Mercedes-Benz GLE Coupe
メルセデス・ベンツ GLE クーペ
新型メルセデス・ベンツ GLE クーペに渡辺慎太郎が試乗! 打倒X6の真相を探る
最大のライバルはBMW X6
過日ここで公開したメルセデス・ベンツGLBの国際試乗会はスペインのマラガで開催された。クリスマスを控えて冷え込んできたドイツを避け、この時期でも温暖で天気の良い日が多いスペインをあえて選んでくれたようだけれど、あいにく連日雨で寒くて濃霧まで出る始末だった。
そんなガッカリなマラガからフランクフルト経由で向かったのは、アルプスの麓で見上げる山肌がすでに白く色づいているオーストリアのインスブルック。新型GLE クーペの国際試乗会の舞台として選ばれたのは白銀の世界だった。
“Mクラス”を名乗っていた3代目(W166)の途中から“GLE”と車名を変更したのが2015年。その翌年に派生モデルとしてGLE クーペが登場した。GLEに改名してから2代目となる現行モデルは2018年のパリ・サロンでお披露目され、2019年9月のフランクフルトショーで新型GLE クーペがワールドプレミアとなった。
奇しくもこのフランクフルトで新型がワールドプレミアとなったBMWのX6は、かつてGLEにクーペボディを追加する決断をメルセデスに迫ったモデルである。BMW自身も「こんなに売れるとは思ってもみなかった」というX6は、SUVのクーペという新しいジャンルの先駆者的存在であり、他のメーカーが慌ててそれに追従した。つまりGLE クーペの仮想敵は疑う余地なくX6であるものの、あちらはすでに3代目となった。
「GLE比でホイールベース60mm短縮」の意味
さすがにここまでクーペスタイルのSUVが増殖すると、そういう格好のボディに載せ替えただけでは商品力に乏しい。まったく新しいひとつの商品、1台のクルマとして、きちんと作らなくてはいけないと考えたメルセデスは、新型GLEクーペのホイールベースをGLEよりわざわざ60mmも短くして、ハンドリング面での差別化を図った。
それでも先代のGLE クーペより全長で39mm、全幅で7mm、ホイールベースで20mmプラスとしているのは、主にキャビンスペースの拡大やリヤの乗降性の向上を狙ったからだという。確かに後席への乗降性は従来型よりも改善されていたが、ヘッドクリアランスは拳ひとつがギリギリ入る程度しかない。この手のクルマを購入する方にとってはおそらくたいした問題ではなく、それが不便と感じるならGLEをどうぞということだろう。
全幅2010mmという大迫力
それにしても2010mmの全幅は、このクルマの大きさを必要以上にアピールする。最初の対面で“デカイ”と思い、それでもそのうち見慣れてくるだろうと想像したが、やっぱり最後まで第一印象は変わらなかった。
今回は試乗ルートの後半が雪上で、右側には雪壁や雪の積もった路肩があったので、ホイールやタイヤをそれに当てないよう常に気を遣うドライブを強いられた。右側通行の左ハンドル、あるいは日本のような左側通行の右ハンドルでは道路端が運転席から遠い位置にあるため、全幅の広いクルマや大きなホイールを履くクルマの運転は慎重にならざるを得ない。GLE クーペの場合は全幅が広くホイールも大径なのでなおさら気になった。
デザイン至上主義ではなく機能性も重視
ボディが大きくなったので当たり前ではあるけれど、ラゲッジスペースも広くなった。通常の状態で655リッター、後席のバックレストを倒せば(40:20:40)最大1790リッターまで拡張できる。この時の前後方向のスペースは従来型と比較して+78mmで約2mとなり、左右方向にも72mm広がって荷室幅が1106mmとなった。
ラゲッジルームのフロア高は従来型より59mm低くなって荷物の積み降ろしがしやすくなり、エアサスペンション仕様車であればボタンひとつでさらに50mm下げることができるそうだ。クーペボディは居住性や機能性よりもデザインを優先している、というイメージの払拭を試みたと思われる徹底した改善である。
ディーゼルHVとAMGもラインナップ
現時点におけるGLE クーペのパワートレインはOM656型と呼ばれる3リッターの直列6気筒ディーゼルターボが2種類で、「350 d」は272ps/600Nm、「400 d」は330ps/700Nmを発生する。来年には、2リッターの直列4気筒ディーゼルにモーターを組み合わせたハイブリッドの「350 de」が追加導入される。
今回の試乗会で試すことが出来たのは「400 d」と「350 de」の2モデル。AMGのGLE 53クーペも用意されていたがクジ運が悪いのか、試乗のチャンスが巡ってこなかった。なお駆動形式はすべて4マティックである。
非の打ち所がない直6ディーゼル
400 dの積むOM656型ディーゼルエンジンは、近年のメルセデスの中でも出色の出来栄えだと思っていて、これを積むSクラスやGクラスをドライブすると、エンジンの良さばかりが際立って他のことに意識がいかなくなるから困る。
“ディーゼル感”をまったく感じさせず、“チョクロク”らしい振動の少ない滑らかな回転フィールを持ちながら、低い回転域から潤沢なトルクがあってどの速度域でも力強く瞬発力もあるという非の打ち所がないユニットである。だから新型のGLE クーペにやっと乗れたというのに、運転を始めてしばらくは「うーやっぱりこのエンジンはいいわ」とそっちばかりが気になってしょうがなかった。
GLEとGLE クーペは明らかに違う
あらためて操縦性や乗り心地などをチェックするものの、実はこの時点で自分は最新のGLEにまだ試乗しておらず、先にクーペのステアリングを握ることになってしまっていた。帰国してからGLEに試乗したので、マラガではGLEとの差異を想像しながらずっとドライブしていた。
結果から申し上げると、GLEとGLE クーペは格好だけでなく、乗り味でもきちんと差別化が図られていた。この差は、ポルシェ・カイエンとカイエン クーペよりも明確だと個人的には思っていて、GLEはゆったり乗れるSUV、GLE クーペはスポーティな走りも楽しめるSUVに仕上がっている。
すべてに「理由」があるメルセデスの流儀
スポーティというのは主に操縦性に関する印象で、端的に言えばよく曲がるSUVである。よく曲がるといってもいたずらにステアリングゲインが高いわけではなく、切り始めにわずかな“間”があったり、あくまでもステアリング操作に忠実にボディが動くところはGLEとほとんど変わらない。その上で、旋回姿勢が整うまでの過渡領域はクーペのほうが早くスムーズだ。わずか60mmとはいえ、ショートホイールベース化が回頭性に与える影響の大きさを改めて思い知らされた。
切り始めの“間”について、もう少し詰めたほうがよりスポーティな印象が強くなるのではないかとエンジニアに聞いたところ、「メルセデスSUVの乗り味の基本はGクラスなんです。ボディのサイズやカタチやパワートレインが変わろうと、全体的な味付けはGクラスの延長線上にあるよう意識的にそうしています」とのことだった。相変わらず、メルセデスにはそうなっている理由がちゃんと存在する。
姿勢変化を制御する最新のサス機構
GLE クーペには3種類のサスペンションが用意されている。金属ばねを用いた仕様、空気ばねと電制ダンパーを組み合わせたAIRMATICサスペンション、そして今回の試乗車に組み込まれていたE-ACTIVE BODY CONTROLである。
E-ACITVE BODY CONTROLはGLEと共にデビューしたまったく新しい機構のサスペンションシステムだが、日本仕様のGLEには採用されておらず、自分は初体験となった。
基本となるハードウェアはAIRMATICサスペンションに酷似しているものの、4輪それぞれにひとつずつ電制油圧式オイルポンプを配置して、ダンパーの減衰力のみならずピストンのストローク量まで可変する。本来、車高の調整はエアサスペンションの空気ばねを制御することで行うが、このシステムはダンパー自体でも車高調整が可能だという。つまり、ばねレート/ダンピングレート/車高を4輪別々にコントロールできるという代物である。これにより、ピッチ/ヨー方向のみならず、ダイブ/スクォートといった姿勢も制御する。
ハンドリングや乗り心地に対しては、アクティブサスペンションのような効果を発揮する。現に、ABCと呼ばれるSクラスなどに装備されるセミアクティブサスペンションで使える「Curve」モードも備えていて、コーナーリング中にアウト側のボディを瞬時に持ち上げて水平を保とうとする。
また、ディストロニック用のステレオカメラを使い、前方の路面状況をモニターしてこれから遭遇する路面入力に対して最適なサスペンションセッティングをあらかじめ準備するROAD SURFACE SCANも装備している。さらに、砂漠などで完全にスタックした場合は、4輪を別々に何度も上下させることで砂にかかるタイヤの荷重を変化させ、トラクションを回復して脱出する機能も備わっている。動画を見せてもらったが、週末に橫浜の大黒ふ頭辺りに集まるアメ車のホッピングのように、まるで4輪が飛び跳ねるかのごとく動いて見事に砂地から脱出した。
次期Sクラスへの布石となる可能性は?
このシステムの重要なポイントは、昇圧した48Vで電気的に作動させているところにある。48Vのほうが反応時間が早く、エンジンから動力源をとっていないので、出力損失や燃費の悪化も避けられる。また、エンジニアによれば「SクラスなどのABCはひとつの油圧ポンプで4輪を制御していますが、こちらは4輪それぞれに電制ポンプがあるので、それだけでも反応時間の短縮に貢献しています。4つのポンプを置くスペースさえ確保できれば、SUVだけでなくセダンなどにも転用可能です」とのことだった。
ABCは登場してすいぶんと長い年月が経過している。E-ACTIVE BODY CONTROLがABCに取って代わるのか、あるいは次世代のABCがお披露目されるのか。2020年にはSクラスのフルモデルチェンジが控えているので、真相はその時判明するだろう。
日本発売時の価格は1500万円前後か?
350deは4気筒ディーゼルとモーターを組み合わせたハイブリッドで、外部充電も可能なプラグインでもある。リヤアクスル上部に31.2kWhのリチウムイオン電池を搭載し、航続距離は最大100kmという。システム出力は320ps、システムトルクは700Nmで、パワースペックは400 dと同等である。
メルセデスはずいぶん前からハイブリッドの実用化を進めてきたが、この最新のディーゼルハイブリッドはモーターのみ/エンジンのみ/モーターとエンジン併用のつなぎ目がほとんど分からず、動力源のバトンタッチが以前よりもずっとスムーズになっていた。
モーターはATのトルクコンバータ部分にクラッチと共に収まっているから9Gトロニックがそのまま使えるし、EVモードではパドルで回生ブレーキの強弱もコントロールできるようになっている。燃費の圧倒的な向上を狙うなら、ガソリンよりもやはりディーゼル+モーターのハイブリッドシステムのほうが効果的だろう。特にこうした重量があってボディの大きいSUVこそ、ハイブリッドはもっと普及してしかるべきだと思う。
いまの段階では、日本への導入時期や仕様はまったく決まっていないが、GLEの価格に鑑みるとGLE クーペは1500万円前後になるのは間違いないだろう。単なるボディの載せ替えではなく、きちんと作られたSUVスポーティクーペではあるけれど、だからといっておいそれと手の届くようなSUVではないことも確かである。
REPORT/渡辺慎太郎(Shintaro WATANABE)
【SPECIFICATIONS】
メルセデス・ベンツ GLE 400d 4マティック クーペ(欧州仕様)
ボディサイズ:全長4939 全幅2010 全高1730mm
ホイールベース:2935mm
車両重量:2295kg
エンジン:直列6気筒DOHCディーゼルターボ
総排気量:2925cc
ボア×ストローク:82.0×92.3mm
最高出力:243kW(330hp)/3600-4200rpm
最大トルク:700Nm/1200-3200rpm
トランスミッション:9速AT
サスペンション:前ダブルウイッシュボーン 後マルチリンク
駆動方式:AWD
タイヤサイズ:前後275/55R19
メルセデス・ベンツ GLE 350 de 4マティック クーペ(欧州仕様)
ボディサイズ:全長4939 全幅2010 全高1730mm
ホイールベース:2935mm
車両重量:2690kg
エンジン:直列4気筒DOHCディーゼルターボ
総排気量:1950cc
ボア×ストローク:82.0×92.3mm
最高出力:143kW(194hp)/3800rpm
最大トルク:400Nm/1600-2800rpm
トランスミッション:9速AT
サスペンション:前ダブルウイッシュボーン 後マルチリンク
駆動方式:AWD
タイヤサイズ:前後275/55R19
【問い合わせ先】
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TEL 0120-190-610
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