いよいよ8日から走行が始まったWEC世界耐久選手権第6戦富士6時間レース。ハイパーカークラスにエントリーするトヨタGAZOO Racingは、8号車がランキング首位、7号車がランキング2位で迎える終盤2戦ということで、重要な局面を迎えている。
昨年よりトヨタGAZOO Racing・ヨーロッパ(TGR-E)を副会長という立場で率い、今季はWECチームのリザーブドライバーも兼務する3度のル・マン王者・中嶋一貴に、現在のチーム状況、そして富士で急遽WECデビューが決まった宮田莉朋の現在地と将来について、8日の走行前に話を聞いた。
GTテスト中に届いた突然のオファー。WEC電撃デビューの宮田莉朋「これが人生の将来を開く道」
■BoPをめぐるACOとのコミュニケーション
トヨタのWECのドライバーはWEC富士の決勝1週間前、9月3日のイベントから日本での活動を開始。「東京でプジョーさんとのコラボイベントにもお邪魔させていただきましたが、思った以上に多くの方に集まっていただき、WECの盛り上がりを感じました」と一貴副会長。
「その後もパートナーさんの訪問であるとか、GRの工場の見学などもしましたので、ドライバーたちは結構刺激的な時間を過ごして、たくさんのエネルギーをもらって富士入りしていますので、そういった意味ではいい雰囲気です。今日はちょっと天気が微妙ですが……」
ル・マン後、ハイパーカークラスでは終盤3戦に向けた新たなBoPが発表された。ル・マンではテストデー直前、取り決めにない不可解なタイミングでのBoP変更があったことでACOフランス西部自動車クラブとの“関係性”が心配されるような事態にも陥ったが、一貴副会長によれば、その後もコミュニケーションを取り続けたことで、現在は将来に向けて良好な関係を維持しているようだ。
「(ACOと)いろいろとコミュニケーションをとっていくなかで、状況としては正しいというか、健全な方向に向かっているような気はしています。ル・マン後に残り3戦のBoPを発表して、それは変えないという形になっていますし、そこはモンツァの後もブレることなく今回の富士に向かってきています。他のメーカーもいろいろコミュニケーションは取っているとは思いますが(苦笑)、少なくともル・マン前に起きたような、首を傾げたくなるような変な方向には行ってはいけないよね、という話はできていると思っています。また、もう少し時間が経てば、その方向性もはっきりしてくるはずですよ」
富士とバーレーンでは、ドライコンディションの際、プジョー9X8のハイブリッド使用可能速度が、これまでの150km/から135km/へと引き下げられている。一貴副会長も、「フェラーリとは(力関係は)あまりモンツァと変わらず、スピードとしては互角じゃないかと思いますが、プジョーがどれくらい速くなるか」とその動向を気にしている。
「富士は4輪で加速していく箇所は“効く”サーキットですから、結構影響はあるのではないかと思っていますし、逆にどれくらい速いのかなという、ちょっとファン的な目線で気になっています。とくにセクター3が効くと思うんですよね」
■モンツァ戦は「真摯に受け止める必要がある」
前戦モンツァでは7号車陣営が優勝を飾った一方、8号車はセバスチャン・ブエミが序盤に2回の接触によりペナルティを受けたほか、4位まで追い上げてフィニッシュした後「レースの190周目に、技術規則およびBoP(性能調整)で定められた、パワートレインからの最大放出パワーを超過した」として、5秒間のストップ&ゴー・ペナルティに相当する50秒加算の裁定を受け、6位に降格していた。
これらモンツァで起きた一連の問題について、一貴副会長は次のように総括している。
「ドライバーエラーの部分もありますし、タイヤの選択的にドライバーを難しい状況に置いてしまった、という側面もあります。何が正しかったのかはきちんとレビューしつつも、その判断は簡単ではありませんから、そこは学びながら、また改めてやっていくしかないかなと思います。ドライバーもああいうレースから学ぶことがあるでしょうからあまり心配はしていませんし、チャンピオンシップ的には(ランキング3位のフェラーリの)51号車も良いレースにならならなかったのは不幸中の幸いでした。ただ、ドライバーエラーで周りに迷惑をかけてしまった部分があるので、そこは真摯に受け止めて、同じことを繰り返さないようにしなくてはなりませんね」
最大放出パワーの問題については、チームの方で対策済みだという。
「結構特殊な状況において、ドライバーが特定の操作をするシチュエーションでそうなってしまう、というのがモンツァで分かったので、そういうことが起きないようにコントロールをしてもらうように、今回はしています」
■シミュレーターで見えた宮田莉朋の“準備”
そして今回の富士で注目されているのが、宮田莉朋のWECデビューだ。既報のとおり、LMGTEアマクラスのケッセル・レーシング57号車フェラーリ488 GTE Evoで木村武史、スコット・ハファカーとともにエントリーが決まった宮田だが、ケッセル/木村側からの打診をTGR WECチャレンジドライバーである宮田に伝えて出場意思を確認したのは、一貴副会長だった。
「最初は僕もびっくりしました。火曜日の朝というタイミングでしたしね。ただ、そういう話をいただけるのはありがたいことですし、木村さんも莉朋を念頭に最初からお話ししてくれたようで、やはり今年WECのチャレンジプログラムとしてやらせてもらっている(宮田をチャレンジドライバーに選出している)ことも何かしらトリガーになったのかなと思うと、今年それをやっていてよかったと思います。もちろん、彼がスーパーフォーミュラとスーパーGTで活躍して、彼自身が『海外に行きたい』と口にしていることも、今回の機会につながったと思っています」
木村と一貴副会長は当然面識があり、WECの現場で顔を合わせれば「挨拶だけでなく、いろいろな話をさせていただいている仲」だという。「同じ“日本代表”として、こうしてコラボレーションできることはありがたいです」。
一貴副会長自身が今年のスーパー耐久・富士24時間レースにニッサンZをドライブして出場したことも記憶に新しいが、最近のトヨタGAZOO Racing内では、“メーカーの垣根”というハードルはほとんど意識しなくていい状況のようだ。
「とくにトヨタGRには、垣根というものはございませんので(笑)、こういう話はウェルカムです。ただ、今回はタイミングがタイミングだったので、莉朋もスーパーGTのテストをやりながらWECの準備ということで大変だったでしょうが、こうやって臨機応変に動けるのがモータースポーツの醍醐味だと思います」
宮田はここまで、ル・マンとモンツァでTGR WECチームに帯同しただけでなく、ドイツ・ケルンのTGR-Eでシミュレーター業務も行っている。自宅にシミュレーターを持つ宮田だけに、その部分の能力には当初から一貴副会長も期待を寄せていた。むしろ、宮田が一貴副会長を驚かせたのは、それ以外の部分だったという。
「シミュレーターでのパフォーマンスは、レギュラードライバーより速くておかしくないと思っているので、そこは期待どおりです。あとはコミュニケーションの部分で、僕が想像していた以上にちゃんと準備をしてきているというか、ちゃんと海外を見据えて日本でも何かしらやってきたんだろうな、ということがすごく感じられたので、より『サポートしたいな』という気持ちにさせてくれます」
宮田の今後については「走ることは心配していないので、できる限り海外でいろいろと経験を積んでもらえればと思いますし、成長できる環境を提供したい」と一貴副会長。その“成長できる環境”、具体的には海外での参戦に向けたアウトラインは、徐々に固まりつつあるようだ。
「まぁ、いろいろと話は進めていますよ……トヨタからの発表までは言えませんけど(笑)。ただ、彼の今年のパフォーマンス、とくにスーパーフォーミュラで(現在)チャンピオンシップリーダーであることは、非常に強いインパクトがあるので、その部分では(対外的に)話がしやすい状況にはありますね」
今週末のWEC富士では、トヨタGAZOO Racingのタイトル争いとともに、将来を見据えた宮田のパフォーマンスにも、大きな注目が集まる。
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みんなのコメント
ここへきて、スーパーGTとスーパーフォミュラーに
続いて、WECまで参戦して、大活躍ですね。
とても楽しみな選手です。