【立川祐路──スーパーGT最速男との記憶】（1）道上龍「僕たち世代のトヨタのナンバーワン」

　7月28日、2023年限りでスーパーGTから引退することを発表したTGR TEAM ZENT CERUMOの立川祐路。1997年にJGTC全日本GT選手権にデビューを飾り、2001年、2005年、2013年と三度のチャンピオンを獲得。さまざまな名勝負を演じてきたドライバーの引退発表は、大きな反響をもたらした。立川のキャリアの中で欠かすことができない存在である同世代のライバル、チームメイトたちに、立川、そしてその引退について聞いた。第1回目は、ホンダ陣営のエースとして立川と戦った道上龍だ。

■立川祐路はアコードにも乗っていた
　1975年生まれの立川に対し、道上は1973年生まれ。「僕の方が3つくらい上だったかな。彼のことを初めて知ったのは、僕が1994～95年にナウモータースポーツで全日本F3を戦うために広島に住んでいたときですかね」と道上は立川との思い出を振り返った。

「2年目のとき（95年）に立川が広島に来て、ナウモータースポーツに所属して、フォーミュラトヨタ西日本シリーズに出はじめたんですよね。その時は、僕の記憶だとフランスのラ・フィリエール（レーシングスクール）から帰ってきたときで、どこだかの媒体が立川をナウモータースポーツに紹介したんです。僕はちょうどF3の2年目で、途中ナウが関係していたチームでF3にも出はじめたんです」

「カートでは大井松田とかで走っていたと思うんですが、そこまで上のカテゴリーでやっていたわけじゃないし、初めて知ったのはそこですね。ただ僕も広島にいたのはその1年まででしたし、立川も1年間だけだったんじゃないかな。僕はもともとカートでやっていたから、本山（哲）さん、虎ちゃん（高木虎之介）、（脇阪）寿一もカートで知っていたけど、立川祐路は広島で初めて知った感じですね」

　とはいえ、道上は立川に対して「カートの経験がそこまで多くない中で、ヨーロッパに行っていましたし、そのときから速いヤツだなという印象」があったという。その後も立川と道上はしばしば同じ場で会うことになる。

「その後僕はツーリングカーに出たりしたんですが、たしか立川は服部（尚貴）さんが目をかけて、事務所に所属したことがあったはずですよ。1年くらい所属していて、服部さんがアメリカでインディライツに出るにあたって（1997年）、その年の前にJTCC（全日本ツーリングカー選手権）のホンダ・アコードも乗ったりしたんですよ」

「僕は童夢が走らせていた研究所の真っ白のアコードを走らせて、立川は服部さんが1996年まで乗っていたジャックスカラーのアコードに乗ったりしていました。だから立川がもしかしたら服部さんの後釜になるのかな、と思っていたら、僕が乗せてもらえることになって。いろいろな話もあったと思うんですが、そこが僕がムーンクラフトとレースをやるきっかけになりました」

　もしこの時、立川がアコードでJTCCを戦っていたら、ひょっとするとその後の立川はホンダドライバーになっていた可能性もあったのかもしれない。ちなみに、服部がサポートしてステップアップしたドライバーと言えば今の立川のチームメイトである石浦宏明が挙げられるが、立川は知られざる『Team NAOKI』出身ドライバーなのだ。これも不思議な縁だ。

　立川は1997年に服部のサポートもあり、TODA RACINGから全日本F3に参戦。1998年にはフォーミュラ・ニッポンにもデビューする。「立川がスポット参戦で乗ったレイナードをムーンクラフトで買って、1998年に僕がフル参戦したりしたんですよ。そのあたりからトップフォーミュラでも争うようになりましたね」と道上は振り返った。

　2004年には、KONDO Racingで道上と立川はチームメイトにもなった。「近藤（真彦）さんからの誘いもあってチームに入りました。その年はル・マン24時間に出場させてもらいましたが、立川とはそこで初めて組みました。速かったですよ」と道上。

「左足ブレーキの魔術師……じゃないですけど、当時は立川が左足ブレーキを国内で流行らせたようなものですからね。今では当たり前ですけど」

■「あの年齢でGT500で走り続けたことは本当にすごい」
　一方で、道上はホンダのエース格として2000年にCastrol無限NSXを駆りチャンピオンを獲得。立川は1999年にセルモに加わり、2000年にはGT500で初優勝も飾った。「僕の立川の印象は、今の富士スピードウェイよりも、古いレイアウトの富士でのスープラでの走りが印象的でしたよね。人よりも100Rを小回りで走ったり、そういうイメージ」だと道上は語った。

「やっぱり脅威でしたよ実際。うしろに迫られたりするとすごくプレッシャーを感じましたし、前に出たらミスをしなかったですから。ドライビングとしては、ブレーキングはかなり深くいって、クイックに曲がるドライビングをする印象がありました」

「あの当時のスープラは本当速かったな。上手でしたね」

　ふたりはその後も長年、GT500クラスで争っていくことになるが、道上は2017年限りでGT500から退いており、その後WTCCで世界を舞台に戦ったり、GT300で戦ったりと、ふたりが争うシーンは観られなくなってしまった。

「僕はもうGT500に乗らなくなってかなり経ちますけど、今のGT500はすごく速いじゃないですか。フォーミュラ並みに速いあのクルマによく乗れてきたな、と思います。今回スーパーGTは引退ということで、他のカテゴリーに乗るのか……でも立川ならもう他は乗らないのかな。良いかたちで終える方が彼には合うとも思いますね」と道上は言う。

「残りのシーズン、立川らしい走りをみせてもらいたいです。僕自身もそうですし、本山さんのときや寿一のときもそうでしたが、まだまだやれるんじゃないかとも思っちゃいますけどね。もちろん若いドライバーがどんどん出てくるなかで、年を取ったドライバーが抜けていかなければ……というのはあるとは思うんです。僕もホンダでそれは感じていましたし」

「僕自身も、止めどきは分からないです。若いドライバーがきても負けている感覚はなかったですし、正直、僕は正式に引退はしていないんです。まあ事実上引退なんですが、記者会見をして引退するというタイミングを逃してしまったところはあるんですけどね。立川自身が止めたいということであれば、もうそろそろしんどくなってきたんだと思います。だって、プロ野球で考えたらあの年齢で現役でやるのは大変ですよ」

「彼が今後どうするかは分かりませんが、やっぱりあそこまでGT500で走り続けたことは本当にすごいと思います。乗り続けなければたぶん乗れないし、一度止めたらまた乗るのはすごく大変。そこまでやり続けたのはすごいことですよ。あのスピードですからね」

　道上はすでに現役時代からチームを興し、レーシングカートからフォーミュラ等、さまざまなカテゴリーで戦っている。道上は立川の今後にも期待を寄せる。

「あれだけの経験がありますし、スーパーGTの酸いも甘いも知ってるわけですよね（笑）。今後若いドライバーたちに、立川が指導できることを伝えていってもらえたらと思いますね。それで何かのレースにスポットで出てくれてもいいですし」と道上。

「ちょっと寂しいですけどね。だんだん同世代のみんなが乗らなくなって、立川もですから。年が近いから余計かもしれませんけど。でも立川祐路と言えば、トヨタのなかでもナンバーワンです。当時の彼を知っているからこそ、今の速い若手を知っていても、今も僕の中で、僕たちの世代のナンバーワンは立川でしたね。そのイメージは強いです」