1984年の創設以来、アメリカが誇る名門チームとして栄光の歴史を積み重ねてきたヘンドリック・モータースポーツ(HMS)は、最高峰NASCARカップシリーズで通算14回のタイトルを獲得。2022年もチャンピオン防衛を期したカイル・ラーソン(シボレー・カマロ)を筆頭に、同2020年王者チェイス・エリオット、ウイリアム・バイロン、アレックス・ボウマンの強力な4台体制でカップ戦に挑んできた。
そのHMSは先月11月14日より2日間のスケジュールで、バージニア・インターナショナル・スピードウェイ(VIR)を専有し、来季2023年のル・マン24時間参戦に向けた特別枠“ガレージ56”から出場予定のNext-Genベース『シボレー・カマロZL1』の本格テストを実施。その会期を終えた11月16日には『Drones eye view of Hendrick Motorsports' Campus』と題して、本拠地ファクトリー内を"飛ぶ動画がNASCARの公式チャンネル内にて公開された。
ガレージ56枠から2023年ル・マン参戦のNASCAR車両は「ハイブリッドが前提条件」とACO会長
アメリカ・バージニア州パーマースプリングスの小さなコミュニティで育ったリック・ヘンドリックは、父ジョーとの協業で瞬く間に自動車小売業で成功を収めると、1984年にはHMSを立ち上げ本格的にモータースポーツ界へ進出。
ジミー・ジョンソンやジェフ・ゴードンら、これまで数多く輩出してきた“レジェンド”たちと勝ち獲った幾多の勝利にも支えられ、ヘンドリックは2013年に国際モータースポーツ殿堂入りを果たすと、同じく2017年にNASCARでも“Hall of Fame”の一員に加わっている。
そのHMSが現在の拠点を構えるノースカロライナ州コンコードでは、140エーカー(約57万平米/東京ドーム約12個分)の敷地に、43万平方フィート(約40万平米)のワークスペースを備えた最先端の施設が建造されており、同ファクトリーでは4台体制のカップ戦エントリーを支えるべく600名以上の従業員が勤務しているという。
そんなヘンドリック家が創業した組織の最新作となる『シボレー・カマロZL1・ガレージ56テストカー』は、この11月にもプログラムの2回目となるオントラック・セッションに進み、伝統的なOHVの自然吸気V8を“改良した”車両で、極寒のテストを敢行した。
■マイク・ロッケンフェラーがテスト車をドライブ
「このクルマはまだ間違いなく『赤ん坊』だ。そのため、このセッションではいくつかのバグの解決を目的としていた。正直なところ、今日のパフォーマンスは想定内で満足いくものだった」と語るのは、HMSのコンペティション部門ヴァイス・プレジデントであるチャド・クナウス。
そのクナウスによれば、来季のサルテを見据えたこのNext-GenカマロZL1は、シャシー、エンジン、サスペンションの各コンポーネントが大幅に更新され、サイドビューミラーも追加。エアロの面でも安定性を増すべくダイブプレーンが大型化され、フロアのスプリッターやディフューザーも「よりロバスト性を考慮した」マイルドな特性のモノに変更されたという。
その『シボレー・カマロZL1』テストカーのステアリングを握ったのは、元ル・マン24時間総合優勝経験者でもあるマイク・ロッケンフェラーだ。彼にとっては8月29~30日のロードアトランタで、同じくGM(ゼネラルモータース)陣営のアクション・エクスプレス・レーシングとともに走らせて以来のカマロ搭乗となった。
「間違いなく大きな一歩だね。とは言いつつ、僕らは一体……どこから始めればいいんだい?(笑)」と、今季カップ戦ではゲストドライバーとしてデビューも果たし、このNext-Gen車両でキミ・ライコネンやダニール・クビアトらとも争ったロッケンフェラー。
「重量が減り、ダウンフォースが少し増えた。アトランタでの(最初の)テストとタイヤスペックは同じだが、パワーは少し増えたようだ。パドルシフトがあり、トラクションコントロールがあり、新しいダッシュ(ハイブリッドパワー)がある。つまり、基本的にはすべてが大きく異なっていた。ル・マンでのレースカーになると僕らが考えるものにかなり近づいているけれど、それでもまだ長い道のりがあるね」
その後も配電モジュールに起因する電装系トラブルや、燃料ポンプの問題が出たものの、NASCARのCEOであるジム・フランス以下、同副会長のマイク・ヘルトン、最高執行責任者であるスティーブ・オドネルやIMSAのジョン・ドゥーナン代表らも見守るなか、ダウンフォース、タイヤ構造とコンパウンド、そして“変更されたパワートレイン”の信頼性確認など有意義なメニューを消化した。
「これは最初のステップであり、今後6カ月の間に膨大な量の反復が行われるだろう」と前出のクナウス。「ペースの観点からマージンを増やそうとしているし、重量とパフォーマンスの観点からも、クルマをより速くするためにプッシュし続けたいと思っている。その上でNext-Gen規定の枠外で、自由に革新的な挑戦の場が与えられたことは、今後の我々のクリエイティビティにも良い影響がもたらされるかもしれないね」
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