認知度の低い制度
公共施設や商業施設の駐車場には、バリアフリー法(高齢者、障がい者等の移動等の円滑化の促進に関する法律)に基づき「車椅子使用者駐車施設」が設置されている。これらの駐車スペースは、車いすを使用する人たちが利用しやすいように施設の入り口付近に配置されるが、ときには一般人が駐車してしまうことがあり、結果として必要な人が駐車できない状況が発生している。
この問題に対応するため、各地方公共団体は「障害者等用駐車区画」の適正利用を促す「パーキング・パーミット制度」を導入している。この制度では次の人たちが利用できる対象者として指定されている。
・障がい者
・介護が必要な高齢者
・妊産婦
・けが人
これらの人たちは、歩行が困難な場合に限り、専用の駐車スペースを利用できる。こうした駐車スペースは
「思いやり駐車場」
とも呼ばれるが、認知度が低いため、広く利用されているとはいえない。日本自動車連盟(JAF)が2022年1月25日~2月28日に実施した「思いやり駐車場に関するアンケート」では、回答者の約90%が
「少し知っている」
「ほとんど知らない」
「全く知らない」
と答え、制度への認知度が低いことが明らかになった。
このように、制度の認知度は低いが、妊産婦も対象に含まれているため、子育て世帯にとっても有効な制度である可能性がある。そこで本記事では、パーキング・パーミット制度について、一児の母でもある筆者(小島聖夏、フリーライター)が自らの視点で考えていきたい。
制度は子育て世帯の味方
パーキング・パーミット制度は2006(平成18)年に佐賀県で導入され、2023年3月末時点で41府県と2市が採用している。この制度には全国統一の基準はなく、名称や規定に若干の違いがあるものの、どの地域でも妊産婦向けに利用証が交付される。
母子保護法によると、妊産婦は
「妊娠中又は出産後1年以内の女性」
と定義されている。この時期、筆者は体調の変化に悩まされていた。特に妊娠後期は胎児が成長し、おなかが前方に大きく張り出すため、バランスを取るのが難しく、その負担は想像以上に大きかった。短い距離であっても歩行に困難を感じることが多かった。
出産後は、体調が完全に戻らないまま育児が始まり、小さな赤ちゃんを連れての移動は、身体的・精神的な負担が大きかった。
このような状況下で、妊産婦がパーキング・パーミット制度の対象となり、施設の入り口に近い場所に駐車できることは非常に助かる。また、産前だけでなく産後も利用可能であるため、子育て世帯にとって大きな支援となる制度である。
地域によって異なる利用証の申請方法
パーキング・パーミット制度を利用するには、利用証の発行が必要だが、全国一律の制度ではなく、各地方公共団体によって申請方法や有効期限が異なる。そのため、自分が住んでいる地域の制度内容をあらかじめ確認することが重要だ。
確認後、定められた要件を満たしていれば、申請窓口にて申請書や身分証明書、母子手帳などの必要書類を提出すれば、利用証が発行される。
例えば、最初に導入した佐賀県では、「佐賀県パーキング・パーミット制度(身体障がい者駐車場利用証)」という名称で、申請窓口は県庁の社会福祉課や各市町の福祉課などだ。
妊産婦に発行される利用証はオレンジ色で、有効期限は原則1年未満で、特別な理由がない限り更新できない。交付要件は、妊娠7か月から産後3か月で歩行が困難な人が対象となり、多胎児の場合は妊娠6か月から産後18か月で歩行が困難な人に適用される。
筆者の出身地である山梨県では、「やまなし思いやりパーキング制度」という名称で、申請窓口は県内各市町村の福祉担当課や県福祉事務所だ。
妊産婦にはオレンジ色の短期利用証が発行され、母子健康手帳交付日から出産後1年6か月まで、多胎児の場合は出産後3年まで有効だが、いずれも「乳幼児が同伴の時に限る」という制限がある。
地域ごとにルールは異なるが、該当者は申請をすることで、日常生活での負担を軽減できる可能性がある。
制度認知不足、利用証の掲示が鍵
東京都福祉局のウェブサイトによると、パーキング・パーミット制度で利用できる「障害者等用駐車区画」は、次の2種類がある。
・車椅子使用者用駐車施設:利用者が乗り降りしやすいよう、幅が3.5m以上
・優先駐車区画:通常の駐車区画と同じ幅(約2.5m程度)または約3m程度
これらの利用方法や対象者の範囲は、各地方公共団体によって異なる。そのため、どの駐車スペースを利用できるか事前に確認しておいた方がよい。利用証を持っていても、誤って注意を受けることがあるからだ。
JAFが実施した「思いやり駐車場に関するアンケート」では、優先駐車場を利用した1690人のうち、
「13%(221人)」
が「利用対象者と気づかれずに注意を受けた」と回答し、3%(64人)が「利用対象者と気づいた上で注意を受けた」と答えている。この結果から、多くの人が注意を受けていることがわかる。
この原因は、パーキング・パーミット制度の認知度が低いことにあると考えられる。実際、ネット上でも、
「マタニティマークをつけて優先駐車場を利用した際、お年寄りから『ここは子連れ優先のところではない』と怒られた」
「スーパーの優先駐車場に止めたら、警備員から『ここはダメだ』と言われた」
といった声がある。多くの人は「車椅子などの障がい者は優先駐車場を利用できる」という認識を持っているが、他の「歩行が困難な人」も利用できることはあまり知られていないのが現状だ。
今後、各地方公共団体はより積極的に啓発活動を進める必要がある。また、利用証を持っていても、すぐにわかるようにしないと、他の利用客から
「迷惑駐車」
と思われる可能性がある。警備員に注意される手間を避けるためにも、利用証は車のルームミラーにかけるなど、外から見えるように掲示することが望ましい。
妊婦や高齢者などが安心して利用できるように、この記事を通じて多くの人がパーキング・パーミット制度への理解を深めるきっかけになることを期待している。
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