約2カ月のサマーブレイクを経て再開のときを迎えたETRCヨーロピアン・トラック・レーシング・チャンピオンシップ第5戦が、8月31日~9月1日にチェコ共和国のアウトドローモ・モストで開催され、予選での優位性を維持した王者ノルベルト・キス(レベス・レーシング/マン)が、すぐにタイミングスクリーンのトップに躍り出ることに。
昨季から継続する“年間予選全セッション制覇”の記録を堅持したキスが、土日双方のオープニングヒートを制すると、レース2ではスペイン出身アントニオ・アルバセテ(Tスポーツ・ベルナウ/マン)が今季2勝目を獲得。同じくリバースグリッド採用の最終レース4では、上位クラスを出し抜きChrome(クローム)登録のホセ-エドゥアルド・ロドリゲス(ロボコノーテ・レーシング・トラックチーム/マン)が自身初の総合優勝を果たしている。
持続可能性への取り組みで、FIA最高位の“三つ星”環境認定を取得「トラック界の前向きな進展」/ETRC
夏休みが終わり13台のトラックが今季3回目の実施となるセッション分割制の予選に挑むと、5分間のQ3でわずか10分の1秒差で最速ラップを記録したキスが、まずはシリーズ6冠の“帝王”ヨッヘン・ハーン(チーム・ハーン・レーシング/イベコ)を抑えて今季9回目の最上位グリッドを確保した。
迎えたレース1のスタートでは、背後の2列目で熾烈なバトルを展開したアンドレ・クルシム(ドント・タッチ・レーシング/イベコ)が、イン側のサッシャ・レンツ(SLトラックスポーツ30/マン)と接触してトラックが跳ね上がり、3輪走行のままグラベルへ突入。ターン3に向かって進んでいたポールシッターにあわや接触の瞬間を迎える。
しかしこれを寸でのところで回避したキスは、追い縋るハーンとレンツ(接触はスチュワードによってレースインシデントとみなされた)、さらに前戦で今季初勝利を収めて上り調子のシュテフィ・ハルム(チーム・シュバーベントラック/イベコ)らをあっさり引き離して決着。まずは今季14勝目を手にした。
続いてトップ8リバースの先頭からレース2を開始したアルバセテも、シームレスなドライブで王者の再演を狙い、背後まで浮上してきたハーンを退けポール・トゥ・ウインを決めてみせる。その後方でキスが土曜2度目の表彰台に上がらないよう全力を尽くしたハルムとレンツだったが、ふたりはターン1へのレイトブレーキング競争で2周連続撃破の憂き目に遭い、勝者アルバセテの両脇を“帝王”と“絶対王者”が固めるポディウムとなった。
■自身のパフォーマンスを懐疑する“挑戦者”ハーン
明けた日曜は、前日とは異なり予選Q3の最初のラップでほぼ0.5秒のアドバンテージを獲得したキスが年間全制覇記録を更新。一方、ハルムのイベコは予選が始まる前のウォームアップセッション中にステアリングの奇妙なトラブルに見舞われ、コラムに取り付けるホイールの中央部分が外れてしまう。この原因不明のトラブルで自信を喪失したか、彼女はQ3進出を逃す結果に終わる。
迎えたレース3は結果こそキスの勝利に終わるも、他の14勝とは異なり、この15勝目はリヤバンパーに張り付いたハーンの存在により「予想以上にプッシュせざるを得なかった」ことを認めた。
「ライバルが昨日と比べてかなり進歩したので、彼らはいい仕事をしたんだと思う」とチェッカー後に振り返ったキス。「レースペースは尋常でないほど速かった。僕らは(ポールタイムの2分1秒263に対し)つねに2分2秒台でラップし、3秒台はなかったと思う。これはとんでもなく速いペースだ」
「レースの間はずっと、彼(ハーン)は僕にとても接近していたので、僕は自分自身とトラックを限界まで追い込んで、少しのギャップを保って前にいようとしなければならなかった。そうすれば、彼は追い越しを試みられないからね」
一方、現役王者に対し挑戦者の戦いを強いられ続けているハーンも「接戦だったが(キスに)技術的な問題があったのか、それとも僕と戯れていたのかは分からない」と、自身のパフォーマンスにまだ懐疑的な部分があると明かす。
「このレースでは、僕たちは同じレベルで勝利のために戦った。トラックに座って『ああ、可能だ』と思ったよ。そしてプッシュしてプッシュしてプッシュし、ラップタイムを見ると昨日より0.5秒以上速かったんだ」と続けた帝王。
「これは我々が進歩しているだけでなく、この瞬間に自分の頭脳や技術も向上していることを意味する。それはまさにモチベーションのようなものだ。チームの懸命な努力に感謝するよ」
集団内では今朝の問題がまだハルムを悩ませていたようで、総合順位でライバルたちと戦うためにクロームドライバーたちをかわすのに苦労した彼女は、このヒートで8位まで浮上し、最終のレース4に向け挽回の機会を得るリバースポール発進の権利を手にする。
しかし大事なスタートで周囲のクローム登録陣営に先行を許したハルムは万事休す。フロントロウに並んでいたマーク・テイラー(テイラーズ・トラックスポーツ・レーシング/マン)を巧みにかわした3列目発進のロドリゲスが、アウト側からのスイッチバックで首位を奪取。そのままETRCで初の総合優勝を決めてみせた。
その背後ではアルバセテとハーンの接触バトルに乗じてキスが今季20回目の表彰台に登り、最終的にテイラーを仕留めたハーンも最後のお立ち台へ。やはり実力者たちが強さを発揮し続けるFIA ETRCの2024年シーズンは、モストを終えて次戦で大詰めの第6戦へ突入。9月28日~29日にフランスはル・マンのブガッティ・サーキットで天王山を迎え、10月5日~6日にスペイン・ハラマでの最終戦へと続いていく。
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