レッドブルが危機的状況に陥っている。マシンのパフォーマンスが優れず、ライバルが急接近し、マックス・フェルスタッペンのドライバーズタイトル4連覇、チームのコンストラクターズランキング3連覇に黄色信号が灯っている。彼らはなぜ、精彩を欠くことになってしまったのだろうか?
2024年もレッドブルは、圧倒的な強さでシーズンをスタートさせた。10戦を終えた段階で7勝。今季も敵なしだと、多くの人が思ったはずだ。しかしそこからは状況が一転。第11戦オーストリアGP以降、まったく勝てなくなってしまったのだ。
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この結果、ドライバーズランキングでフェルスタッペンにマクラーレンのランド・ノリスが急接近。その差は62ポイントまで縮まった。それ以上に危機的な状況なのはコンストラクターズランキングで、レッドブル(446ポイント)の後方8ポイントのところにマクラーレン(438ポイント)が迫り、さらにその後ろにはフェラーリ(407ポイント)も近づいてきており、逆転されるのは時間の問題のようにも思える。
レッドブルの2024年マシンRB20の主な問題は、ハンドリング面でのバランスにある。フェルスタッペンはこの状況について、「僕たちは歴代最高のマシンを“モンスター”に変えてしまった」と語っている。チームメイトであるセルジオ・ペレスも、マシンをうまくコントロールできていない。
チーム代表のクリスチャン・ホーナーはこれについて、次のように説明した。
「マシンのバランスに問題があり、コーナーへの進入時に、ドライバーが集中できていない」
「リヤを落ち着かせようとするとすぐに、フロントが犠牲になってしまう。そうなるとアンダーステアになってしまい、タイヤがダメになってしまううんだ」
レッドブルは、起きている事象については理解している。しかし、なぜそれが起こっているのか、またどうすれば解決できるのかということについては、解明できていないようだ。
しかしいくつかの重要な要因が、今悩まされている事象に影響を与えた可能性がある要素として浮上してきているという。
レッドブルは、挑戦しすぎたのだろうか?
レッドブルが今年の初めにニューマシンRB20を発表した時、昨年型RB19からの変化の大きさに、多くの人たちが驚かされた。
2023年のレッドブルは22戦21勝……F1の歴史上最もシーズンを席巻したチームとなったわけだ。しかしレッドブルはその栄光に満足するのではなく、空力面と冷却面を大きく改善。さらにパフォーマンスを引き上げることを追求しようとした。そのため、マシンの形状は大きく変化したのだった。
しかし今シーズンここまでを振り返ると、マイアミGP以降ほとんど変わっていないマシンを最適化するだけで、マクラーレンがパフォーマンスを大きく引き上げてきた。つまりレッドブルとしては、過度な努力が裏目に出てしまった可能性がある。
ホーナー代表は次のように語った。
「我々が本当にすべきことは、空力マップを機能させることだと思う。マクラーレンを見れば、昨年のマシンの進化版のように見えるが、我々のマシンよりもはるかにシンプルなんだ」
「我々は少し複雑になりすぎたのかもしれない。いくつかの部分を、もう少しシンプルにする必要があるかもしれないね」
また圧倒的な強さを誇ってきたレッドブルは、まさに現代F1の先駆者。現世代のマシン開発においては、限界に達しているのではとの指摘もある。もしそうならば、大幅に戦闘力を向上させるのは、不可能なことかもしれない。
「特定の領域では限界に達してしまい、マシンがバラバラになっている」
そうホーナー代表は続けた。
「場合によっては、ダウンフォースを少し減らしても、全体的なバランスを改善することができれば、ラップタイムやデグラデーション(性能劣化)、タイヤマネジメントという点において改善できるかもしれない」
ニューウェイの離脱は痛手か?
マイアミGP以降レッドブルが調子を落とし始めたというのは、空力の鬼才とも呼ばれるエイドリアン・ニューウェイがチームを離れることを決めた時期とも一致する。ニューウェイの離脱はマイアミGP直前に発表……そしてその直後のグランプリで、今季初めてマクラーレンに敗れることになった。
ニューウェイはまだチームに残っており、正式に離脱するのは2025年の第一四半期が終わってからということになる。ただ、マシンの技術面に関してはもはや関与していないのは明らかである。
近年のレッドブルのマシンは、ニューウェイひとりがデザインしたというわけではない。しかしコンセプトのアイデアを練る際に貴重な意見を出したり、状況が不安定になった時にその安定性を取り戻す上で貢献したりと、彼の存在は絶大であった。
しかしホーナー代表は、ニューウェイが離脱したことが、現在の苦境の原因だとは考えていない。なぜなら、ニューウェイがチームに深く関わっていた時から、問題が明るみに出ていたと考えているからだ。
「問題は既に生じていた。その時の問題が、まだ残っているんだと思う」
そうホーナー代表は言う。
「そしてひとりの人間の意見が、これほど早く劇的な結果をもたらすことはあり得ない」
「この問題はマイアミで始まり、その後本当に顕著になっていった。エイドリアンはマイアミGPの金曜日まで、チームに参加していた。だから、これほど早く影響が出るはずはないんだ」
ニューウェイが今もチームに残っていれば、解決策を見出すことができたと思うかと尋ねられたホーナー代表は、次のように語った。
「F1はチームスポーツだ。これはチームの問題なんだ。そしてチームがその問題の解決策を見つけるだろう」
新しい問題ではない
レッドブルは、どこで問題が起きたのかを正確に理解するために、最新のアップデートよりもさらに先を見据える必要があるかもしれない。
ホーナー代表の興味深い示唆のひとつが、アンバランスな特性はしばらく前から存在していたのかもしれないが、以前はレッドブルの車両が圧倒的な優位に立っていたため、その事実が覆い隠されていたのではないかということだ。
しかし今季はマクラーレンやメルセデス、そしてフェラーリが前進。そのため問題が露呈することになったと、ホーナー代表は考えている。
「この問題はしばらく前から存在していた」
そうホーナー代表は語った。
「実際にデータを調べてみると、今年の初めにはそういう特性の問題があったんだ」
「明らかにライバルが前進してきたと思う。そして我々がパッケージを攻めていくにつれて、問題が露呈することになったんだ」
「さらにデータを遡っていくと、昨年のオースティン(アメリカGP)のレースでもこの現象が見られた。だからこれは、対処しなければいけない特性だと分かっている。ミルトンキーンズのファクトリーでは、そのことに全力を注いでいる」
風洞の相関関係の問題
多くのチームが直面する大きな頭痛の種のひとつが、風洞実験のデータと、実際にF1マシンがサーキットを走った時のデータとを一致させるのが、非常に難しいということだ。
各チームが風洞実験で再現できるスピード、そして実験モデルの縮尺は、実際のマシンとは異なる。そういうこともあり、データの不一致を解明するのは実に困難だ。
レッドブルは、RB20で明らかになったバランスの問題は、シミュレーションでは明るみに出なかったと明かしている。
「最近のアップデートは、マシンで発生するダウンフォース量を増やすことを目的にしていたと思う」
そうホーナー代表は言う。
「フロントとリヤのバランスがバラバラなんだ。それは分かっている」
「しかし風洞ではそういう結果にはなっていなかった。でも、コース上を走るとそうなる。つまりこの状況を乗り越えることが重要なんだ。そういう差異があると、ツールを信用することができないからだ。だから、コースでの実走データと、過去の経験に戻る必要があると思う」
マクラーレンは、最新鋭の風洞をうまく活用し、今季の躍進に繋げてきたように見える。一方でレッドブルの風洞は古く、おそらく業界で最高の施設というわけではない。
現在ミルトンキーンズの敷地内には、新たな風洞施設が建設中。これが完成し稼働を開始すれば、大きな後押しとなるだろうが、それでもホーナー代表は、風洞が古いことが、現在の苦戦の言い訳になるとは考えていない。
「風洞には限界がある。だから新しい風洞に投資したんだ」
ホーナー代表はそう語った。
「でも、我々が手にしている風洞はそれしかないのだから、その風洞を活用しなければいけない。そして、風洞はおそらく苦戦の一因であるものの、我々が今立たされているポジションの理由ではないはずだ」
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