本当の意味でのイノベーション
text:James Attwood(ジェームズ・アトウッド)
【画像】伝統と革新を両立した老舗ブランド【ベントレーのラインナップをじっくり見る】 全138枚
translator:Takuya Hayashi(林 汰久也)
イノベーションにはさまざまな形があるが、必ずしも先駆的な技術や画期的なハードウェアが必要なわけではない。真のイノベーションとは、生産活動ではなく、新しい働き方の発見、意思決定、プロセスの刷新に見られる場合がある。
この1年半ほどの間に、多くの企業が長年培ってきた仕事のやり方を再構築する必要に迫られた。しかし、自動車業界ではベントレーほど成功した企業はほとんどない。ベントレーは、7週間の操業停止と数か月間の販売中断を乗り切っただけでなく、昨年末には記録的な生産および販売台数を達成した。
その成功の鍵となったのは、ベントレーの危機管理タスクフォース(CMT)と執行役員会の決断と行動に示された革新性だった。新型コロナウイルスに立ち向かう同社の取り組みは、英クルー工場へのマスク、アクリル板、社会的距離、一方通行システムの導入にとどまらず、刻々と変化する不確実性の高い状況に迅速に対応するための「新しい働き方」を開発することに根ざしていた。
それは、昨年までの自動車業界、特にベントレーのような102年の歴史を持つ企業にとっては考えられなかったようなスピードで意思決定を行うことで実現した。
「3月に行われたある取締役会で、わたしは従業員用のジムを閉鎖し、拠点間の移動を停止することを提案しました」
人材・デジタル化・IT部門の取締役であり、CMTの議長を務めるアストリッド・フォンテーヌ博士はこう振り返る。
「取締役会は『なぜそんなことをしなければならないのか』と言っていました。それはある木曜日のことでしたが、翌週の木曜日には、工場を閉鎖して全員を帰宅させることで合意しました。それが、物事が進むスピードだったのです」
ベントレーが2020年3月19日に生産を停止した時点で、CMTは1日に何度も会議を開いていた。1回目の会議は、新型のSARS-CoV-2ウイルスが中国に与える影響を検討するために行われた。
「わたし達は、中国からの供給や、中国でのテスト走行、中国のお客様への影響を考えていました。しかし、なぜかわたし達自身には影響がないと思っていました」とフォンテーヌは言う。
多面的かつ迅速な意思決定
1年以上にわたるロックダウンと規制の後では、2020年に新型コロナがどれほど早く、予想外に、そして完全に世界を変えてしまったかを忘れてしまいがちだ。ベントレーのリスクとガバナンスのマネージャーであるスティーブン・ブランチャードは、次のように述べている。
「コロナの課題は、ビジネスに与える影響の大きさでした。もともと危機管理計画はありましたが、それは、例えばサプライヤーのデポでの火災のような、比較的小さな事故に焦点を当てたものでした。わたし達は、業務や販売への影響をすべて把握するために、危機管理計画を再構築する必要がありました」
CMTは6つの「バケット」に再編成され、それぞれが営業、IT、生産、コミュニケーションなど、ビジネスのさまざまな側面に焦点を当てた。また、パンデミックの期間中は、メンバーの構成も変わった。
「あのテーブルに集まった人々の多様性には驚かされました」とフォンテーヌは言う。
「さまざまな分野、役割、そして何よりもさまざまなレベルの人々が集まっていました。見習いも参加して、エイドリアン(・ホールマークCEO)が分析したり、話を聞いたりしていました。わたし達は、お互いの意見に耳を傾けるという包括的な姿勢を示しました。皆、人々と会社を守るという1つの目的のために動いていました」
新型コロナの感染が欧州で拡大するにつれ、CMTはますます頻繁に会合を持つようになった。「ベントレーにとって久しぶりの大きなチャレンジだった」とブランチャードは言う。「しばらくの間、テンポはずっと全速力でした」
3月19日までの1週間が最も激しかった。フォンテーヌは次のように述べている。
「IT部門では、リモートでの作業能力をテストするために3日間のパイロット作業を行いました。木曜日には何が起こるかわかっていたので、カフェテリアとスポーツホールをITサービスセンターに変えたり、同僚のマシンを最新のソフトウェアにアップデートするために総出で作業したりしました。まったく信じられないことでした」
「まるでステロイドを使ったような意思決定でした。毎朝、CMTの会議があり、毎晩、取締役会が更新されていました」
VWグループの見本となった対応
工場閉鎖の決定は、英国で最初のロックダウンが発表される前の週に行われたが、これはベントレーの積極的なアプローチをよく表している。
「役員会では、社員の安全を第一に考えていました。手に負えない状況になったのを見て、最初に考えたのは『全員を家に帰そう』ということでした。どのくらいの期間かはわかりませんでしたが、2~3週間くらいかなと思っていました。わたし達は社員を安全な場所に避難させてから、何をすべきかを考えることにしました」
何をすべきかを考えるには、イングランド公衆衛生局(PHE)、インペリアル・カレッジ、そしてフォルクスワーゲン・グループからの情報が必要だった。CMTの最初の安全計画では250以上の個別の対策が打ち出されており、それがやがてグループの兄弟ブランドにとって青写真のような役割を果たすようになった。
ベントレーは英国の自動車メーカーとして初めてPHEの新型コロナのリスクアセスメントを公表し、7週間後には生産を再開することができたが、当初は生産能力が50%に落ちていた。
安全性だけでなく、現場のスタッフが快適に過ごせるような環境作りにも力を入れた。例えば、休憩スペースのテーブルにプラスチック製のスクリーンを設置することで、同僚と近くで食事ができるようにした。フォンテーヌは、この対策には多くの創造性が必要だったと語る。
「スタッフはわたし達を信じてくれていました。不満の声は一言もありませんでした」
その信頼の一端は、もう1つの革新的なアプローチであるコミュニケーションにあった。広報チームは大きな転換を行い、時間の大半をマスコミや一般市民への宣伝ではなく、従業員とのコミュニケーションに費やした。
それは、現場にいないスタッフ(従業員の半数以上はリモートワーク中)とのつなりを維持するためであり、また、戻ってくるスタッフに何を期待しているのかを説明するためでもあった。
スタッフが現場で見たのは、ある意味、動く標的のようなものだった。ベントレーは、ウイルスに関する知識や政府のアドバイスが変わるたびに、対策を修正し続けた。ここでも、スピードと革新性が重視された。計画Aが失敗しても、計画B、C、Dなどがすでに進行しているように、ベントレーは複数の解決策に同時に取り組み始めた。
「わたし達はプロセス思考を学び、それぞれのトピックをプロセスとして捉えました。症状が出ていることをどうやって知るのか、その人の気持ちをどうやって知るのか。彼らの安否はどうやって判断するのか。孤立している人をどうやって見つけるのか。出勤できる人をどうやって見分けるのか。すべて『プロセスは何か』ということに帰着します」
鍵を握った「情報」の確保
ベントレーの決断の鍵となったのは、情報だった。英国の企業の中でもいち早く、現場の従業員やその家族を対象とした検査プログラムを実施。1万8000件以上に及ぶ検査結果は貴重な情報源となった。
検査結果の記録、症状の自己申告、スタッフによる懸念事項の匿名表示など、さまざまな機能を備えた一連のアプリを社内で開発した(作業の多くは実習生が行った)。これらのアプリを開発したことで、「ベントレーは自分たちの能力に対する大きな信頼を得た」とフォンテーヌは言い、もはやこのような開発作業を外注することはないとしている。
「グループ内でアプリのダッシュボードを完備しているのは当社だけです。リアルタイムの事実とデータをもとに、会社を直接ナビゲートすることができます」
「今でも、現場にいる同僚の数やリスクなど、現場のすべてを把握しています。同僚の稼働状況、隔離されている人、コロナの症例数、そして今では同僚の何%がワクチンを接種したかを追跡しています」
このような情報により、ベントレーはより良い計画を立てることができるようになった。例えば、データから第2波発生の可能性を予測し、それに応じて準備を整えられる。人手不足になりそうな生産エリアを特定し、対応する時間を確保することもできる。また、これまで生産を担当していたスタッフは再教育を、実習生はさまざまな分野でクロストレーニングを受けるなどして、柔軟な対応が可能になった。
その結果、ベントレーは自信を持てるようになったとブランチャードは言う。
「ビジネスとして、自分自身をもっと信頼できるようになりました。それは、物事への対応において、コロナ以外にも応用できます」
アプリケーションの開発やクロストレーニング以外にも、パンデミックの中でベントレーが見せた革新的な取り組みは、今後も継続されるだろうとフォンテーヌは述べている。
「社内でスタンドアップ・ミーティングを行うようになりました。また、コロナ以前から同僚の意見に耳を傾け、協力し合う文化がありましたが、それがさらに強調されるようになりました。よりオープンで、異なる意見に耳を傾けることを望んでいます」
地域社会への支援にも注力
昨年6月、最初のロックダウン後に工場が再開したとき、フォンテーヌは正門で生産スタッフの復帰を歓迎した。その時点では、ベントレーが販売と生産の記録を打ち立てることになるとは、「想像もしていなかった」という。
「とにかく信じられない、というのが本音です」
パンデミックが始まって以来、ベントレーは事業計画「ビヨンド100」を発表し、2030年までにEVのみのブランドとなることを目標に掲げた。また、大規模なリストラが行われ、800人のスタッフが自主退職となった。
彼女は、パンデミックの中でベントレーが自社と社員をマネジメントした手法を誇りに思っていると言う。
「後から考えると、どうやってうまくいったのか不思議に思うことがあります。信じられないような状況でしたが、わたしは同僚たちをとても誇りに思っています」
地域社会への配慮
ベントレーの新型コロナ対応では、自社のビジネスだけではなく、拠点を置くクルーやチェシャーといった地域のコミュニティ支援も行われた。最初のロックダウンの際、同社のIT部門は古いノートパソコンを再生し、Wi-Fiホットスポットとともに子供の家庭学習に必要な社員に提供した。また、地元の病院や介護施設に個人用防護具(PPE)を製作して寄付したり、隔離中の人に食べ物を届けたりした。
「わたし達だけではなく、地域社会全体のための活動です」と、アストリッド・フォンテーヌは言う。
また、ベントレーはチェシャー・コミュニティ財団と提携し、新型コロナ基金「Covid Recovery Fund」を立ち上げた。地域の非営利団体を対象に、食の貧困、メンタルヘルス、教育、債務救済に取り組むプロジェクトに最大2万5000ポンド(約386万円)の助成金を提供するものだ。
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