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ホンダとの再タッグ控える42歳アロンソの魅力と2年後の懸念。中国で高まるF1機運【中野信治のF1分析/第5戦】

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ホンダとの再タッグ控える42歳アロンソの魅力と2年後の懸念。中国で高まるF1機運【中野信治のF1分析/第5戦】

 上海インターナショナル・サーキットを舞台に行われた2024年第5戦中国GPは、マックス・フェルスタッペン(レッドブル)がスプリントを制すると、決勝でも今季4勝目、自身通算58勝目をポール・トゥ・ウインを飾りました。

 今回は中国GPで輝きを放ち、アストンマーティンとの契約延長を発表してホンダと再タッグを組むことになったフェルナンド・アロンソ(アストンマーティン)の今後避けることのできないもうひとつの戦い、そして中国でのF1人気と未来について、元F1ドライバーでホンダの若手ドライバー育成を担当する中野信治氏が独自の視点で綴ります。

次なる中国人F1ドライバーの誕生には時間がかかると考える周冠宇。企業らの関わりが必要だと主張、ホンダの育成にも注目

  ☆  ☆  ☆  ☆  ☆

 5年ぶりの開催となったF1中国GPは天気もあまり良くなく、かつスプリントフォーマットだったこともあり、自由に走れる時間も限られる難しい状況のなか、フェルスタッペンが依然として強さを見せました。

 短時間でセットアップを決めるのはどのチームにとっても難しい仕事になったと思います。それゆえに、上海での結果は、各車の本当のポテンシャルを示したものだとは言い切れないでしょう。

 シミュレーターの技術が進んでいるため、そこまで大きく持ち込みセットアップを外してきたチームはなかったと思います。ただ、0.1秒で順位が3~4つ変わるのが今のF1ですから、そのなかでチームによって明暗が大きく分かれたレースだったと思います。関係なかったのはレッドブルだけですね(笑)。

 レッドブルはマシンの幅が本当に広く、どんなサーキットにも対応できます。今回の上海は久々のF1開催で路面も補修されたとはいえ、バンピーな部分が残っているなか、レッドブルのクルマは圧倒的に安定していました。フリー走行での映像を見ただけで、その後の上海での圧倒ぶりを予想できてしまうほどでした。

 さて、そんな中国GPでは表彰台に上がることは叶いませんでしたが、予選で3番手獲得、決勝スタートで一時は2番手浮上と、輝きを放っていたのがアロンソでした。現在42歳のアロンソが今これだけいい走りを見せているのは、若いころから圧倒的なものを持っていたからだと改めて感じました。

 やはり、アロンソの持つ想像力、相手を飲み込んでしまう余裕。あれは元々の才能に、これまで積み重ねてきた経験がミックスされた結果だと思います。そのベースとなったのは、アロンソ自身の負けず嫌いというところですね。自分が負けないために、自分がどうあるべきなのか、これまでさまざまな手法をトライし、時には成功も失敗も重ねてきました。

 そのトライ・アンド・エラーの結果が、今のアロンソの見せる強さや輝きの一端だと思いますし、42歳を迎えてもいまだに成長と変化を続けているアロンソという存在は、同じレーシングドライバーとしては羨ましくもあります。

 そんなアロンソが中国GPの直前に、アストンマーティンF1との複数年の契約延長を発表しました。つまり、ホンダとアストンマーティンF1の共闘がスタートする2026年シーズン、ホンダとアロンソのタッグが再び実現することになります。

 ホンダとアロンソといえば、マクラーレン時代(2015年~2017年)にいろいろとありましたが、もう一度、あれからさらに成長したホンダ、そしてアロンソが違ったかたちでタッグを組むということは、明るいニュースだと思います。

 ただ、2026年シーズンを迎える際、アロンソは44歳になります。すでに40代を迎えているアロンソは、今後より自身の衰えとも戦うことになりますし、ここからの1年の変化は少なくはないと思います。

 反射神経や繊細な感覚を掴み取る部分は、肉体的な衰えとともに徐々に低下してしまいます。これまではアロンソの負けず嫌いな性格やトレーニングなどでカバーしてきたと思いますが、40代に入ると、どうしてもフィジカルの部分が落ちていくスピードが加速度的に早まります。

 そんな自身の衰えとの戦いもあるなか、モチベーションとドライビング感覚を維持し続けられるかどうかが、今後のアロンソのキャリアの鍵となる部分だと感じます。ホンダとの再タッグを迎える再来年、44歳のアロンソが今とまったく同じ感覚で戦えるかどうかは、本人にもわかりません。

 長年F1に参戦し、F1ではすべてを手に入れているといっても過言ではないアロンソが、高いモチベーションを維持するには、変化というものが必要になると思います。ただ、そんなタイミングでホンダとの再タッグが始まるということは、アロンソにとっても新しいモチベーション向上にも繋がると思います。そういった要素も踏まえて、ホンダとアロンソの再タッグは楽しみですね。

 アロンソが自身の衰えを感じるタイミングが来るとしたら、それはアロンソを上回るドライバーがチームメイトになるときだと思います。それゆえに、2026年シーズンのアロンソのチームメイトが誰になるのかは今から楽しみですね。

■アジア全体で若手育成に取り組むタイミング

 さて、今回の中国GPでのもうひとりの主役はやはり、中国人ドライバーの周冠宇(キック・ザウバー)です。初の母国GPではポイント獲得には至りませんでしたが、スプリント予選から一貫していい走りを見せており、プレッシャーと特に感じる母国GPでも、集中力を切らさず、前戦の日本GPでの(角田)裕毅と同じように、大勢の母国のファンの声援を力に変えて、戦いに挑んでいた印象です。

 そして、5年前よりも熱量のある、そして大勢のF1ファンの方が上海インターナショナル・サーキットを訪れていたように感じました。映像で見る限り、フェラーリやレッドブル、マクラーレンなどのファングッズを身につけた方も少なくはなく、やはり一番人気は周冠宇だったと思いますが、日本でいう“推しチーム”や“推しドライバー”のように、まんべんなく全チーム、全ドライバーに声援が送られていたと思います。その様子は嬉しかったですね。

 以前の中国GPは、F1という中国にはないイベントを見にきただけの方が多かった感じと言いますか、ドライバーを応援しようにも、あまりドライバーのことはわからない、詳しくないという人が少なくはなかった印象です。それが、今回はサーキットを訪れる前にF1の知識を知った上で、個々のドライバーやチームを応援していたように見えました。それはドライバー応援グッズを自作して観戦に来ていたたくさんの方たちの様子からも感じ取れましたね。

 中国にF1文化が広がり始めているのは、やはり周冠宇という存在が大きいです。ただ、中国におけるF1ドライバーのパイオニアである周冠宇は、「これからの5年や10年の間に、このグリッドにより多くの中国人ドライバーを登場させるようにするのは非常に難しいと思う」と語っていたようです。

 続けて、「たとえば、完璧な例がある。ホンダだ。彼らには『ホンダ・フォーミュラ・ドリーム・プロジェクト(HFDP)』があり、若いドライバーが幼い頃から育成されている。日本のモータースポーツ文化は非常に深いものだ」と、話している記事がオートスポーツwebに掲載されていました。

 ホンダの若手育成に携わるひとりとして、そのように言ってもらえたことは非常にありがたいです。世界に通用するドライバーを育成するためにホンダが続けている若手育成ですが、育成の取り組みを続けることは簡単なことではありません。

 やはりドライバーにも越えるべき壁があるように、育成に携わる側にも、ホンダ側にも越えるべき壁はあります。それでも若いドライバーにチャンスを与え続けるのは、世界に通用するドライバー、そして“人”を育てたいという熱い思いに沿うものだと思います。それを続けてきた結果が今であり、佐藤琢磨をはじめ、裕毅や岩佐歩夢というドライバーたちだと思います。

 そういった取り組みを、周冠宇のように海外にいるドライバーに知ってもらえていることは、ホンダ、HRC(ホンダ・レーシング)にとっても非常に嬉しいです、改めてもっと頑張ろうという思いを抱きました。

 中国でF1がさらに盛り上がれば、中国国内だけではなく、日本を含むアジア、そして世界へと新しい流れや好影響が出ることも期待されます。日本も日本国内だけではなく、アジア全体で頑張っていくタイミングだと考えています。

 実際にHRS(ホンダ・レーシング・スクール鈴鹿)のカートクラスにはアジアのドライバーも入ってくれています。日本のドライバーとともに学んでもらうことで、これまでにはなかったチャンスや好影響に通じることができれば、本当に喜ばしいことです。

 さて、次戦のマイアミGPもスプリント・フォーマットとなります。舞台となるマイアミ・インターナショナル・オートドロームは、中高速区間も超低速もあるストリートですので、機敏に動くクルマが速いサーキットでしょう。それゆえに、中国GPで失速したフェラーリがここで速さを取り戻すチャンスはあると思います。

 また、中国GPでは不運やアクシデントに見舞われたRBのマシンも、決して相性は悪くはないコースだと思いますから、裕毅の再び入賞にも期待したいですね。ただ、やはりマイアミでもレッドブルが強いことには間違いないでしょう。

【プロフィール】
中野信治(なかの しんじ)
1971年生まれ、大阪府出身。無限ホンダのワークスドライバーとして数々の実績を重ね、1997年にプロスト・グランプリから日本人で5人目となるF1レギュラードライバーとして参戦。その後、ミナルディ、ジョーダンとチームを移した。その後アメリカのCART、インディ500、ル・マン24時間レースなど幅広く世界主要レースに参戦。スーパーGT、スーパーフォーミュラでチームの監督を務め、現在はホンダレーシングスクール鈴鹿(HRS)のバイスプリンシパル(副校長)として後進の育成に携わり、インターネット中継DAZNのF1解説を担当。
公式HP:https://www.c-shinji.com/
公式Twitter:https://twitter.com/shinjinakano24

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みんなのコメント

2件
  • いちご
    まぁ画像を見て、まず脇汗が気になるよね
  • plan -3793
    この人だこには乗って欲しく無い!ハミは大キライだけどまだハミが乗る方が良い!
※コメントは個人の見解であり、記事提供社と関係はありません。

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