5月11日(土)、ベルギー東部に位置するスパ・フランコルシャン・サーキットでWEC世界耐久選手権第4戦『スパ・フランコルシャン6時間レース』の決勝レースが行われた。
ハイパーカーとLMGT3の両クラスでトップが逃げ打つ展開となるなか、トラックの各所でバトルが展開されたことで、接触や目を覆いたくなるような大きなクラッシュが複数回発生するなど荒れた展開となったWECスパ。2時間近くにわたった赤旗中断の後、異例の“延長”という判断がなされた一戦では、運を味方につけたハーツ・チーム・JOTAの12号車ポルシェ963が、チームのハイパーカーデビューからちょうど1年の節目に総合優勝を果たした。
オー・ルージュでトヨタらを続々オーバーテイクのルーキー「完璧なレース。赤旗がチャンスを奪っただけ」プロトン大躍進
そんなスパ・フランコルシャンの決勝後のパドックから、各種トピックスをお届けする。
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■35年ぶりの快挙達成
ハーツ・チーム・JOTAのWECスパでの優勝は、多くの点で画期的なものとなった。ウィル・スティーブンスとカラム・アイロットは、トヨタのセバスチャン・ブエミとアンソニー・デビッドソンが2014年の上海で達成したとき以来初めて、ふたりのドライバーで総合優勝を飾ったクルーとなった。
また、イギリス籍のチームの総合優勝は現行シリーズで初めてだったことに加え、イギリス人クルーのみの勝利も、2017年の上海で当時チップ・ガナッシ・レーシングのフォードGTをドライブしていたアンディ・プリオールとハリー・ティンクネルのペアがLMGTEプロクラスで記録して以来の出来事となっている。
スティーブンスにとって初の総合優勝は、WEC通算では7度目の勝利だ。彼はこれまでにLMP2で5回(Gドライブ・レーシングとジャッキー・チェン・DCレーシングのバナーの下での勝利を含め、すべてJOTAとともに成し遂げた)、LMGTEアマクラスで1回優勝している。後者の舞台はJMWモータースポーツから参加した2017年のル・マン24時間レースだ。
プライベート参戦のポルシェが世界選手権イベントで総合優勝を収めたのは、実に35年ぶり。1989年のクープ・ド・ディジョンが最後で、フランク・イェリンスキーとボブ・ウォレクが、ヨースト・レーシングのポルシェ962Cでその年の世界スポーツカー選手権第2戦で優勝した。
レース後の記者会見で、アイロットはWEC初勝利を亡き友人で元GP3チームメイトのアントワーヌ・ユベールに捧げた。ユベールは2019年にスパで行われたFIA F2のレース中に起きたクラッシュによって命を落とした。
LMGT3でのマンタイEMA(91号車ポルシェ911 GT3 R)の優勝は、ポルシェのファクトリードライバーであるリヒャルト・リエツにとって2022年のル・マン以来となるWECでの勝利となった。このオーストリア人にとって初のLMGT3クラス優勝は、奇しくも彼がLMGTEプロクラスで2012年に初優勝を飾った場所で果たされた。
チームメイトのヤセル・シャヒンは、マット・キャンベルに続きGTマシンを駆りWECで優勝したふたりめのオーストラリア人ドライバーとなった。オランダ人のモリス・シューリングは、同胞のジェロエン・ブリークモレン、ラリー・テン・ボーデ、ニッキー・キャツバーグの足跡をたどった。
■ロッテラー組が依然ランキング首位をキープ
ケビン・エストーレは、ポルシェ・ペンスキー・モータースポーツが最後のピットストップで6号車のタイヤを4本交換し、ハーツ・チーム・JOTAに11秒のアドバンテージをもたらしたことは、勝利を掴み取るための戦略的なサイコロの出目のようなもの、つまり運次第で逆転もありえたと示唆した。「彼らがおそらくタイヤを2本交換するだろうということは分かっていた」と彼は語った。「では、彼らのタイヤの状態が、我々よりも悪化することをどうして期待しないのだろうか。しかし、彼らはうまく持ちこたえたようだった」
スパで6号車ポルシェが2位に入ったことで、エストーレ/アンドレ・ロッテラー/ローレン・ファントール組はチャンピオンシップポイントを「74」へと伸ばし、今大会の活躍でランキング4位から2位に浮上したスティーブンスとアイロットを22ポイント上回った。
マニュファクチャラー選手権で首位につけるポルシェは、2位のトヨタを23ポイントリードしている。フェラーリはさらに11ポイント足りずランキング3位だ。
レース前半に快走を見せ、後半に入っても表彰台を狙える位置にいたプロトン・コンペティションは、ニール・ジャニがハンドルを握っていたセーフティカーピリオド中に左側のドアに不具合が生じ、99号車ポルシェ963のドライバーはドアを閉めるために悪戦苦闘した。同車にはオレンジディスクが掲げられたが、その後ジャニが自力でドアを閉めることに成功したためピットインの指示は取り消された。
ジャニは次のように回想した。「どういうわけか(ドアが)閉まらなかった。僕はクルマの速度をかなり落とそうとしていた。そうしないとコクピット内が真空状態になってしまい、閉めることができないためだ。(何度もトライして)ようやく閉じることができた。(最終的には)指でピンを押して外し、ハンドルを引いて放す必要があった。機構の中で何かが壊れたんだ」
■トヨタでミスコミュニケーションが発生
TOYOTA GAZOO Racingの平川亮は赤旗が出る直前の最終シケインで、自身が8号車をドライブしニック・デ・フリースが7号車を走行していた際に、2台のトヨタGR010ハイブリッドの間で予定外のポジション変更があったことを明らかにした。
彼らは異なるタイヤ戦略をとっていたため「彼はよりペースを持っていた」と平川はSportscar365に語った。「僕は他のクルマの後ろで立ち往生していましたが、彼は驚くべきことに8号車を追い越しました。正直に言うと、それは少し物議を醸しました。コミュニケーションの行き違いがあり、僕は彼があんな風に抜きに掛かってくるとは予想していませんでした」
トヨタ7号車と8号車の順位は、前者をドライブした小林可夢偉がアイアン・デイムスの85号車ランボルギーニ・ウラカンGT3エボ2と接触し、5秒のタイムペナルティを科されたことで事実上逆転した。平川は次のように総括した。「(8号車は)明らかにペースがなく、他のクルマをオーバーテイクするのが本当に大変でした。僕のスティント中にはブレーキの問題があったのでさらに苦戦しましたが、6位に戻れてうれしいです」
2台のトヨタはレース中に3つのペナルティを受けた。8号車はフォーメーションラップ中にフロントERSのエネルギー量が上限を超えたとして5秒ストップのペナルティを科され、7号車は前述のものに加えてバーチャル・セーフティカー時の速度違反でドライブスルーペナルティを受けとった。
■ハプスブルク、次戦ル・マンで復帰へ
アルピーヌの36号車A424は、トップの51号車フェラーリから1周遅れていたため、レース再開後のSCラン中のパスアラウンドの対象外となった。マシュー・バキシビエールは次のように語った。「長い中断を伴うレースでのこの結果には満足しなければならない。残念ながら我々の戦略は少し違っていたため赤旗により1周のロスが発生し、その後挽回するのは非常に困難だった」
アルピーヌ・エンデュランス・チームを運営するシグナテックのフィリップ・シノー代表は、テスト中のクラッシュによって腰椎骨折し過去2レースを欠場していたフェルディナンド・ハプスブルクが、ル・マン24時間レースに先立って行われる次のテストでチームに復帰することを明らかにした。
プジョーのテクニカルディレクターであるオリビエ・ジャンソニも同様に、フランスのメーカーが来月開催されるル・マンまでの間に、非公開で2日間のテストを計画していることをレース後に明かした。
チームWRTは不運な“もらい事故”によってLMGT3で両方のクルマを失ったことに加え、ハイパーカークラスでは総合11位と13位という厳しいホームレースを経験した。BMW Mモータースポーツ・ディレクターのアンドレアス・ルースは、ベルギーのチームは「単純にミスが多すぎた」と指摘した。
もっとも注目すべきは、ラファエル・マルチェッロのピットレーン違反により15号車BMW MハイブリッドV8が30秒のストップ&ゴーペナルティを受けたことだ。WECが公表したスチュワードの文書には、スイス人ドライバーが「間違ったガレージに入り、ピットレーンでリバースギアを使用した」と記載されている。
■レクサスが初入賞を果たす
LMGT3クラスのランキングを確認すると、首位で第3戦にやってきたマンタイ・ピュアレクシング(92号車ポルシェ911 GT3 R)のアレクサンダー・マリキン/ジョエル・シュトーム/クラウス・バハラー組はスパで2位表彰台を獲得した後、チームWRTの両クルーやハート・オブ・レーシングチームがポイントを獲得できなかったのことが一層の助けとなり35ポイントという圧倒的なリードを築いた。
ユナイテッド・オートスポーツは、グレゴワール・ソーシー/ニコラス・コスタ/ジェームス・コッティンガム組(59号車マクラーレン720S GT3エボ)が4位となり、このクラスでのベストリザルト更新した。
姉妹車の95号車マクラーレンはジョシュ・ケイギルが予選2番手を獲得していたが、重量違反で後方グリッドに追いやられ、決勝では最終的にギアボックスのオイルが切れてリタイアに追い込まれた。
プロトン・コンペティションは、ジョルジオ・ローダ/ミッケル・O・ペダーセン/デニス・オルセン組がクラス8位でフィニッシュし、フォード・マスタングGT3によるこれまでの最高位を獲得した。
レギュラー2名を欠き宮田莉朋とクレメンス・シュミットを迎えたアコーディスASPチームの78号車レクサスRC F GT3は、代役のふたりとアーノルド・ロバンが10位に入り、チームに初のチャンピオンシップポイントをもたらした。
■9万人に迫る来場者数を記録
スパ6時間レースの完走車は全部で29台だった。これは2021年のバーレーン8時間レース以降でもっとも少ない数だ。当時のレースでスタートを切ったマシンはわずか31台だったが、先週末は37台がグリッドについていた。
WEC主催者の発表によると、スパ・フランコルシャンを訪れたファンの総数は3日間で8万8180人を数え、ル・マン24時間レース以外ではシリーズ新記録となり、前戦イモラで樹立されたこれまでのベンチマークである7万3600人を上回った。
しかし、混雑により周辺道路では最大3時間の大幅な遅れが発生した。フランコルシャン村からサーキットに向かう大通りで道路工事が行われていたことも影響した。
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