3月中旬に岡山国際サーキットで実施されたスーパーGT公式テスト岡山、そして先週末に富士スピードウェイで行なわれた公式テスト富士。シーズン開幕を控えたこの時期、恒例となっている2回の開幕前公式テストを終え、あとは3週間後の開幕戦を待つだけとなった。今シーズンのGT500クラスで最も注目されているのは日産が投入した新型車両、NISSAN Z GT500だ。
GT500クラスでは2020年に現行規定が施行され、2022年シーズンまでは空力開発も凍結される予定だったが、(市販モデルの)スケジュールの関係で2022年に新型Zをベースにした競技車両を導入したいとする日産のリクエストを受け、トヨタとホンダが同意したことで、日産の新型車両が登場することになった。またこれに合わせてトヨタとホンダの競技車両も空力の開発が認められることになった経緯があり、シーズンオフの間から話題を呼んでいた。
■【スーパーGT】直線スピード向上が期待される日産Z、テクニカルな岡山でも「ポテンシャルはある」とクインタレッリ&バゲット
日産が新たに製作したNISSAN Z GT500は、現行のGT500規定に則ったもので、共通部品のモノコックに共通部品のサスペンションを組み込み、日産がNRE(ニッポン・レース・エンジン)構想に則って開発した2L直4の直噴ターボエンジンを搭載。新型Zの市販モデルからスケーリングされたボディを架装している。ちなみに、2020年から昨年までの2シーズン、NISSAN GT-R NISMO GT500として参戦してきた競技車両のモノコックはそのまま流用しているから、新型のZ GT500はGT-R NISMO GT500からボディ(外板パネル)を“着替えた”クルマ、と考えればその実態は理解し易いかもしれない。
もちろん、実際のところ話はそんな簡単なものではない。NISMOのCOOで日産陣営の4台を統括する松村基宏総監督によると「レギュレーションでモノコックの交換は認められていないので(昨年まで2年間使用していたモノコックを)そのまま使用していますが、(レギュレーションで)替えていいモノはすべて交換しています」とのこと。そして「一新した空力だけでなく、エンジンも進化させ、セッティングも新しくなっています」とも。
空力に関しては、ボディシルエット自体は実車(市販モデル)のスケーリングで決定するから、ベースモデルの開発途中ならいざ知らず、実車が完成してから、競技車両を製作するうえでは、余り工夫の余地はないだろう。ただしデザインラインと呼ばれるボディ下半分、特にフリックボックスと呼ばれるフロント部分やラテラルダクトと呼ばれるドア下部分などは、空力開発者の腕の見せ所。ただし松村総監督は「ドラッグ(空気抵抗)は小さくしたいし、ダウンフォース(ボディを地面に押し付ける力)も多くしたい、というのは皆が思っていることですが、これはトレードオフの関係にあって、ドラッグを低下させるとダウンフォースも減る。ダウンフォースを大きくしようとすると、ドラッグも増えてくる。だからどうバランスさせるかが重要になってきます」という。
エンジンに関しては「燃焼効率を改善すること。これが重要なんです」と松村総監督。かつては燃料を多くエンジンに押し込んでパワーを捻り出していたのだが、燃料の流量を規制しているNREでは一定の燃料から、どれだけパワーを絞り出せるかが勝負になる。トルク特性や燃費なども、燃焼効率を改善することで、自然に向上する。「(一定回転以上になると)燃料の時間当たりの流量が決まっているから、パワーを上げて最高速度が高くなれば、結果的に燃費も良くなります」と松村総監督。レースで最新技術を磨くことで、一般車において近年重要視されている環境性能が磨かれているのは、いちファンとしても心強い限りだ。
セッティングに関しては、NISSAN Z GT500はライバルとは少し状況が違っている。4台が出走するZはミシュラン(23号車と3号車)、ブリヂストン(12号車)、ヨコハマ(24号車)と3種類のタイヤを使用している。だから3種類のタイヤに合わせたセッティング(タイヤに合わせ込む、と表現される)を、それぞれのチームで進めていくのだが、イニシャルというか競技車両が完成した時点でのセッティングも、3種類のタイヤが、来たるシーズンに向けどのようなキャラクターで開発されているのかも考えておく必要がある。TOYOTA GR Supraは6台のうち5台がブリヂストンで1台がヨコハマ、Honda NSX-GTは5台のうち3台がブリヂストンで2台がダンロップ。そう考えるとNISSAN Z GT500の基本セットは、より懐の広いものとしておく必要があることが分かる。
ここまで2回の公式テストで、富士では雨のセッションで力を見せたNISSAN Z GT500だが、松村総監督は「まだまだ分かりませんね。だってテストでは(トヨタもホンダも)どこも本当のパフォーマンスを見せていないでしょう」と苦笑いする。その一方で「ただ自分たちの立てた開発スケジュールは計画通り進んでいます」と力強いコメントも。果たして4月16日に岡山国際サーキットで開幕する(決勝は17日・日曜日)2022年のスーパーGTは、その開幕戦でどのメーカー、どのチームが優勝を奪い、そしてどんな展開でどのメーカー、どのチームがチャンピオンを手に入れるのか。先ずは開幕戦のキックオフを楽しみに待ちたいところだ。
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