5月26日(日)に決勝が行われた第108回インディアナポリス500マイルレース(インディ500)は、ジョセフ・ニューガーデン(チーム・ペンスキー)がウイナーとなった。2023年大会からの2連勝は、またしても最終ラップでの大逆転で達成された。
昨季のショートオーバル戦でも明確な強さを誇ってきていたニューガーデンは、インディアナポリスのスーパースピードウェイでも2連勝をあげ、オーバル最強ドライバーとしての実力を証明してみせた。
■開幕戦での失墜を挽回したニューガーデン
200周で行われた決勝レースは、前半戦こそ多くのフルコースコーションがあったが、最終スティントはイエローなし。残り10周時点でのトップ争いはニューガーデン、アレクサンダー・ロッシ(アロウ・マクラーレン)、パト・オワード(アロウ・マクラーレン)、スコット・ディクソン(チップ・ガナッシ・レーシング)の四つ巴だった。
それがニューガーデン対オワードの一騎打ちへと収束したのは194周目。そこからの6周でふたりはほぼ1周毎にポジションを入れ替える激しい戦いを披露した。
残り1周を告げるホワイト・フラッグが打ち振られたメイン・ストレートで、オワードはニューガーデンをパス。大歓声を浴びながらトップでターン1へと飛び込んで行った。
しかし、テール・トゥ・ノーズをキープしたニューガーデンは、ターン3で彼にアウトから並びかけ、トップを奪い返してターン4を回り、2年連続で最初のチェッカーフラッグを受けた。
開幕戦セント・ピーターズバーグでは、チーム・ペンスキーのマシンにプッシュ・トゥ・パスのソフトウェアに関する違反があり、ニューガーデンはトップチェッカーを受けていながらも、失格を言い渡された。
さらに、不正を重く見たチームは主要スタッフを5月の2レースで出場停止を決め、ニューガーデンは担当レースエンジニア、そして作戦担当も欠いた状態でレースを戦わねばならなかったが、その不利を乗り越えて勝利を掴んだ。
4月に行われた合同テストでは、昨年に続いて最速ラップを記録したニューガーデン。彼らのレース用マシンセッティングは昨年同様に非常に高いレベルにあった。ニューガーデンは昨年のレースで予選17番手から着々とポジションを上げていき、終盤戦では最強マシンを手にしていた。彼は念願のインディ500初制覇を果たすと同時に、インディ500の決勝レースで速いマシンとはどういうものなのかを掴んだのだ。
■チーム・ペンスキーが魅せた予選からの完勝
さらに今年のニューガーデンは、予選でのスピードを飛躍的に向上させることにも成功した。昨年のインディ500では、予選におけるペンスキー勢はウィル・パワーの12番手がトップで、スコット・マクラフランは14番手、優勝のニューガーデンは17番手からのスタートだった。
そこでチーム・ペンスキーはこのオフの間に、昨年のインディ500の予選で4番手と11番手グリッドを獲得し、ペンスキー勢を上回る成績を残していたA.J.フォイト・エンタープライゼスと技術提携。予選用セッティングを伝授され、3人全員がフォイト勢を上回るスピードを記録して見事予選でワン・ツー・スリーを独占した。
ポールポジションはマクラフラン、2番手はパワー、3番手にニューガーデンがつけた。同一チームによるフロントロウ独占はインディ500史上2回目。1988年にその1回目も達成したのもチーム・ペンスキーで、ポールポジションはリック・メアーズ、2番手はダニー・サリバン、3番手はアル・アンサーだった。
予選ではチームメイトふたりの方が好成績だったが、ニューガーデンはレースでの強さで彼らを上回っていた。マクロクリンは今年の最多リードラップを記録したが、レース終盤までトップ争いに残り続けることはできなかった。パワーは145周でアクシデントによりリタイアを喫した。ニューガーデンはトップグループに残り続け、淡々と周回を重ねて勝負の時を待っていた。
■誰ひとり敵わなかったニューガーデンの強さ
前述の通り、レース終盤のトップ争いはニューガーデン、ロッシ、オワード、ディクソンの4人によって繰り広げられた。ディクソンは予選21番手から優勝争いに絡んできた。それは彼がシーズン中にも幾度も披露してきた、イエローを利用してピット・タイミングをずらす作戦を見事に成功させてのことだった。
しかし、一時はトップに立ったディクソンだが、そのままライバルたちを後方に封じ込めて逃げ切るだけのスピードはなく、バトルはニューガーデン対ロッシへと変わり、ロッシをターン1手前で豪快にパスしたチームメイトのオワードが、ニューガーデンとの一騎打ちへと名乗りを上げた。
マシンのハンドリングが完璧ではなかったオワードだったが、インディカードライバーの間でも定評のあるマシンコントロール能力の高さで、オワードはインディ500優勝に王手をかける。
最終ラップのターン1に彼はトップで入り、ターン2もトップで回った。メキシコ人ドライバーのインディ初勝利なるかと思われたが、バックストレッチのオワードのドラフティングを使ったニューガーデンは、息をのむ間もなく一気に差を詰め、ターン3でアウトから抜き去った。
今回、雷雨によってスタートが4時間も遅れた決勝レース。フィニッシュ時刻は夜の8時近くになっており、終盤土壇場を迎えてから急速に路面温度が下がっていた。そのコンディション変化に的確に対応し、最後の勝負まで攻め時を耐え、タイヤの状態をもっとも良いものとしていたのがニューガーデンだったようだ。
「オワードは焦って先頭へ出るタイミングを見誤った。あと半周は待つべきだった」という声もあるが、風向きなどの影響もあってかターン3から4側の方がスピードを乗せやすく、彼が前に出るのはターン1でしか難しくなっていた……などの事情があった可能性も考えらえる。
■2002年以来となる2連覇達成のニューガーデン「フェアに戦ってくれた」
ニューガーデンが飾ったインディ500での連勝は、2001年と2002年にエリオ・カストロネベスが記録して以来となった。当時のカストロネベスを走らせていたのも、今回と同じチーム・ペンスキー。ボルグワーナーが提供する連勝者のためのボーナスも加算され、ニューガーデンの優勝賞金は史上初の400万ドル越えとなる420万8000ドルとなった。
凄まじいバトルの末に勝者となったニューガーデンはウイナーインタビューで、「オワードがフェアに戦ってくれた」とライバルを讃えた。彼らはターン3をサイド・バイ・サイドで回ったが、あそこでもし接触があれば、外側の壁へクラッシュしていたのはアウト側から並びかけたニューガーデンの方だったかもしれない。しかし、オワードはラインをホールド。0.3秒差の2位でのゴールとなり、涙を流してクルーたちに勝利を逃したことを詫びた。
オワードは2020年にマクラーレン入りして以来、インディ500では毎年トップ争いに絡む活躍を見せている。そして今年は、もっとも優勝に近づいた。この悔しさをバネとして、初勝利を掴む時がくる可能性は高い。2012年に最終ラップのトップ争いでクラッシュした佐藤琢磨が、5年後に優勝に手を届かせたように。
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