現在位置: carview! > ニュース > スポーツ > 【F1チームの戦い方:小松礼雄コラム第8回】ウイリアムズを上回る速さを示したミックと、僚友に勝つことに捉われたニキータ

ここから本文です

【F1チームの戦い方:小松礼雄コラム第8回】ウイリアムズを上回る速さを示したミックと、僚友に勝つことに捉われたニキータ

掲載
【F1チームの戦い方:小松礼雄コラム第8回】ウイリアムズを上回る速さを示したミックと、僚友に勝つことに捉われたニキータ

 2021年シーズンで6年目を迎えたハースF1チームと小松礼雄エンジニアリングディレクター。3連戦の初戦となった第7戦フランスGPは、予選でミック・シューマッハーが今季初めてQ2に進出した。直近のライバルであるウイリアムズを上回る結果に喜ぶ一方、レースではコース特性にも苦しめられた。そんなフランスGPの現場の事情を、小松エンジニアがお届けします。

────────────────────

シューマッハー「初めてQ2に進出できたので、かなりいい週末だった」:ハース F1第7戦決勝

2021年F1第7戦フランスGP
#9 ニキータ・マゼピン 予選18番手/決勝20位
#47 ミック・シューマッハー 予選15番手/決勝19位

 前戦アゼルバイジャンGPの決勝レースでは、マックス・フェルスタッペン(レッドブル・ホンダ)のインシデントの後、ダブルイエローフラッグが提示されていた区間で減速が不十分だったドライバーがいたこと、またセーフティカーの出動が遅すぎたという問題がありました。

 これらの件について、今回のフランスGPのブリーフィングで議論が行われました。まずセーフティーカーの件は、出動が遅すぎたとマイケル・マシ(FIAレースディレクター)が認めました。一方ダブルイエローの件では、ドライバーに対して「君たちは誰もスローダウンしなかった。今度からスローダウンするように」という感じで話があったようですが、はっきり言ってこれでは何も解決しません。本来ならミニセクタータイムを示して、「もし今後まったく同じ状況が起きた場合は、このドライバーとこのドライバーにはペナルティーを与える」と数字で明確にするべきです。そうすれば、ドライバーたちも何が求められているのかがはっきりと具体的にわかるからです。このようにうやむやなままでは、また同じことが起こるのは避けられないのではないでしょうか。

 さてポール・リカールでは、FP3から予選にかけて大きくタイムが上がりました。ミックの今回の予選は特によかったと思います。同じ新品タイヤでアタックしたウイリアムズの2台を上回っていましたからね。Q1での最後のアタックではターン6で攻めすぎてクラッシュしてしまいましたが、ターン5までに自己ベストをコンマ1秒ほど更新していました。

 このクラッシュによる赤旗がなければQ2進出は可能だったのかというと、まずウイリアムズの2台に勝てる可能性は十分にあったと思います。またニキータはミックと同じペースでは走れていなかったので、ニキータにも勝てたでしょう。

 しかし、ランス・ストロール(アストンマーティン)は赤旗が出た時点でちょうどアタックを開始するところだったので、赤旗がなければストロールには負けています。よって、もし赤旗がなかった場合に想定されるベストの予選結果は16番手で、残念ながらQ2進出は無理だったと思います。しかし、予選でウイリアムズに勝る速さがあったというのは大きな進歩だと思っています。

 クラッシュによってギヤボックスやシャシー側面へのダメージを心配していたのですが、幸いダメージはサスペンション、ノーズ、フロア、リヤウイングなどペナルティなしで交換できる部位に留められていたのでホッとしました。

■ミックに勝つことに集中しすぎたニキータ
 レースではハードタイヤがメインになると想定していて、結果的にハードタイヤとミディアムタイヤの性能は予想どおりでした。ミディアムはややリヤに不安がありスティントを通じてプッシュすることはできず、一方でハードはプッシュし続けることができるタイヤと踏んでいましたし、実際にそうなりました。ただレースではフロントタイヤが金曜のフリー走行の時ほど機能しなくて摩耗も進んだので、特に左フロントタイヤの摩耗に気をつけて走らなければならない状態でした。ミックは長い第2スティントでこれをうまくやってのけてくれました。

 レース戦略はタイヤが比較的長持ちするので1ストップになります。ミックとニキータの予選順位を考えて、ミックはセオリー通りのミディアム→ハード、ニキータは逆のハード→ミディアムにすることにしました。これはいくつか理由があるのですが、ニキータには燃料を多く積んだレース序盤にリヤに不安のあるミディアムで走るよりは、攻められるハードを与えたかったということがあります。彼はまだタイヤマネージメントに改善の余地がありますし、なにせリヤが安定しないクルマではタイムを出せないので、より安定して走れるであろうハードでスタートしました。

 レースが始まると予想どおり、ミディアムはリヤが厳しくなっていきました。ですからミックは15周目にピットインしてプラン通りハードで最後まで走ることに。ニキータはなるべくハードでの第1スティントを長く走って、レース終盤にミディアムでいい状態で走らせたかったので、31周目までひっぱりました。タイヤ的にはまだ走れたのですが、青旗の状況を考慮してこのタイミングでピットインするのが最適だという判断です。ニキータは残り21周をミディアムで走りましたが、やはりリヤのグリップがすぐに落ち、前を走っていたミックに追いつくことはできませんでした。

 残念ながら結果は19位と20位でしたが、ふたりともベストを尽くしてくれました。ミックとウイリアムズは同じ戦略だったのですが、ウイリアムズのタイムで走ることはできませんでした。しかしGPSから出てくる車速を見ると、コーナーではよく走れていたことがわかります。ウチはどうしてもDRSなしの状態での直線スピードが伸びないので、特にポール・リカールのようなサーキットでのレースはクルマ的に厳しいです。そのなかでふたりともよく走ってくれました。

 レース序盤の4周目にはニキータがミックを追い抜きましたが、このやり方はあまりいいものではなかったです。ミックはあの時、ターン1の進入でジョージ・ラッセル(ウイリアムズ)に対してアタックをかけたものの成功せず、そのせいでターン2の立ち上がりが非常に悪かったのです。ここでニキータは一気に差をつめ、ターン3の進入でミックのインに飛び込んできました。ただターン4出口でミックに対してまったくスペースを残さなかったので、ミックはエスケープロードに逃げることになりタイムを5秒ほどロスしました。

 これは特にチームの現状を考えると、チームメイトに対する行為としてあまり褒められるものではありません。しかし、今回はレース後に話をすることはしませんでした。ニキータにはまず自分で考えて結論を出してほしいのですが、もしこの先もう一度このようなことがあればチームとして介入することになると思います。

 ニキータは特にミックに勝とうとすることにどうしても集中してしまいます。今年の目標はチームメイトとバトルをすることではないと何度もはっきりと言っているのですが、頭ではわかっていても、どうしてもそうなってしまうようです。これからニキータが成長していくには、この点は改善しないといけません。

 3連戦の残り2戦はオーストリアのレッドブルリンクで行われます。天候が荒れそうですが、少ないチャンスでもものにできるようにやってきたいと思います。

こんな記事も読まれています

スズキ「スイフトスポーツ」生産終了!? 貴重な「めちゃ安いMTハッチ」今後どうなる! 最後を飾る「特別なスイスポ」12月登場も「次期型」のウワサは?
スズキ「スイフトスポーツ」生産終了!? 貴重な「めちゃ安いMTハッチ」今後どうなる! 最後を飾る「特別なスイスポ」12月登場も「次期型」のウワサは?
くるまのニュース
一体なぜ? 自賠責保険への加入が必須の理由とは
一体なぜ? 自賠責保険への加入が必須の理由とは
バイクのニュース
これはリアビューカメラ? ジャガー、次世代EVコンセプトの新たな画像を公開
これはリアビューカメラ? ジャガー、次世代EVコンセプトの新たな画像を公開
AUTOCAR JAPAN
一般車両侵入でSS12中止のラリージャパン、主催者に約800万円の罰金! 執行猶予付き1600万円の追加罰金も
一般車両侵入でSS12中止のラリージャパン、主催者に約800万円の罰金! 執行猶予付き1600万円の追加罰金も
motorsport.com 日本版
日本に世界が注目!? 公道激走バトルの「ラリー」開催! 3年目の「ラリージャパン」どんな感じ? トヨタ会長が語る
日本に世界が注目!? 公道激走バトルの「ラリー」開催! 3年目の「ラリージャパン」どんな感じ? トヨタ会長が語る
くるまのニュース
新型3列シート電動SUV『アイオニック9』正式発表、充電中は4人が広々休憩も…ロサンゼルスモーターショー2024
新型3列シート電動SUV『アイオニック9』正式発表、充電中は4人が広々休憩も…ロサンゼルスモーターショー2024
レスポンス
全国に「警察軽トラ」配備へ なぜ? 警察庁初の取り組み、理由は? ダイハツ製61台を24年度中に導入! 各都道府県警察で運用
全国に「警察軽トラ」配備へ なぜ? 警察庁初の取り組み、理由は? ダイハツ製61台を24年度中に導入! 各都道府県警察で運用
くるまのニュース
転倒時にバイクを守る! エンジンガードは装着した方がいいのか?
転倒時にバイクを守る! エンジンガードは装着した方がいいのか?
バイクのニュース
『ランクル40 / 70』にもピッタリ! トーヨータイヤ『OPEN COUNTRY A/T III』がラインアップ拡充
『ランクル40 / 70』にもピッタリ! トーヨータイヤ『OPEN COUNTRY A/T III』がラインアップ拡充
レスポンス
寒いとバカっ速! ラスベガスで完勝ワンツーのメルセデス、懸念のグレイニングも一切出ず「不思議だね」とウルフ代表
寒いとバカっ速! ラスベガスで完勝ワンツーのメルセデス、懸念のグレイニングも一切出ず「不思議だね」とウルフ代表
motorsport.com 日本版
約99万円! トヨタ新型「“軽”セダン」発表! 全長3.4m級ボディで4人乗れる! 安全性向上&寒さ対策UPの「ピクシス エポック」どんな人が買う?
約99万円! トヨタ新型「“軽”セダン」発表! 全長3.4m級ボディで4人乗れる! 安全性向上&寒さ対策UPの「ピクシス エポック」どんな人が買う?
くるまのニュース
夢だけで終わらせたくない「マイ・バイクガレージ」 たぐちかつみ・マイガレージ回顧録 VOL.01
夢だけで終わらせたくない「マイ・バイクガレージ」 たぐちかつみ・マイガレージ回顧録 VOL.01
バイクのニュース
「(次期)セリカ、作ります!」ラリージャパン会場でトヨタ中嶋副社長が明言!! 開発開始を宣言、次期86も「出す」
「(次期)セリカ、作ります!」ラリージャパン会場でトヨタ中嶋副社長が明言!! 開発開始を宣言、次期86も「出す」
ベストカーWeb
スズキ・フロンクスが月販目標の9倍も受注! 絶好調な理由は小さくて安いのに感じられる「高級感」!!
スズキ・フロンクスが月販目標の9倍も受注! 絶好調な理由は小さくて安いのに感じられる「高級感」!!
WEB CARTOP
車載電池のノースボルト、米国で破産法を申請 事業継続にめど
車載電池のノースボルト、米国で破産法を申請 事業継続にめど
日刊自動車新聞
【初試乗!】さらにスポーティになった「メルセデスAMG GT 63 PRO」はポルシェとのGT対決に終止符を打てるか!?
【初試乗!】さらにスポーティになった「メルセデスAMG GT 63 PRO」はポルシェとのGT対決に終止符を打てるか!?
AutoBild Japan
レクサス新型「FF最大・最上級セダン」世界初公開に大反響! めちゃ“斬新グリル”&一文字ライト採用! “6年ぶり”に内外装刷新の「ES」中国に登場!
レクサス新型「FF最大・最上級セダン」世界初公開に大反響! めちゃ“斬新グリル”&一文字ライト採用! “6年ぶり”に内外装刷新の「ES」中国に登場!
くるまのニュース
20年前の個体なのに走行距離301キロ!? 555台の限定車 BMWアルピナ「ロードスターV8」がオークションに登場 極上車の気になる予想価格とは
20年前の個体なのに走行距離301キロ!? 555台の限定車 BMWアルピナ「ロードスターV8」がオークションに登場 極上車の気になる予想価格とは
VAGUE

みんなのコメント

この記事にはまだコメントがありません。
この記事に対するあなたの意見や感想を投稿しませんか?

査定を依頼する

メーカー
モデル
年式
走行距離

おすすめのニュース

愛車管理はマイカーページで!

登録してお得なクーポンを獲得しよう

マイカー登録をする

おすすめのニュース

おすすめをもっと見る

あなたにおすすめのサービス

メーカー
モデル
年式
走行距離

新車見積りサービス

店舗に行かずにお家でカンタン新車見積り。まずはネットで地域や希望車種を入力!

新車見積りサービス
都道府県
市区町村