7月24日、2023年WRC世界ラリー選手権第13戦『フォーラムエイト・ラリージャパン2023』の開催に向け、ラリージャパン2023実行委員会がWRCやラリージャパンの基礎知識を学ぶメディア向けの勉強会を開催。11月の本戦を控え最新情報なども明らかとなった。
2023年も11月16日(木)から11月19日(日)まで、昨年と同じく愛知県と岐阜県を舞台に競技が行われるラリージャパン。6月には名古屋市内でPRイベントが行われ、同時に開催概要も発表されるなど、2年目の開催に向けて着々と準備が進められている。
勝田範彦、梅本まどか、そして東海地区5局のアナがPR。2023ラリージャパンは豊田スタジアム内でSSを実施
今回メディア向けに行われたラリージャパン勉強会では、まず実行委員会事務局から、改めてラリージャパンが目指す『競技者、観戦者すべての人にとって安全・安心な大会』『ラリーファン、モータースポーツファン目線の大会』『未来へつなぐサスティナブルな大会』という3つのテーマが説明された。
そのほかにもラリージャパンを開催する意義として『市民の誇り』『山間部の振興』『産業の振興』『交通安全の推進』『青少年の健全育成』『SDGsの推進』という6つの言葉が掲げられた。そしてラリージャパン2023の大会コンセプトは「ENJOY! RALLY JAPAN』となり、観戦に訪れるファン、競技に参加するチーム、開催地の人々、そして環境のことを考えた大会を目指すとしている。
競技コース(スペシャルステージ:SS)については、すでに6月のPRイベントで概要が発表されたとおり、今年は新たに愛知県豊田市にある豊田スタジアム内に特設コースが設置され“スーパーSS(SSS)”が行われるほか、岡崎市中央総合公園にも特設コースが設置される予定だ。なお、豊田スタジアム2階自由席については昨年の大人7000円から4000円にチケット価格を下げ、コアファンのみならずライト層も足を運びやすくしているという。
その後は競技事務局の高橋浩司氏からWRC大会の基本構成について説明が行われ、ラリージャパンが他のWRCイベントと異なる点として、通常“レッキ”と呼ばれる下見走行がラリーウイークの火曜日と水曜日に行われるが、11月のラリージャパンでは日照時間の関係などで月曜日も加えた3日間でレッキが実施されることも説明された。
また、通常のWRC大会はSSの競技区間が300~350kmで争われるのだが、2022年のラリージャパンではさまざまな影響によりトータル283.27kmでの競技となった。これについてはFIA国際自動車連盟に特認申請を行ったことで問題はないものの、2023年に向けてはSS数を昨年の19から22に増やし、300km以上の距離を確保して競技ができるように調整中とのことだ。
そのSSについては7月時点での概要も明らかにされ、2022年大会のコースが「変化に富んだ、非常にチャレンジングなスペシャルステージ。もっとも曲がりくねった山岳ステージは選手権のなかでもっとも低速」と評価されたことを受け、2023年大会では、山間部SSの多くは昨年のコースをベースに一部の変更が行われる。SS総距離は300km以上を目指し設計し直されるほか、リエゾン(SSとSSや、サービスパークとSSを結ぶ移動区間)を含む総走行距離は950km以上とされた。
さらにラリージャパンでは環境対策にも力を入れており、FIA環境認定3つ星を獲得するためにさまざまな施策が行われている。具体的にはエントラントに対し『土壌汚染防止の施策:マット、トレイ設置など』『水の無駄のない使用』『廃棄物の分別』を呼びかけているほか、コースマーシャルのタバード素材を化学繊維から不織布にするなど“脱プラスチック”化も実施されている。
またラリーということで山間部で競技が行われることになるが、ラリージャパンでは毎年7月に“自然環境調査”としてSS実施地域の生態系調査を行い、絶滅危惧種などが存在していないか、ラリー開催による動物への影響なども調査を実施している。
そして、2022年のラリージャパンで大きな問題となった“一般車両のコース誤進入”については、今季の大会ではクルマが通過する場所には物理的なブロックやマーシャルを配置するなどの対策が取られる予定になっており、これによりマーシャルの人員は1000人以上となり、昨年よりも増加する予定だ。なお、高橋氏によると、豊田スタジアムでのスーパーSSの距離はまだ調整中ながらおよそ1kmで計画され、2023年のラリージャパンも「基本的にはターマック(舗装路)ラリー」となることが語られた。
■ラリー・エストニア直後のTGR-WRTメンバーも参加。気になる“予備パーツ”の準備数
さらにラリージャパン勉強会では7月23日まで行われたラリー・エストニアの現場からTOYOTA GAZOO Racingワールドラリーチーム(TGR-WRT)のデピュティ・テクニカルディレクターの近藤慶一氏、WRCエンジン・プロジェクトマネージャーの青木徳生氏もオンラインで参加し、記者からの質問に答えた。
そのなかでは、トヨタGRヤリス・ラリー1のエンジン開発の指揮を取る青木氏が、ラリー1規定で使用される1.6リットル4気筒直噴ターボの『グローバル・レース・エンジン(GRE)』や共通部品となる『コンパクト・ダイナミクス製ハイブリッドユニット』について説明。ハイブリッドシステムはTOYOTA GAZOO Racing、ヒョンデ、フォードの3メーカーとも同一のハードウェアを使用しているものの、ブレーキを踏んだときなどに“どう回生するか”は各チームごとの戦略に委ねられる。
なお、サービスパークや一部リエゾンなどでWRCマシンがEVモードで走行する際には、今年から街中を走行する電気自動車やハイブリッドカーと同様の“ヒュイーン”という疑似音を発生させており、これはトヨタの市販車と同じ音とのこと。そしてWRCに2022年から導入されたカーボンニュートラル燃料(CNF)については、FIAから“ドロップイン燃料”として供給されたこともあり、エンジンに改修は必要なく、基本的にはCNFへの適合化のみで「これまでもトラブルは発生していない」と青木氏は語った。
さらに『1大会でどのくらいの外装スペアパーツを用意するのか』という質問に対しては、近藤氏が「ラリーによって違うが、1台あたり1~2パーツを準備して、毎日取り替えられるくらいに準備していく」と回答。6月の第7戦サファリ・ラリー・ケニアでは、補修できる部品は補修しながら使用したものの、用意したパーツを「ほぼすべて使いきってしまいました。カーボンパーツは安くないんですけどね……」と苦笑いをみせた。
勉強会ではそのほかにもJAF日本自動車連盟モータースポーツ部の岡本博司氏が、WRCラリージャパンをはじめ、F1世界選手権、WEC世界耐久選手権という「日本はひとつの国で3つの世界選手権を開催している数少ない国」と説明したうえで「国内における国際競技会を、継続的に開催できるよう支援をし続けていくことで、ラリーはもちろん、さまざまな競技の国際化を推進していきたい」と、日本でモータースポーツの発展させるべくJAFを代表して挨拶を行った。
会の最後にはラリージャパンのタイトルパートナーを務めるフォーラムエイト代表取締役副社長の武井千雅子氏が「『日本のラリーが世界で一番いい』と言っていただけるような大会にして、自動車産業などがもう一度復活し『日本はすごい』と言ってもらえるようになればいいなと思っておりますので、私たちもそのために全力を尽くしていきます」と語った。
11月の本戦に向けて準備が進められているラリージャパン2023。今回の勉強家では、実行委員会や関係者、参加したメディアも含め『ラリージャパンを盛り上げたい』という雰囲気を強く感じた。昨年は課題も浮き彫りになったラリージャパンだが、今後の開催で日本に根付き『ラリーの国日本』と呼ばれる日を待ちたいところだ。ラリージャパン2023の開催や観戦券の詳細については公式サイト(https://rally-japan.jp/)を確認してほしい。
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