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大企業に挑む野心的起業家 ヘンリック・フィスカー EVに見出した「勝機」とは

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大企業に挑む野心的起業家 ヘンリック・フィスカー EVに見出した「勝機」とは

超短期間で新型車を開発する秘訣とは

ヘンリック・フィスカーが考えるまともなホテルの朝食とは、大きな皿に目玉焼きが3つ、サニーサイドアップで載っているものだという。筆者は、パークレーンホテルで彼に会ったときにそう教えてもらった。

【画像】「次のテスラ」になりうるか?【フィスカー・オーシャンをライバルEVと写真で比較】 全117枚

米国のEVメーカー、フィスカー社の創業者である彼は、グラーツにある製造パートナー、マグナ・シュタイヤーが完成させたばかりの47台の新型SUV「オーシャン」のプロトタイプを検証するために、オーストリア行の飛行機に飛び乗る直前だった。彼はその直後、オーシャンが欧州デビューを飾るスペインのバルセロナに向かっている。

わたし達が一緒にいた時間は短かったが、驚いたのは、食事と会話の効率の良さだった。それは、年内に欧州の5つの国と米国で、3万5000ポンド(約570万円)の電動SUVを成功させると信じている理念、「スピード・トゥ・マーケット(市場投入までのスピード)」の好例と思われた。

オーシャンは猛烈な勢いで市販化に至ったが、フィスカー社の物語の終わりにはほど遠い。同社は2025年末までに4台の新型EVを発売しようとしているが、それは彼が「ソーセージ」と呼ぶような、互いによく似たモデルではなく、モデル・マトリックスの異なる部分を狙った個性的なモデルとされている。

オーシャンはその先駆者である。通信技術の進歩の速さに対して、自動車のデジタル技術の導入はタイムラグがあるため、これを最小限にするためにわずか2年余りで開発・生産開始された。

「自動車業界は50年前から、自動車の開発には4年半かかると決めていたようなものです」と、フィスカーは言う。

「そんな間隔では、新型車の車載技術は、生産開始の3~4年前に決まってしまう。これは、若い購買層には耐えられないことです。かつてのように、自動車は技術の旗手であると感じてもらえるようにすることが目標です。成功するためには、そうしなければなりません」

フィスカーいわく、時間を節約するには、時間を厳密に配分することだという。設計開発の重要な段階において、従来の企業なら6か月も9か月も「こねくり回す」ようなところ、フォスカー社では設計を固め、製作に取り掛かる。オーシャンの場合、フィスカーが設計責任者であると同時に、自身の名を冠した会社のCEOでもあるため、派閥争いが起きないことも大きな要因だろう。

低価格でありながら高性能? オーシャンの「魅力」

このアイデアがマグナ・シュタイヤーから早期に支持されたのは喜ばしいことだ。同社はメルセデス・ベンツ、BMW、ジャガー、アストン マーティンなどの高級車ブランドを顧客に持ち、世界で最も効率的な自動車製造請負業者として有名である。

また、カリフォルニアにいる400人強のエンジニアグループを通じて、フィスカー社がデザインやソフトウェア開発など重要な要素を完全にコントロールし、責任を負っていることも一助となっている。

当初の計画では、オーシャンを年間約5万台生産する予定だが、フィスカーは需要が増加すれば最大15万台に拡大し、世界中に販売する能力を持つことになると確信している。

フィスカーは、オーシャンの売りは「先進的なデザイン」と「持続可能性」という2つの要素にあると考えている。自身がプロポーションを手掛けたというオーシャンの外観は、欧米では悪くない評価を得ている。

さらに、マグナ・シュタイヤーの製造工場で最近カーボン・ニュートラル化が進んでいること、オーシャンの内装に再生素材が多用されていることを、完全持続可能性への前進の証として挙げている。

オーシャンにこれほどまでの自信を抱いているのは何故なのだろうか?それを尋ねると、サプライヤーからも同じ質問を受けたと返ってきた。自信の根拠は価格であり、3万5000ポンド(約570万円)以下で「格好良くて、エキサイティング」なEVはほとんどないからだ、と彼は言う。

ほかにも4点を特徴として挙げている。航続距離はこのクラスのEVとしては非常に長いこと(最大約630km)、珍しい回転式の17.1インチ中央タッチスクリーンの採用、すべての窓とサンルーフを一度に開けられるカリフォルニア・モード、そして他のEVのように「ファンなど」に電力を供給するのでなく高電圧バッテリーシステムを充電するよう構成されたソーラーパネルである。

挫折を味わった起業家 オーシャンにかける野望

58歳のフィスカーは、2000年代初頭にアストン マーティンのチーフデザイナーとして英国で脚光を浴びた。その後、中国の支援を受けてバルメットが製造し、自身の名を冠した「フィスカー・カルマ」というレンジエクステンダーEVの設計者としても知られるようになる。しかし、フィスカー社はバッテリーサプライヤーの倒産に伴い解散。以降、フィスカーは数年間にわたり少量生産車のコンセプトや船舶の設計に取り組み、2016年に低コスト・長距離・大量生産のEVを作る計画を打ち出した。

「EVといえば、都市向きの小型車か10万ポンド(約1600万円)以上の高級車のどちらかだと思われていました。テスラを除けば、フォードもゼネラルモーターズもフォルクスワーゲンも、誰もEVを大量生産していなかった。つまり、部品の大量仕入れでわたし達より優位に立てるところがないのです。そんなわたし達が、大企業よりはるかに速く新型車を作り、価格も安くする巧妙な方法を見つけたらどうでしょう?」

それは、オーシャンのような比較的大型のモデルを、どうすれば安く作ることができるのか、という大きな問いかけである。フィスカーは、スケールメリット(作れば作るほど効率的になるはず)、業界全体でのバッテリーコストの着実な低下、購入者が気づかない分野でのコスト削減を挙げている。

わかりやすくコスト削減になっているのは、「フランク(frunk)」を設けないという判断だ。フランクとは、従来ならエンジンが積まれている車体前部の空きスペースをトランクにしたもので、多くのEVで採用されている。これを省くことにより、キャッチ、シール、パネル取り付け作業が不要になるのだ。

フィスカー社の調査では、EV購入者(その多くはテスラオーナー)がテールゲートを好んで使用することが示され、この判断を裏付けている。また、ドイツ製の高級車では車載機能の70%が「一度も使われていない」ことを示唆する調査結果も出ているという。コスト重視のフィスカーのEVが、例えばその機能の40%を捨てたとして、誰がそれに気づき、気にかけるだろうか?

また、フィスカー自身は、EVが音の静けさやスムーズさ、性能などさまざまな面で収斂していく中で、個性的なデザインがますます重要になると確信している。

持続可能性への意識が高まる中、本当に良い自動車デザイン、つまり「非常にシンプルで、優れたプロポーションとグラフィックが調和しているもの」が、時代を超えて賞賛されることを、購入者は理解するようになるだろう。モデルの進歩は、車載ソフトウェアの進歩によって示されるようになるだろう。つまり、「ノーズジョブ」は過去のものになりつつあるのだ。

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