11月24~26日、2023年MotoGP第20戦バレンシアGPが行われました。スプリントではホルヘ・マルティンが勝利しましたが、決勝では失速してフランセスコ・バニャイアがチャンピオンに輝きました。そのほか、Moto3では佐々木歩夢が前戦カタールGPでの思いをぶつけて今季初優勝をするなど話題の尽きない最終戦となりました。
そんな2023年のMotoGPについて、1970年代からグランプリマシンや8耐マシンの開発に従事し、MotoGPの創世紀には技術規則の策定にも関わるなど多彩な経歴を持つ、“元MotoGP関係者”が語り尽くすコラム第25回目です。
新パーツ続々登場。ドゥカティのM.マルケスに加え、各ライダー達が新天地で始動/バレンシア公式テスト
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--チャンピオンがかかった最終戦でしたが、スプリントで優勝して勢いに乗っていたホルヘ・マルティン選手が決勝レースでは早々にクラッシュしてしまい、フランセスコ・バニャイア選手が2年連続のチャンピオンの座につきましたね。正直なところ、最後までふたりが抜きつ抜かれつというレースを期待していたので、拍子抜けしてしまいましたが……
チャンピオンを決めたバニャイア選手は、例によって初日はペースが上がらず周囲をやきもきさせていたけれど、Q1を勝ち抜けてからペースをつかんで予選2位と好位置に着けたのはさすがだった。マルティン選手にかなり挑発されていたけれど、粛々と自分の仕事に集中している感じだったね。
一方のマルティン選手は予選でバニャイア選手に後れを取ったものの、スプリントは気迫の走りで優勝をもぎ取って流れをグッと引き寄せた感じはしたんだけれど、バニャイア選手のタイヤ選択ミスに助けられたという側面もあって、レースに向けての心理的な余裕は全く無かったんじゃないかな。
--前回のカタールのレースではマルティン選手がタイヤの問題で苦戦したことで、チャンピオン争いの流れが変わりましたが、今回はそういう事では無いですよね。
スプリントではバニャイア選手だけがリヤにミディアムを選択したので、ソフトを選択した上位陣に着いていけなかったということで、いわゆる『ハズレ』をつかんだわけでは無いね。むしろ、レースではミディアムが本命視されていたわけだから、周回数が半分だけれど事前に確認できるというアドバンテージを選んだとも考えられる。もしそうだとすれば選択ミスというより、ポイント配分の高いレースでの勝利を見据えた高度な戦術的判断という見方もできるね。
--今回のチャンピオン争いの明暗を分けた要因はズバリ何だと思いますか?
やっぱり経験値の差かな~
バニャイア選手は昨年ファビオ・クアルタラロ選手と競り合った末にチャンピオンを獲得しているので、その過程で得た経験、特にメンタル面でのコントールについては大きいと思うね。
もちろん2年連続チャンピオンも期待されているので、更に重圧は増しているけどね。一方のマルティン選手はスプリントの優勝でポイント差が再び射程圏内に入ったことで、過剰な力みが生じてしまったきらいがあるね。
修羅場をくぐったか否かが、メンタルをコントロールする上での大きな違いを生むわけだよ。つまり来年のマルティン選手は更に強くなる可能性があるという事さ。
--そういえば、レース結果は時の運といつも言っていますよね。今回のマルティン選手もレースでは運に見放された感じがしましたね。
まずはマーベリック・ビニャーレス選手のマシンが白煙を吐いて走行を続けたので、せっかくポールポジションを獲ったのに3グリッド降格で、結果バニャイア選手がポールシッター。その辺りから既にマルティン選手には悪い運気が漂い始めてたね。
そしてレース序盤にバニャイア選手と接触してコースアウト。不用意に近付き過ぎて、スリップストリームに引き込まれてしまったマルティン選手のミスなんだけれど、早めにイン側のラインを取っていれば、接触は避けられなかったとしても、結果は全く逆の立場になっていただろうね。
--バニャイア選手がコースアウトしてポジションを下げて6位以下、マルティン選手が優勝すればチャンピオンは……
僅か1ポイント差でマルティン選手がチャンピオンという事になるわけだよ。ただし、アクシデント絡みのチャンピオンだから猛烈なバッシングに晒される事になっただろうね。そう考えるとマルク・マルケス選手みたいなダーティーヒーローにならなくて良かったかもしれないよ(笑)
--現実は、必死に挽回を試みるマルティン選手にとって厳しいものでしたね。ビニャーレス選手にしろマルケス選手にしろチャンピオン争いから外れているのに何で? と思いましたが。
結果的にマルティン選手のチャンピオンを予想していたマルケス選手が、執拗に絡んだ末に、その可能性を摘んでしまったのは皮肉だけれどこれも『運』。まあ、彼らにとっては当たり前の振る舞いであって、安易に道を譲るようなライダーだったらあそこには居られないわけで、そこは責められないと思う。そういう優しい面を持ったライダーは僕の知る限りではコーリン・エドワーズくらいしか思いつかないよ(笑)
--なるほど、チャンピオンになるにはある程度の悪さが必要だという事ですね。
そういう事なんだけれど、バニャイア選手にはそういう雰囲気が無いんだな。
ライダーとしては背も高くイケメンだし、言動も穏やかで、いつもフェアなレースをしている印象があるから、新しいタイプのチャンピオンだね。師匠のバレンティーノは明るいキャラクターでファンが多かったけれど、レースになると結構アグレッシブで『ワル』で『策士』の面が出ていたからね(笑)
--そうはいってもカタールGPでのMoto3のチャンピオン争い、あれは日本人という身贔屓を抜きにしてもちょっと『ワル』が過ぎたと思いませんか?
炎上覚悟で言うけど、あのレースで優勝したジャウマ・マシア選手は強くて、チャンピオンに相応しい走りだったと思うよ。序盤では佐々木歩夢選手を絶対に前に出さないという姿勢で、無理やりイン側に飛び込んでふたりとも順位を下げるシーンが見られたけれど、まあ軽量クラスのレースは常に接近戦だから、ある意味「日常的な」光景と言える範囲じゃないのかな。スチュワードも警告だけでペナルティは科していないしね。
日本人だけでなく、多くの人が問題視しているのは、レース後半でポジションを下げてしまった佐々木選手が、マシア選手のチームメイトのフェルナンデス選手に妨害された結果、チャンピオンが確定してしまったという部分だよね。
あれを“汚い”妨害行為とするのか、チームメイトのチャンピオン獲得に貢献した“美しい”チームプレーとするのかは、それぞれの立ち位置で変わってくると思うんだよ。
ただひとつ救いなのは、海外でもあのチームプレーに対しては批判の声が上がっているという事だね。来年はふたりともMoto2にステップアップするようだから、因縁の対決はまだまだ続くのかもしれないけれど、それとは別に、佐々木選手が『コレオス・プレパゴ・ヤマハ・VR46・マスターキャンプ』で走るのは個人的に嬉しい話だ。
--話をMotoGPに戻しますが、一時はトップを走行していたKTMのブラッド・ビンダー選手があり得ないようなミスを犯すし、終盤すごい勢いでトップ争いをしたファビオ・ディ・ジャンアントニオ選手がタイヤ内圧規定違反で2位から4位に降格とか、色々ありましたよね。
一時KTMのワン・ツーという、信じられないような光景が展開されていたから、ビンダー選手が突然ロングラップペナルティエリアに飛び込んでしまったのには驚いたね。あれは『誤って』という報道もあったけれど、オーバースピードで選択の余地は無かったんだよ。
それにしても、それで労せずしてトップに立ったジャック・ミラー選手も5周トップを走っただけでクラッシュして戦列を離れたし、どちらにも運は味方しなかったようだね。
「好事魔多し」と言って、「これって行けるんじゃね?」と成功を意識したとたんに自分の中で何かが変わるんだね。その僅かな感情のブレが結果を大きく左右してしまうのは、マルティン選手にも通じるところだね。
ジャンアントニオ選手に至っては、表彰台でトロフィーまで授与された後に降格とか酷すぎるな、やっぱりあのルールは廃止するべきだよ。まあ、最近のレース結果が評価されて来シーズンの就職先が決まったようだから、それは良かったんだけどね。
--VR46のルカ・マリーニ選手がレプソル・ホンダ・チームに移籍が決まったので、その後釜に収まったという事ですが、チームは当初若手ライダーを起用したいと言っていましたよね。
ウーチョはそう言っていたようだけれど、最終的にはボスが決めると言っていたから、バレンティーノ・ロッシが決めたのかな。ノミネートしていた若手の獲得が難航したのかもしれないし、真相は分からないけれど、まずは再就職おめでとうと言ってあげたい(笑)
マリーニ選手はやはり2年契約というのが決断のポイントとして大きかったんだろうね。後はチームマネージャーの交代とかも噂されているから、その辺りも条件に入っている可能性もあるね。
噂されているように、ダビデ・ブリビオが招聘されると面白い事になるかもしれない。ヤマハ・スズキに次いで、ついにホンダでもチャンピオン輩出というハットトリックを達成できるのか、個人的には見てみたいところだね。
--マルケス選手の移籍に端を発して、ジャンアントニオ選手・マリーニ選手・ザルコ選手・モルビデリ選手と、Moto2からの昇格も来シーズンに向けて楽しみな要素が増えましたね。
なんだか、ドルナの描いたシナリオ通りに物事が進んでいるような気がしてならないけれど、来シーズンもMotoGPから目が離せない状況になりそうだね。
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みんなのコメント
「前のライダーをコロしてでも前に行きたかった、勝ちたかった」と。
体育会系よりヤバい世界を教えて頂きました。後悔もトラウマもありません。それくらいの覚悟がないと、世界になんて行けないとわかりました。だから私は借金にまみれて、レースの世界から夜逃げの様に逃げて、今はサラリーマンなんです。