イタリア北部、世界的な高級リゾートとして知られるコモ湖のほとりを舞台に開催される「コンコルソ デレガンツァ ヴィラ・デステ」、通称「ヴィラ・デステ コンクール」が2022年も開催された。現存する世界最古の自動車コンクールを、イタリア在住のジャーナリスト、大矢アキオ氏がリポートする。
Concorso d’Eleganza Villa d’Este|コンコルソ・デレガンツァ・ヴィラ・デステ
2011 World Car of the Year ファイナリストを発表
コンコルソ・デレガンツァ・ヴィラ・デステ2022リポート
イタリア北部、世界的な高級リゾートとして知られるコモ湖のほとりを舞台に開催される「コンコルソ デレガンツァ ヴィラ・デステ」、通称「ヴィラ・デステ コンクール」が2022年も開催された。現存する世界最古の自動車コンクールを、イタリア在住のジャーナリスト、大矢アキオ氏がリポートする。
Text by Akio Lorenzo OYA|Photographs by Mari OYA/Akio Lorenzo OYA
フィアット創業家3代目の密かな趣味
湖面ではモーターボートが行き交い、水上機もたびたび離陸し空高く舞う。そうした光景を一望できるグランドホテルには、今回も数々の物語を秘めたクルマたちが初夏の木漏れ日を浴びながら筆者を待っていた。
欧州を代表する古典車コンクール「コンコルソ・デレガンツァ・ヴィラ・デステ」が2022年5月21日-22日にイタリア北部コモ湖畔チェルノッビオで開催された。縮小版として開かれた2021年10月同様、隣接する「ヴィラ・エルバ」での参加車一般公開は今回もキャンセル。参加車オーナーとゲストのみで行われた。
最高のコンサートのごとく──コンコルソ・デレガンツァ・ヴィラ・デステ2022が開催| Concorso d’Eleganza Villa d’Este2019年以来3年ぶりの初夏開催に。51台のエントラントが7クラスに分かれて競ったvia Web Magazine OPENERS
クラス数は前回同様7つだが、台数は47台から51台に増やされていた。
クラスB「コンプレッサー! スーパーチャージャー付きメルセデス・ベンツ」の参加車が集まる一角では、1936年「540Kスペツィアル・ロードスター」と対面することができた。当時1台あたり5カ月をかけたという、そのひときわ優雅なメーカー製ボディと、約30台(諸説あり)しか造られなかったことから、戦前型メルセデス・コレクターの間では垂涎の1台である。
その優雅さと対照的に、この時代のメルセデスのステアリングの重さと取り回しは、かなり大変であると、かつて専門家に聞いたことがある。
さらにスペツィアル・ロードスターは、全長5メートルを超えるうえ、ひときわ長大なエンジンフードをもつ。しかし、現オーナーで米国在住のリチャード・ワークマン氏は「時速30マイル(約48km/h)あたりからの走行安定性は、きわめて快適です」と筆者に教えてくれた。このクルマはクラスウィナーこそ逃したものの、選外佳作賞に選ばれた。
最高のコンサートのごとく──コンコルソ・デレガンツァ・ヴィラ・デステ2022が開催| Concorso d’Eleganza Villa d’Este1936年「メルセデス・ベンツ540Kスペツィアル・ロードスター」via Web Magazine OPENERS
クラスC「ヴィラ・デステの150年」には、往年のホテルゲストたちが乗りつけたことをイメージさせるクルマたちが集められた。
クラスウィナーとなった1956年「クライスラー・クーペ」の初代オーナーは、フィアット創業家3代目の故ジョヴァンニ・アニェッリだった。彼はトリノの「ボアーノ」にカスタムメイドのボディをオーダー。実際に鑑賞しても、米国車の華麗さとカロッツェリア・イタリアーナの優雅さが素晴らしい調和をみせている。さらに当時としては珍しいグラスルーフまで備えている。ただし、当時アニェッリとしては、やはり他社製車を運転するのは気が引けたようだ。弟でパリを拠点としていた弟ウンベルトに譲っている。ちなみにフィアットは、アニェッリ兄弟の没後、2014年にクライスラーを傘下に収めている。もし彼らが生きていたなら、このクルマを堂々と乗り回すことができたのに、と思うと興味深い。
最高のコンサートのごとく──コンコルソ・デレガンツァ・ヴィラ・デステ2022が開催| Concorso d’Eleganza Villa d’Este1956年「クライスラー・クーペ・ボアーノ」。発注したフィアットの総帥ジョヴァンニ・アニェッリの自動車趣味性がしのばれる。via Web Magazine OPENERS
伝説のジェントルマン・ドライバーたち
伝説のジェントルマン・ドライバーたち
クラスG「スピードの壁を破る:夢の時速300キロメートルを追ったクルマたち」の選外佳作賞に選ばれた1971年「シトロエンSM」にも触れる必要があろう。ヴィラ・デステとしては珍しい70年代のフランス製量産車が参加できた背景には理由がある。
米国のメカニック、ジェリー・ハザウェイはフランスの前衛的デザイン+マセラティ製エンジンというSMに魅了され、同車のチューンを決意する。まず243km/hを達成。さらにギャレット製スーパーチャージャーを付加して、321.9km/h(時速200マイル)を記録した。確実なブレーキングのために装備されたパラシュートは今も残る。
クラスF「BMW“M”カーとその祖先たち」も華やかだった。50周年を迎えたBMWのスポーツ系モデルがあたかも歴史絵巻のごとく、マシンゆかりの人々とともに現れた。
最高のコンサートのごとく──コンコルソ・デレガンツァ・ヴィラ・デステ2022が開催| Concorso d’Eleganza Villa d’Este1978年「BMW320」グループ5ツーリングカーレース仕様に乗って現れたのは、かつて同車で戦ったエクハート・シュインプ氏(左)。via Web Magazine OPENERS
たとえば、1978年「BMW320」のグループ5ツーリングカーレース仕様は、実際に同車で戦ったエクハート・シュインプ氏の操縦で現れた。現役時代、雑誌編集長でありながらプロレーサーだったという異色の経歴の持ち主である。
最高のコンサートのごとく──コンコルソ・デレガンツァ・ヴィラ・デステ2022が開催| Concorso d’Eleganza Villa d’Este2台の「BMW M1」。左は1979年のプロカー仕様。右は1981年の量産仕様だが、35年間シチリアの倉庫に眠っていたもので、走行距離は7329kmに過ぎないvia Web Magazine OPENERS
1979年「BMW M1」は五十数台が製造されたプロカー仕様で、うち5台造られたワークスカーの1台である。パレードでは現オーナーで実業家のミヒャエル・ヒンデラー氏が、観客席にいるひとりの紳士を呼んだ。1980~90年代にDTM(ドイツ・ツーリングカー選手権)に参戦し、現在BMWのブランド・アンバサダーを務めるレオポルド・プリンツ・フォン・バイエルン氏であった。
最高のコンサートのごとく──コンコルソ・デレガンツァ・ヴィラ・デステ2022が開催| Concorso d’Eleganza Villa d’Este1979年「BMW M1」プロカー仕様の現オーナー、ミヒャエル・ヒンデラー氏(左)と、元BMWのワークスドライバー、レオポルド・プリンツ・フォン・バイエルン氏(右)via Web Magazine OPENERS
そのあと彼は、筆者に日本の友人の話を次々と楽しそうに披露した。そう、1990年代にババリア王子は全日本ツーリングカー選手権でも活躍していたのだった。シュインプ氏とともに、獰猛なマシーンのイメージとは対照的ないで立ちと語り口で、まさにジェントルマン・ドライバーの名がふさわしかった。
新時代のコレクター
新時代のコレクター
一方、招待者投票による「コッパ・ドーロ」に選ばれたのは、1979年「アストン・マーティン・ブルドッグ」(タイトル上部の写真)であった。「時速200マイル(約321km/h)に到達できる車両を」という、あるスペシャルクライアントの要望に応えるかたちで当時メーカーが製作したものだ。
チューブラーフレームに既存の5.3リッターV8エンジンをミドシップしている。全高はわずか1.09メートルに過ぎない。1976年「ラゴンダ・シリーズ2」と同じ英国人デザイナー、ウィリアム・タウンズによる攻撃的なデザインは、今日見ても衝撃的だ。1981年に時速192マイル(約308km/h)を達成しているが、丹念なレストアに成功した現オーナーは、NFLオースティン・テキサスの共同オーナーでもある実業家フィリップ・サロフィム氏。
彼は、設計時のスペックである時速200マイルのテストランを計画している。そのサロフィム氏といえば、2018年のヴィラ・デステには、イタリア自動車史上記念すべきコンセプトカーの1台である1970年「ランチア・ストラトス・ゼロ」を持ち込み、賞を獲得している。
今回の受賞直後サロフィム氏は筆者に「今回の賞は、かつてこのクルマのために素晴らしい業績を残した人、レストアに尽力した人双方に捧げたい」と語った。彼は1986年生まれの36歳。かつてのアヴァンギャルドの自動車史的意義を理解する、新世代コレクターの登場は好ましい。名器といわれる楽器同様、たとえ名作でもしかるべき財力と鑑識眼をもった人物のもとで保管されないと、その輝きはたちまち失われてしまうからだ。
楽器ついでにもう一言お許しいただければ、例年以上に多様なクルマたちが揃った今年のヴィラ・デステはコニサー(目利き)たちにとって、古典から近代作品まで見事に組まれたコンサートプログラムに通ずる楽しさがあったはずである。
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