味鋭いスピードでDAISUKEも絶大な信頼を置く元嶋との冒険は、2022年からST-Xに舞台を移した。片岡はST-Xを戦うにあたり、この年から頼れるパートナーとして中山を招聘。多くのスーパー耐久参戦チームがそうであるように、TKRIはいつもアットホームで非常に雰囲気が良く、DAISUKEが取り組んできたST-Xでの優勝を目指し戦ってきた。
ただその目標はなかなか到達しなかった。ST-Xを戦うジェントルマンドライバーにとって、予選ならば良いタイムを出すことができても、あの速度域でクラス違いの車両を、タイムを落とさずに抜いていくのは非常に難しい。これは他のジェントルマンドライバーたちにとっても大きな課題のひとつで、DAISUKEも苦しんできた。
そんななかでも、2022年にも何度か優勝できそうなチャンスがあった。デビュー戦となった第1戦鈴鹿で2位に入るも、第3戦SUGOではDAISUKEがリードを守り切れず4位。ここで課題を突きつけられたDAISUKEだったが、地元からいちばん近いコースであるもてぎでの第5戦では、優勝を手中にできる展開ながらDAISUKEの接触で後退。岡山、鈴鹿こそ表彰台には立ったが、優勝には手が届かなかった。
体制はそのままに迎えた2023年、第1戦鈴鹿を2位で終え、例年同様第2戦富士はスキップ。第3戦SUGOに臨んだ。ただ、他チームと異なり、第2戦から使用されたブリヂストンのスリックタイヤは初装着。専有走行が始まってからも、DAISUKEはブリヂストンの感触に慣れることにやや苦労している様子もあった。
■王道パターンがついに結実
予選4番手からスタートしたTKRI 松永建設 AMG GT3は、スタートドライバーを元嶋が務めた。DAISUKEがスタートを務めることもあるが、このチームは元嶋がスタートを決め、リードを広げるのが王道パターンのひとつだ。
「スタートは賭けてますから。1周目にいかないとチャンスがなくなるのは分かっていますし、集中していきました。前に出ればあとはギャップを作るだけですし、自分がやりたいスタートができました」という元嶋は、直前に雨が降り出すスリッピーな状況ながら、アグレッシブな走りでトップに立ち、55周目までの長いスティントを引っ張った。
この元嶋の走りでTKRI 松永建設 AMG GT3は大きなリードを築くが、交代したDAISUKEがいかにリードを守るかがキーポイントだった。しかし、ここで「今週のDAISUKE選手は乗れていた(河野高男エンジニア)」という走りをみせたことから、なかなかリードが減らなかった。このままいけば、河野エンジニアが「楽勝だった」という展開だった。
しかし、状況が一変したのがST-Zクラスのシェイドレーシング GR SUPRA GT4 EVOが馬の背でストップしたことで導入された73周目のセーフティカー導入だった。これでDAISUKEが守っていたリードが霧散してしまう。DAISUKEが果たさなければならないAドライバーの乗車時間はまだ残されていた。ピットで見守っていた中山は「また今回も難しい展開かと思った」と振り返っている。
ただリスタートで、DAISUKEは後続をうまく離すことに成功した。ピットインではトップに立つべくチームは給油量を攻めたものの、ドライバー交代にやや時間がかかり、中山がコースに戻ってみると2番手に。しかしその後、トップに立ったHELM MOTORSPORTS GTR GT3のピット作業違反のペナルティがあり、TKRI 松永建設 AMG GT3がトップを奪還した。
その後は「一気に楽になってしまったので、何を目標にすればいいのかと一瞬考えましたが、まずはミスなくこなそう……という走りましたが、その時間が長かったです(笑)」と中山がしっかり繋ぎ、トップチェッカー。ついにST-Xでの初優勝を飾った。
■隣のピットで見守った片岡龍也も喜び
中山の走りを見守っていたピットでは、中山を迎えるべく元嶋が早々にレーシングスーツに着替えていたが、DAISUKEはなかなか着替えられずにいた。残り5分ほどでようやく着替えはじめ、サインガードで元嶋とともに中山を迎えると、「よっしゃあ!」と雄叫びを上げた。奇しくもデビュー戦の地も、ST-Zでの初優勝も、ST-Xでの初優勝もSUGOとなった。
「ずっと勝てそうで勝てないのが続いていましたからね。やっと勝てたという気分です」とDAISUKEはやっと掴んだST-Xでの勝利を喜んだ。しかし、今回の勝因は自分ではなく、あくまでチームの総合力だという。
「自分の実力からすればまだまだ勝つには及ばなかったかもしれませんが、チームメンバーやドライバーの総合力はかなり高いと思っています。スーパー耐久はこうやって、チームで戦うのがいいですよね。今回勝つことができましたが、スプリントレースでポンと勝つのとは違って、こうしてチームとして勝つ気分は格別です」
一方、チェッカーの瞬間、喜びに沸いたTKRIのピットの横でサインガードからその光景を横目に見ていたのは、DAISUKEと二人三脚で歩んできた片岡だった。ただ、片岡は今回ドライブしなかったとは言え、中升ROOKIE AMG GT3のドライバー兼監督として、自車がチェッカーを受けるまでしっかりと見届けなければならなかったため、喜びには一歩出遅れたが、レース後しばらく経って、喜色満面で初のST-X勝利について語った。
「昨年からST-Xにステップアップして、惜しいレースがいくつもありましたが、勝てそうなパフォーマンスはありつつも勝てないシーズンが続いていましたからね。今年は鈴鹿で開幕して、富士はもともと出ない予定でしたけど、その出ていない間に僕が先に勝って、『勝っちまったなぁ』みたいな(笑)」と片岡。
「今週は験の良いサーキットですし、僕たち(中升ROOKIE AMG GT3)のライバルになるのではと思っていたら、僕たちはレースペースが良くなくて、まったくついていけず(苦笑)。だからTKRI頑張れと思っていたら、セーフティカーでまたリードがなくなってしまったり。結果的にはライバルのペナルティに助けられました。耐久レースは全員がミスしないことが大事です」
「こうしてST-Xでの初優勝を飾ることができ何よりですし、これでとりあえず1勝ずつですからね。心のバランスがとれるかなと(笑)。あとはこの先、シリーズを争うようになったときが悩ましいですけどね!」
念願のスーパー耐久での初の総合優勝ということもあり、涙のひとつも流れるかと思いきや、レース後を通じて爽やかな笑顔がピット周辺に弾けていた。スーパー耐久というフィールドでレースを楽しむ、TKRIというチームらしさがあふれた優勝となった。
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