フォーミュラ・ルノー3.5等のシングルシーターを経て、2010年よりアウディスポーツのファクトリードライバーとして、DTMドイツ・ツーリングカー選手権に参戦、2016年のシーズンをもってアウディを離れ、2017年からはフェラーリへ移籍したミゲル・モリーナ。
フェラーリに移籍してからは、GT3やLMGTEクラスのGTカーをドライブしていたが、2023年からはWEC世界耐久選手権でフェラーリAFコルセの50号車フェラーリ499Pをドライブしている。
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ハイパーカークラスでトップ争いを演じる機会も多くなったいま、スペイン人のモリーナは何を思うのか。ル・マン24時間レースを前に、現在フェラーリ499Pのポテンシャルなども含めて聞いた。
■イタリア人とはウマが合う?
──あなたはフェラーリに加入してから表情が明るくなったように見えます。アウディ時代と現在は、何が一番違いますか?
ミゲル・モリーナ(MM):特にメンタリティの部分が違うと思う。イタリア人はなんと言ってもラテン民族だから、ドイツ人とはまったく性格が違う。僕はスペイン人でもちろんラテン民族なので、明るく賑やかなイタリアチームの方が性に合っていると思うし、フェラーリでは非常に居心地が良い。ドイツ人との仕事は必ずしも容易ではなかったし、ドイツとイタリアのメーカーとでは働き方も違う。
──WECのハイパーカークラスとクラス1時代のDTMで、ドライバーのレベル的には違いを感じますか?
MM:DTMはドライバー交代なしで、ひとりで戦うレースなのでWECよりは随分とタフなレースだったと思う。そのタフという中には、同じブランドで多くのマシンが走っていたので、いわゆる同ブランドにもライバルが多いということも意味している。
ドライバーのレベル的に見るとDTMもWECもトップドライバーがそろっており、互角だと感じている。非常にタフなDTMで鍛えられ成長したことが、いまのハイパーカークラスでとても活きている。強いドライバーがそろうからこそコンペティティブでやりがいもあるし、その中で頂点に立ちたいと互いが切磋琢磨するので、そのレベルは高く保たれる。そういった意味でもDTMとWECはとてもレベルが高いコンペティションだ。
──昨年デビューしたフェラーリ499Pは、今季コンスタントによいペースを見せていますが、昨年よりもマシンの成熟さというか、安定してきている事を実感していますか?
MM:昨年よりは少しずつ上昇していることを実感している。実車でのテストも重ねたし、シミュレーターも数えきれない程にドライブしている。フェラーリは歴史的に見ると経験豊富なサクセスフルなチームだが、このハイパーカーチームは経験も浅くまだとても若くて未熟なチームだ。レースを通してまだまだ数多くのことを学んでいるし、やらなければならないことがたくさんあるが、昨年1シーズンのレース実戦でより多くの引き出しが増えたのは間違いない。
──昨年、あなた達フェラーリはデビューイヤーにも関わらず、ル・マンでは51号車がセンセーショナルな総合優勝を遂げました。ポルシェはトラブルが多かったもののそれを克服して今年は強いポテンシャルを見せています。どのチームもトヨタを最大のベンチマークとして見ているでしょう。今年はどのメーカーがよりあなた達のライバルに近い存在だと感じていますか?
MM:(第2戦)イモラではいくつかのタイミングでとても良いペースを保っていたし、とてもコンペティティブな走りをしていたのを見ていたので、BMWがかなり近づいてきているのではないかと思う。イモラは容易なコースレイアウトではないだけに、そこでポテンシャルを見せていたということで、今後僕らを脅かす存在になる可能性があると思う。ただ、やはり最大の強さを見せているポルシェは、かなり手強い相手には違いない。
──ホームレースのイモラでは予選でフェラーリが上位3位までを見事に独占し、スタートシーンは素晴らしいものでした。
MM:イモラはは、予選でフェラーリ3台がフロントを固めるということは非常に重要だった。イモラはオーバーテイクが非常に難しいサーキットなので、予選でのポジションは勝負を決めるひとつのポイントとなるからだ。
トラックコンディションに恵まれていた事もひとつの要因だったが、特にセクター2がとてもコンペティティブで、必ずしもこの予選結果を簡単に得られたものではなかったし、レースで表彰台を独占できたかといえば、非常に難しかった。一方で、(第3戦)スパではポールポジションを獲ることはさほど重要視していなかった。もちろん、獲れるに越したことはないが、スパはオーバーテイクが可能なポイントがいくつかあるので、それよりもレースの組み立てを重視していた。
■「チームだって、僕だってミスを犯すこともある」
──昨年のWECのスパやル・マン、今年のイモラでは突然の雨に見舞われましたが、実際にウエットコンディションでハイパーカーをドライブしていている際のフィーリングはどんなものなのでしょうか?(※2024年第2戦イモラでフェラーリは『不正確な天気予報』と、『コミュニケーションの破綻』により3台のクルマの戦略が分けられず、勝機を逃した)
MM:とてもとてもトリッキーだ。(しばらく無言になり、深く息を吐く)特に雨の降り始めや止んだ後に、まだ路面が濡れている状況でのスリック走行は、言葉に表すのがちょっと難しいほどに、高い集中が要される。特にイモラで雨が降った際にスリックで走行していた時は、本当にヤバかった。相当にタフな状況だった。
──WECではタイヤウォーマーが禁止されている中で、ウエットタイヤのウォームアップはいかがでしょう?
MM:雨の中をスリックタイヤで走るトリッキーな状況を考えれば、タイヤは冷えていてもウエットタイヤで走る方がうんと安定していて、1ラップ、多くとも2ラップ目でタイヤは温められていると思う。周りが思うほどには、ドライバーは冷えたレインタイヤをさほど問題としていない。
──ある意味、レースにはギャンブル性もつきものなのでしょうか?
MM:モータースポーツではラッキーもアンラッキーもある。トリッキーでとんでもなくドライブが大変なだと分かっているにも関わらず、時には雨を欲している自分もいる。それらも含めて『僕らのゲーム』の一部だと思っている。
チームだって、僕だってミスを犯すこともある。もちろん、誰もがそれをわざと行っているわけではないが、運が悪いタイミングや、最初の計画や戦略とは違った方向に行くことさえあるだけに、それもギャンブル性と言えるのかもしれない。
フェラーリ499PをWECやル・マンでドライブすることが許されている者としては、誰だってフェラーリのドライバーとして歴史に名を刻みたいと願っているし、いち早く頂点に立ちたいと焦る気持ちもある。
さっきも言ったとり、僕らに圧倒的に欠けているのは経験値だ。だが、僕らはフェラーリというブランドを背負うトッププロフェッショナルなチームだ。チームは若いが、このプロジェクトのことや、すべきことが何なのかは、きちんと理解している。
──スパはル・マンへの最後の実戦テストとしてのレースでもあり、各チームはさまざまなテストプログラムを用意していたかと思います。
MM:スパはもちろんル・マンを前にした最も大切なレースだと言える。ただ、マシンやパーツ類はすべてホモロゲーションを受けており、LMP1の時のような『ル・マン用の秘策』といいったパーツは用意できないし、ハイパーカークラスの全チームが同じ条件で戦う。それよりも大切なのは、カタールから積み重ねてきた物事、たとえばマシンやパーツといったものを、ル・マンでも正常に機能させられるのか、ということの方が大切だと思う。
タイヤで左右されることも多いだけに、タイヤがどう影響を与えるのか、タイヤマネジメントをどうするのか、いくつかのスパのレース中のスティントでは、ル・マンに向けてのテストをレース中にすることになっている。
──フェラーリはプライベーターも含めて3台の参戦ですが、情報の共有はされているのでしょうか?
MM:3台で情報を共有することで団結して砦となれるし、車両の向上を目指す上では3台が協力することが不可欠だ。よいセットアップだった時やトラブルの原因を探る際に、3台のデータを比較できるのは利点であり、インフォメーションの共有はポジティブにしか捉えていない。
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