1996年のF1世界チャンピオンであるデイモン・ヒルは、メルセデスの空力部門が“好機を逃した”と述べており、レッドブルと比較すると、スタッフの退職がチームの失速につながっているのではないかと疑問を呈している。
2014年にF1のハイブリッド時代が始まったが、それはメルセデスの長期にわたる支配の幕開けであり、チームは8年連続でコンストラクターズタイトルを獲得。また、7年連続でドライバーズタイトル獲得を果たし、並外れた走りをして際立っていた。しかし昨年のテクニカルレギュレーションの刷新と、グラウンドエフェクトエアロダイナミクスの導入により、メルセデスの覇権は消滅し動きが止まってしまった。それによりレッドブルが支配的になり、ずば抜けた走りをするようになった。
メルセデスF1代表、“史上最悪の週末”に動揺「不調の主原因は車高ではない。根本的に正しくない部分があった」
誤ったコンセプトだった昨年のゼロサイドポッドから、2023年型マシンに実装された一連のアップグレードまで、メルセデスは控えめな姿しか見せていない。とりわけ昨年のブラジルでは、ジョージ・ラッセルがその年唯一の勝利をチームにもたらしたにすぎなかった。
ヒルは、メルセデスが成功を重ねたのは主にパワーユニットの強さと信頼性においてであり、現在は空力プログラムを犠牲にして最大の資産に過度に依存したことの高い代償を払っていると考えている。
「私が懸念しているのは、長い間メルセデスが覇権を握っていたのは彼らのパワーユニットのおかげだったということだ」とヒルは語った。
「長期にわたり彼らは最高のパワーユニットを持っており、空力は常にレッドブルとはわずかに異なっていた」
「以前のF1レギュレーションが終了に近づいた頃を覚えていると思うが、彼らのマシンのレーキは比較的平らのままだった。一方でレッドブルは非常に高かった。レッドブルが道を開き、誰もが極端なハイレーキを追求し始めた。ネズミがマシンと並んで走っているかのように見えた。後ろの車高は非常に高かった」
「しかしメルセデスは根強いというか、彼らの哲学に固執した。彼らは以前のレギュレーションでは違う空力コンセプトで走っているように見えた。そうして新たなレギュレーションが施行された」
「私が言っているのは、メルセデスの空力部門は好機を逃したのではないかということだ。彼らは時が経つにつれて、かなり多くの優秀な空力担当者たちを他のチームに奪われてしまった」
10月のアメリカGPで導入された新フロアデザインはメルセデスを前進させた。勢いを得たルイス・ハミルトンは、アメリカGPと1週間後のメキシコシティGPでマックス・フェルスタッペンに次ぐ2位に入賞した(編注:アメリカGPではレース後の車検で技術規則違反が見つかり失格になった)。しかし先週末のサンパウロGPは、メルセデス陣営にとって残念な展開となった。ハミルトンは8位と振るわず、ラッセルはエンジントラブルにより途中でリタイアを余儀なくされた。
ヒルと同じく『Sky Sports F1』で解説を行うカルン・チャンドックは、この3レースにおけるメルセデスの一貫性のないパフォーマンスは、チームがまだ完全にW14を理解していないことを明確に示していると考えている。
「グループとして彼らは、問題の根源がどこにあるのか理解する必要がある」とチャンドックは語った。
「彼らは速さのあったこの数戦では好結果を出したが、オースティンでは失格になったことは忘れないでおこう。このように浮き沈みがあって、明確に理解できていない場合、チャンピオンシップで争うことはできない」
「もし彼らが『ここでは苦戦するだろうとわかっている』とか『ここでは弱いことはわかっているので、冷静に対処する』と言っていたら問題はなかっただろう。でもそうではなかった。彼らは好調の理由と不調の理由を完全に理解していないように見える。この懸念は来年も続くだろう」
チャンドックの見解では、マクラーレンが今やレッドブルの直近のライバルであることを証明しているという。
「オーストリアでのアップグレード以来、彼らはあらゆるタイプのコースやコーナーで毎週末トップ集団にいた」
「ウエットでもドライでも彼らは上位にいた。それによって、空力部門はマシンが機能しているという自信を得られる」
「メルセデスにはそれがない。今週末はアルファタウリやアルピーヌ勢より遅かった。マクラーレン、レッドブル、アストンマーティンよりもはるかに遅かった。混乱が見られる」
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