MotoGPファンであっても、ライダー以外についてはあまり知らない人も多い……motorsport.comではMotoGPパドックのスタッフ達がどんな人物なのか、そこにスポットライトを当てることにした。【もっと知りたいMotoGPキーパーソン】連載第2回は、マルク・マルケスや長島哲太も所属した中排気量クラスで最強の一角を占めるアヨ・モータースポーツ(Ajo motorsport)を率いるアキ・アヨだ。
アキ・アヨ───名伯楽(人物を見抜く眼力のある人)、という言葉がこれほど似合う人も珍しい。
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たとえば2022年シーズンのMotoGPクラスを見渡してみると、マルク・マルケス、ヨハン・ザルコ、ジャック・ミラー、マーベリック・ビニャーレス、ミゲル・オリベイラ、ブラッドとダリンのビンダー兄弟、ホルヘ・マルティン、レミー・ガードナー、ラウル・フェルナンデス、と全24選手中10人がこの人のチーム出身者だ。クラス全体の4割強、と数字で表せば、影響力の大きさがさらに明確に分かる。
この人が指揮するチームでチャンピオンを獲得した選手を挙げていくと、さらに圧巻だ。
2008年のマイク・ディ・メリオ(125cc:2008)を嚆矢として、マルク・マルケス(125cc:2010)、サンドロ・コルテーゼ(Moto3:2012)、ブラッド・ビンダー(Moto3:2016)、ヨハン・ザルコ(Moto2:2016、2017)、ペドロ・アコスタ(Moto3:2021)、レミー・ガードナー(Moto2:2021)と、ここ15年で8回のタイトルを獲得している。中小排気量クラスでは最強の陣営、と言っていいだろう。ジャズ界の巨人マイルス・デイビスの「マイルス・スクール」に倣えば、さしずめ「アヨ・スクール」とでも言うべきだろうか。
そんな表現もけっして大仰ではないほど、アキ・アヨ率いるアヨ・モータースポーツはMotoGP中小排気量クラスで大きな存在感を発揮している。
とはいえ、彼らは最初から大きな影響力を備えたチームだったわけではない。フィンランド選手権などを戦ってきたアキ・アヨが、こぢんまりとした自らのチームを率いて世界選手権125ccクラスへ本格参戦を開始したのは2002年。このシーズンはタイトルスポンサー名を前面に出したエントリー名だったが、その翌年から「アヨ・モータースポーツ」のチーム名で参戦するようになった。
この2003年には東雅雄が加入。東はこの年が現役最後のシーズンになったが、最終戦ひとつ手前のオーストラリアGPでは、路面が生乾きの難しいコンディションで2位に入賞。チームメイトのアンドレア・バレリーニが優勝し、チーム初の1-2フィニッシュを達成した。また、これはチームにとって初めてのグランプリ表彰台でもあった。
個人的なことを言えば、アキ・アヨとしっかり話をするようになったのは、この翌々年、小山知良が所属して参戦を開始した2005年シーズンからだ。開幕前のプレシーズンテストか何かでアヨから話を聞いた際に、こちらの連絡先を記した名刺を渡すと、それを一瞥した彼が「ほう、わたしと同じ名前じゃないか。これなら憶える必要がない」と言われたことを記憶している。それ以来、パドックでは折に触れて話をするようになった。何年か前にレースへ向かう際のフランクフルト空港でばったり出くわしたときには、雑談しながら搭乗前の列に並んでいると、ボーディングゲートでなぜか自分だけビジネスクラスにアップグレードされ、彼はエコノミークラスのままだったので妙に気まずい思いをしたこともあった(アヨは「よかったな、ラッキーじゃないか」と笑っていたけれども)。
話を戻すと、参戦当初のアヨ・モータースポーツは、北欧を母体とする組織構成でユニークな存在感を発揮していたものの、小さな所帯でチーム経営もけっしてラクではなかったようだ。ただ、車両やパーツメーカーとの付き合いは良好だったようで、ともすれば各種支払いを滞らせるチームも珍しくないなかで、パドックのサプライヤー関係者などから聞く話でも、当時からアヨは誠実なビジネス関係を構築していた様子が窺える。グランプリ参戦当初はホンダのマシンで125ccクラスに参戦していたが、マラグーティを経てデルビ(事実上のアプリリア陣営)になったころが転機だったのかもしれない。2008年にディ・メリオがチームに初のチャンピオンをもたらし、その2年後、2010年にマルケスがタイトルを獲得した。2012年にはマシンをKTMへスイッチして、2015年にはMoto2クラスへも参戦を開始。以後の強豪ぶりは説明する必要もないだろう。
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