1.6リッターV6パワーユニット(PU)×グランド・エフェクト・カー時代2年目を迎えた2023年シーズンのF1。開幕戦バーレーンGPはレッドブルの強さが際立つと同時に、フェルナンド・アロンソ(アストンマーティン)による3位表彰台獲得など、勢力図にも変化がみられた1戦となりました。日本期待の角田裕毅(アルファタウリ)の3年目の活躍とともに、元F1ドライバーでホンダの若手育成を担当する中野信治氏が独自の視点でレースを振り返ります。
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F1技術解説:バーレーンGP(1)車体特性が逆転し、苦しんだフェラーリと強さを増したレッドブル
2023年シーズンのF1開幕戦バーレーンGPはレッドブル・ホンダのマックス・フェルスタッペンがポール・トゥ・ウインを果たしました。開幕前、約1週間前に行われた3日間のプレシーズンテストの段階から、レッドブルはトラブルフリーで走れていて強さが際立っていました。2023年のレッドブルの新車『RB19』は、2022年の『RB18』のアップデート版ですが、ダウンフォースの出し方という部分が『RB18』と少し違うのかなという印象を受けています。技術レギュレーションの変更で2022年から車高が15mm高くなったことも影響するなか、車高が高くなったことで失われたダンフォースを、他の部分で上手く補う対策ができたのではないかと思います。
開幕戦の予選ではフェルスタッペンがポールポジションを獲得し、2番手に(セルジオ)ペレスと、レッドブルがスターティンググリッドの最前列を占めましたが、レッドブル勢の強さは決勝レースでさらに際立ちました。ライバル勢のほとんどは第2スティントでソフトタイヤからハードタイヤにタイヤを替えましたが、レッドブルは第2スティントでソフトタイヤを選びました。今回はソフトタイヤのデグラデーション(性能劣化)がそれほど大きくはなかったので、極端に不思議な戦略ではないのですけども、『チェッカーまでタイヤが保つのか?』という不安も含め、よほどクルマに自信を持っていなければソフトタイヤを選択する戦略はしません。
一方のフェラーリですが、こちらもプレシーズンテストからデータやクルマの動きを見ていると、圧倒的にステアリングの舵角が少ないのが印象的でした。クルマが結構跳ねていて、常にオーバーステア気味にステアリングを修正しているような動きです。ただ、ストレートが速いですし、ステアリングの舵角が少なく、アンダーステアもそれほど大きくは出ないクルマだと思うので、タイヤのいいタイミングや燃料が軽いときなら、一発のスピードを見せてくるのではないかなと思います。
決勝のタイヤマネジメントについては、やはりロングランとなるとスタート時の車重も重く、タイヤのデグラデーションを気にして走らなくてはいけない。フェラーリに関してはその状況でリヤが流れてしまうので、コーナリング速度をすごく落とさなければ曲がれない状況になります。それによってレースペースも落ちますし、プッシュしに行くと、特にバーレーンのようなサーキットだとリヤタイヤが持たない。そんな厳しい状況でしたが、その状況でも2番手、3番手を走行できていたシャルル・ルクレール(フェラーリ)の走りは秀逸でしたね(レース終盤にトラブルでリタイア)。
■アロンソの巧なオーバーテイク
これまでの上位チームを差し置いて、今年の開幕戦でもっとも注目を集めたのはやはり、フェルナンド・アロンソ(アストンマーティン)の走りですよね。やはり、テストの段階から見て取れていましたが、アストンマーティンのクルマが良い。実はアロンソとフェルスタッペンのステアリングの切り方、舵角がぴたりと同じで、『これ同じクルマじゃないか(笑)』とテストの段階から思うほど曲がりやすい挙動を見せていました。コーナリングのボトムスピードを見ても、アストンマーティンはレッドブルと同じような速度で走っていました。
テストの際からアストンマーティンのクルマはいいとは思ってはいましたが、開幕戦の決勝でアロンソはフェラーリ、メルセデスの2台をコース上でオーバーテイクして3位表彰台を獲得。正直、ここまでのパフォーマンスを出すとは思いませんでした。アストンマーティンのクルマはタイヤのでグラデーションも非常に少ないですし、リヤが安定している。つまり、かなり乗りやすいクルマです。怪我から復帰したばかりのランス・ストロール(アストンマーティン)が復帰早々にいきなり乗って6位に入った理由にもなっていると思います。アロンソがレース後に語った「マシンが快適だからあと1時間は走れるよ」という言葉が、まさにそのクルマの乗りやすさを表していると感じます。
コース上でジョージ・ラッセル(メルセデス)、ルイス・ハミルトン(メルセデス)、カルロス・サインツ(フェラーリ)と、強者を次々とオーバーテイクしていったアロンソですが、本当に前車へのプレッシャーのかけ方が絶妙でした。前を走っている相手が動けなくなるようなプレッシャーの掛け方を後ろからするのですけど、アロンソの持つ迫力や気迫も相まって強烈です。相手が少し迷った隙に相手のラインをすっと潰しに行く。相手がどうしたらミスをするかということを、2~3コーナーくらい前から予測して動いているから、前を走る側にとっては、抗いようがない。 隙があった瞬間に並走して相手のラインの選択肢を狭めて、その次のコーナーで楽に抜いていく、まさに百戦錬磨のアロンソならではのオーバーテイクでしたよね。
アロンソにとっては何のリスクも犯していないオーバーテイクでした。結構激しくポジションを争っているようにも見えるのですけども、アロンソ的には相手がミスをした際に、簡単に抜けるように準備をきちんとしています。ライバルに対し、アストンマーティンのクルマはストレートが遅いのはわかっていたでしょうから、どこで抜くかを考えると、ストレートエンドでのブレーキングよりも、コーナーの右左の入れ替わりなどラインを奪う戦法が一番効きます。攻める相手の弱み、自分の強みと弱みと理解した上での動きでしたよね。極めて見事でした。
また、サインツをオーバーテイクした後の無線で「バイバイ!」と発したコメントはウケましたね(笑)。アロンソはどんな時でもユーモアを見せるドライバーですけど、アロンソにとってポジティブな状況下でユーモア溢れる無線が聞こえると余計に面白さが際立ちます。アロンソというドライバーは、本当にいろいろな意味でエンターテイナーだと思います。
【動画】アロンソにもフォーカスしたバーレーンGPベスト・チームラジオ集
■角田裕毅はポイント獲得以上に大切な課題をクリア
(角田)裕毅は今回、ポイント獲得まであと一歩の11位に終わりました。裕毅の乗るアルファタウリの2023年の車両『AT04』はコーナーは速いですが、ストレートは遅い。2022年は高速コーナーが遅かったので、ダウンフォースを付けてコーナリング重視のセットアップにしてきたのだと思います。それゆえに、厳しいレース展開になってしまいました。裕毅もDAZNで出演してもらった時にマシンのパフォーマンスについて、「正直(全チームのなかで)ビリだと思います」と厳しくコメントしていましたが、そのなかでも今回、入賞目前まで頑張ったという点は評価できると思います。
裕毅はプレシーズンテストも含めて、バーレーンGPの週末も非常に良い走りを見せてくれたと思います。予選も本当に厳しい状況のなか、Q1でソフトタイヤを3セット使いましたが、しっかりとQ2に進出して、本人がやるべきことをきっちりやったなと、予選は見事でした。
決勝の戦いぶりに関しては、大きなミスもなかったですし、戦略的にもう少し上手くやれたところもあったのかなとも思いました。最後のバーチャル・セーフティカー(VSC)導入の際にライバル勢と同じ作戦を取ったのは正しかったですね。その後のタイヤの使い方も非常にうまくやって、アレクサンダー・アルボン(ウイリヤムズ)を0.4秒まで追い込んだのですけども、その時点では裕毅もタイヤを結構使っていたので、オーバーテイクにまでは至りませんでした。
ただ、F1参戦3シーズン目を迎えた裕毅の成長を著しく感じたレースだと思います。チームメイトのニック・デ・フリースに対しても、3年間同じチームでF1を戦ってきたアドバンテージをしっかりと活かし、クルマのポテンシャルを100パーセント引き出していたと思います。
本当は2度目のピットでのタイムロスがなければアルボンの前でチェッカーを受け、10位でポイントを獲得できていたかもしれません。ただ、チームメイトに対してどのような走りを見せられるかが、今年の裕毅にとっておそらく、ポイント獲得以上に大事になると思います。そういった意味では今回はチーム関係者も合格点を与えていると思いますから、今後に向けてはすごくポジティブなレースになったのではないかと思います。
中野信治(なかの しんじ)
1971年生まれ、大阪出身。無限ホンダのワークスドライバーとして数々の実績を重ね、1997年にプロスト・グランプリから日本人で5人目となるF1レギュラードライバーとして参戦。その後、ミナルディ、ジョーダンとチームを移した。その後アメリカのCART、インディ500、ル・マン24時間レースなど幅広く世界主要レースに参戦。スーパーGT、スーパーフォーミュラでチームの監督を務め、現在はホンダ・レーシング・スクール・鈴鹿の副校長として後進の育成に携わり、F1インターネット中継DAZNの解説を担当。
公式HP:https://www.c-shinji.com/
SNS:https://twitter.com/shinjinakano24
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