岡山国際サーキットで行なわれたスーパーGT公式テストでは、61号車SUBARU BRZ R&D SPORTの第3ドライバーに奥本隼士が登録された。スーパー耐久、さらにはFIA F4までフォローしているモータースポーツファンであれば、その名前を知っているかもしれないが、彼が国内トップカテゴリーのエントリーに名を連ねたのはこれが初めてだ。
奥本は、“ラジコン出身レーサー”という類を見ない経歴を持っており、レースを始めてからわずか数年、それまではカート経験すらなかったという異色の存在。彼にここに至るまでのストーリーを聞いた。
■昨年はポール2回獲得も表彰台1回のみ&タイトル戦線に加われず……スバルBRZがあと一歩伸び悩んだ要因とは?
大阪出身の奥本は、11歳でラジコンレースの世界大会で優勝。学生時代は陸上競技で活躍した。レースが大好きな“レースオタク”だったものの、金銭的にも簡単なものではないと理解していたため、ドライバーとしてその世界に足を踏み入れることはなかった。しかし大学卒業のタイミングで一念発起。「ここで言わなければ後悔が残る」との思いで両親にもその意向を伝え、2021年7月からレース活動を始めることになった。
そして大阪を拠点とするTEAM HERO’Sと縁があり、2021年はレーシングカーのVITAをレンタルしてレースに参戦。鈴鹿サーキットで行なわれた日本一決定戦では、ポールポジションを獲得しセミファイナルでも優勝するなど、いきなり才能の片鱗を見せた。
プロドライバー、スーパーGTのドライバーになるためには「F4をするしかない」ということで、2022年にはTEAM HERO’SからFIA F4に参戦する傍ら、TGR-DCレーシングスクールも受講。2023年には晴れてTGR-DC RSの育成ドライバーとしてF4に参戦することが叶った。
この時すでに25歳。異色の経歴も注目されて育成ドライバーに選出されたが、他の10代のドライバーよりも1年目から結果が求められる中で、表彰台2度を記録するもランキング9位。育成プログラムは1年で終了になった。「色々な経験をさせていただいて勉強になったし、去年の活動がなければ今回の(スーパーGTの)チャンスもいただけなかったと思うので、関わってくださったみなさんのおかげです」と奥本は言う。
「ただ、ここから先は自分でどうにかするしかないという思いがありました」
その思いは行動に繋がった。2月に岡山で行なわれたGT3専有走行枠で突撃営業をかけ、GR86/BRZ Cupで繋がりがあった井口卓人に直談判したのだ。
「『すみません! 営業しに来ました!』と言うと、『おもしれーじゃん』みたいな感じで(笑)」と語る奥本。井口のスーパーGT所属チームの首脳陣であるR&D SPORT澤田稔監督、STI小澤正弘と話をするチャンスを得たが、そこでもその異色のキャリアは関心を引き、61号車のオーディションドライバーとしてテストに参加するに至った。
「本当に現実かな? と思うくらいで、今が夢のようです」と笑顔で語る奥本。初めてのGTマシンの感想も「速すぎて、語彙力がなくなるくらいです」と興奮気味であった。
テスト初日の走行でルーキーテストにも合格。翌週の富士テストにも参加予定だ。「そこでの走りも踏まえて、あとはSTIさんとR&D SPORTさんにどう判断していただくかです。とにかく目標は高く持って、レギュラードライバーさんから学んでいきたいです」と意気込んだ。
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