F1パイロット、アロンソからの挑戦状
ことの発端はアストン マーティン・アラムコ・フォーミュラ1チームのドライバーであるフェルナンド・アロンソ選手の「軽量で過激さを増した、レーシングカーの要素を取り入れたヴァラーが欲しい」という個人的な依頼がきっかけだった。
【画像】世界38台の限定車、アストン マーティン・ヴァリアントを早速チェック 全59枚
それをアジア太平洋地域のQスペシャルプロジェクトのトップ、サム・ベネッツさんは、「アロンソ選手からの挑戦状」と表現する。
ヴァラーは、アストン マーティン創立110周年を記念し、110台限定でつくられたクルマで、5.2リッターV12ツインターボエンジンと6速マニュアルトランスミッションを組み合わせた後輪駆動のスペシャルエディションだ。
V8ヴァンテージや1980年に登場したヴァンテージ・ベースのル・マン出場車「RHAM/1マンチャー」にインスピレーションを得て開発されたこのクルマは、715ps/76.8kg-mのパワーを発生するドライバーズカーである。
それをベースにヴァリアントは生まれた。その違いについてサムさんは、「ヴァラーを公道走行90%、トラック走行10%をターゲットに開発したとすれば、ヴァリアントは、90%トラック走行、10%が公道走行にフォーカスして開発したもの」とコメント。
そこから、ボディワークをはじめ重量やパワー、サスペンションなどを決定していったので、よりマンチャーのイメージに近づいたともいえる。
ボディもヴァラーとは変えて、約95kg軽量化
まず、エンジンの基本は変わらないものの、最高出力は715psから745psにパワーアップ。
ボディは全てカーボンファイバー製で、ルーフとドア周りを除いて、Aピラーから後ろは一体成型とされ、トランクの開口部も廃された。
そのかわりにリアウインドウあたりにヒンジ開閉のリアスクリーンパネルが設けられ、ふたつのヘルメットとレーシングブーツが収納できるようになっている。また剛性の観点からフロントグリルも取り外せない一体構造体とされた。
さらに、F1の知見から空力特性も見直され、フロントスプリッターや固定式の大型リアウイング、そしてサイドスカートなどを装備し、大幅にダウンフォースを向上させている。
もちろん軽量化も抜かりない。3Dプリンター製作のリアサブフレームを採用することで、剛性を下げることなく3kgの重量を削減。
同時にマグネシウム製トルクチューブによって車両中央部の質量を8.6kg削減している。フロント275/35、リア325/30のタイヤを装着する21インチの軽量マグネシウムホイールは、ステアリングレスポンスとホイールのコントロール性が向上し、バネ下重量も14kg削減。さらに、モータースポーツ仕様のリチウムイオンバッテリーによって11.5kgの削減も実現でき、そのほかのものと合わせてトータル95kgほどの軽量化に成功している。
サスペンションもヴァラーから見直され、マルチマティック社製アダプティブ・スプール・バルブ(ASV)ダンパーが装着された。通常のダンパーはシムの穴にオイルが流れることによって、その抵抗でダンピングを調整する仕組みだ。
一方ASVは、32個あるこの穴にシャッターを設け、オイルの流れをコントロール。結果として伸び側と縮み側を個別に調整することを可能としたのだ。これはすべて電子制御にて6ミリ秒で調整。同時にドライバーが手元で3段階の調整も可能としている。
また、ドライブモードもSport、Sport+、Trackが設けられ、ドライバーの好みに応じてエンジンパフォーマンスがコントロールできる。
フェルナンド・アロンソも実際に購入
ヴァリアントの開発において、最も重視されたのは「フィーリング」だとサムさんはいう。
それはドライビングだけでなく、目から入るものも大切にされた。例えばシースルーのギアのリンケージもそうだ。「このクルマのメカニカルな部分を目にすることで感情的にもクルマとのつながりを持つことができるだろう」とコメント。
当然そのシフト感覚も、しっかりとした手ごたえとともに小気味よさも追及されているという。ステアリングは真円でステアリングスイッチ類もなく、ドライビングに集中できるように配慮されている。
デリバリーは2024年第4半期に始まり、既に38台のユーザーはほぼ決まっているようだ。その中のひとりはフェルナンド・アロンソ選手。サムさん曰く、「ギフトではなく実際にお金を払って購入していただいている」とし、スペックの詳細は明らかにされなかったが、「特別な仕様」とのことだった。また、日本にも割り当てがあるようなので、いつか見られる機会が来るかもしれない。
ヴァラーですら過激なドライバーズカーだと感じていたが、それをはるかに上回るのがこのヴァリアントだ。
実際にサーキットで振り回す機会は皆無に等しいだろうが、グッドウッド・フェスティバル・オブ・スピードでアロンソ選手がステアリングを握った際、終始笑顔だったことを聞くと、腕に自信のあるドライバーにとって相当楽しいマシンに仕上がっているようだ。
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みんなのコメント
リアはほとんど同じだけど適当にデザインされたような素っ気なさでちょっと勿体ない
でもアストンは一度破綻したメーカーだけどよくここまで復活したものだね
ブランド力がいかに大事かよく分かる