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【衝撃】海外走る日本車 ボンネットに「浮世絵」 ラッピングより10倍以上むずかしい職人技 世界に数台か

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【衝撃】海外走る日本車 ボンネットに「浮世絵」 ラッピングより10倍以上むずかしい職人技 世界に数台か

ナゾの「浮世絵」シルビア 投稿

執筆:Kumiko Kato(加藤久美子)

【画像】アメリカ人の手にかかった日本車カスタム【イケてる実例】 全45枚

編集:Taro Ueno(上野太朗)

アイルランド在住のDean Robinson(ディーン・ロビンソン)さん(以下、ディーンさん)が所有するS14日産シルビアは非常にユニークで貴重な存在だ。

注目すべきは、ボンネット=エンジンフードいっぱいに描かれた図柄。世界でもっとも有名な浮世絵の1つ、葛飾北斎が1830年代に製作した「富嶽三十六景 神奈川沖浪裏(かながわおきなみうら)」である。海外では「The Great Wave off Kanagawa」として知られている。

ディーンさんが9月上旬、SNSの日本製スポーツカーのコミュニティに愛車の画像を投稿したところ、たちまち100件以上のコメントがついた。

「Rad AF !!」
「Sick AF !!!!」
「Insanely cool」
「Yo this is so cool」
「Sickkkkk !!!」
「Absolutely insane !!」

など、いずれも「最高にカッコイイ!」「めちゃくちゃカッコいい!」「これ超ヤバい!!」という意味のコメントをはじめ、値段や入手方法を聞くコメントもあり質問攻めにあっていた。

すでに、かつて発売されていたことを知っている人からは「S14用のボンネットもあったのか!」「86用のは見たことある」などと、驚く声もあがっていた。

一体このボンネットは何なのか? 浮世絵デザインの痛車なのか? 誰がどこでいつ頃、作ったのか? ボンネットにラッピングしたように見えるが、よく見るとラッピングとは違う仕上がりのように見える。

ディーンさんにメッセージを送って取材を申し込んでみたところ、すぐに回答が来た。

実はこの浮世絵ボンネットが非常に希少であることがわかった。

希少 ラッピングではない職人技

ディーンさんの話によると、これはS14日産シルビアのボンネットに富嶽三十六景をプリントしたフィルムをラッピング加工したのではなく、ボンネットごと、浮世絵が描かれたものに交換したのだという。

「7年前に運よく入手することができました。ボンネットはFRP(繊維強化プラスティック)製で取り付けは自分でおこないました」

「ステッカー(ラッピング)ではなく、手織りのファイバークロスにジェルコーティングを施したものをFRPのボンネットに装着しています」

「日本のパーツメーカーがオリジナルで作ったものだと聞いています」

「いくらで入手したかは内緒です(笑)わたしにとっては黄金の宝物を見つけたようなものですから、値段は関係ないのです」

「とにかく希少で非常に美しい、世の中に数台という存在かもしれません」

「多くのJDMファンやシルビアのオーナーがこのボンネットを再現しようとラッピングフィルムに同じ図柄を印刷したり、金属製のボンネットにラッピングしてみたり、いろいろとやっていましたが……。やはりFRP製ボンネットに織り込まれたものとは完成度が違います」

ちなみにディーンさんが住むアイルランドには巨大なジャパニーズスポーツカーシーンがあり、主に後輪駆動のAE86、Sシャシー(180を含む日産シルビアS13/S14/S15系統の車両)、4ドアFRなどのJDMカーの人気が非常に高いそうだ。

また、葛飾北斎の浮世絵など古いアート作品も日本車同様、人気が高いとのこと。

なお、版権が気になる人もいるかもしれないが、2021年現在、著作権は作品の制作年または作者の死後70年と定められている。葛飾北斎が亡くなったのは1849年なので著作権の保護期間は終了している。

非常に貴重なボンネットであることはわかったが、なぜそんなに希少なのだろうか?

ディーンさんが投稿した写真の中には、明らかに日本で撮影されたであろうものもある。

では日本のどんな会社が作ったのだろうか?

関西の職人が十数年前に制作

取材を進めていくうちに、最初にこのボンネットを作った日本の会社ORIGIN Labo.(オリジンラボ)にたどり着いた。

オリジンラボ.は大阪に本社を持つドリフト専用のパーツメーカーで、アメリカや欧州、オーストラリアなどにも拠点を持っている。

当時を知るお店のスタッフに話を聞くことができた。

「恐らく15年以上前だと思います。アメリカの得意先から依頼があってAE86レビンとS13シルビア用として何台か作りました」

「非常に特殊な技術で作られています。FRP(繊維強化プラスティック)製ボンネットに直接、織り込む形で1つずつ制作するので手間も時間もかかります」

「ラッピングと比べると10倍か、それ以上ですね。相当に高い技術を持った職人さんじゃないと作れません」

「その技術を持ったスタッフも退職してしまったので、今はもう作れる人がいないんですよ」

現在は制作していないという。

また、そもそも販売するために作られたものでもないそうだ。

さらに探してみたところ、まさに最初にオリジンラボ.が作ったトヨタ・カローラ・レビン(AE86)と日産シルビア(S13)のオーナーにもコンタクトを取ることができた。

Aldo Gonzalez(アルド・ゴンザレス)さん(AE86)とSimba Nyemba(シンバ・ニエンバ)さん(S13)、お二人は米国シカゴ近郊に住んでいて友達どうしだそう。

「2014年からこの貴重なAE86を所有して友人とドリフトを楽しんでいます。本当に美しい図柄のエンジンフードは唯一無二の芸術作品そのもので所有者として、恐れ多くも大変誇らしい気持ちです

「イニシャルD最高! 4AGエンジン最高!」(AE86オーナーのゴンザレスさん)

FRPに交換 旧いドリ車が多いワケ

1980~90年代の日本製スポーツカーは浮世絵ならずともエンジンフードをFRPに交換しているケースがとても多い。

これはどんな意味があるのだろうか?

みずからもドリフト競技を主催しパーツ事情にも詳しいガレージ38K代表三宅和人さんに聞いてみた。

「昔のクルマのボンネットは大きくて鉄部品が重いんですよ。FRPにするだけで10kg以上は軽くなります」

「ちなみにシルビアあたりだと、ボンネット、フェンダー、バンパーの3つをFRP(繊維強化プラスティック)にするだけで20kg以上軽くなるのでクルマの動きも全然変わります」

「またFRPは破片さえあれば補修が鉄に比べてかなり簡単です。ドリフトサーキットでガンガン走ってぶつける人にはありがたいでしょう」

なるほど、ドリフトマシンとして人気車のパーツをFRPに交換する例が多いのには軽量化や補修のしやすさという点で大きな利点があったのだ。

日本人が気付いていなかった魅力も

最後に、ディーンさんに改めてS14シルビアや日本のカスタムについてその魅力を聞いてみた。

「S14日産シルビアはとても軽い車でパワーウェイトレシオも優れています。ドリフトには最適です」

「現在は320ps超えまでチューンアップしてふだんの街中のドライブとドリフトマシンとして使っています」

「日本の人々は、クルマのスタイルやカスタマイズがとても上手ですね。彼らはごく普通のクルマであっても、改造をして驚くほど素晴らしい外観に変えてしまいます」

「日本の文化は素晴らしく、わたしはとても気に入っています。いつか日本に行ってもっと日本を体験したいですね」

「わたしの夢は、日本でドリフトを見ることです」

トヨタ・カローラ・レビン/トレノや日産シルビア、スカイラインなど80~90年代の日本車は昨今、世界中で大変な人気となっている。

江戸時代の浮世絵カスタムが施されたこれら日本の名車でこれまた日本生まれのドリフト競技を楽しむ……。

日本人としては何とも不思議な感覚だが、映画やアニメ、ゲーム、そしてインターネットの普及とともに日本車の魅力が世界に発信されていった結果ともいえるだろう。

海外の日本車好きと話していると、日本人が気づいていなかった日本車の魅力に気づかされることも多い。

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