2024年シーズンで9年目を迎えたハースF1チームと小松礼雄代表。ハースはベルギーGPの前にエステバン・オコンの起用を発表し、これで2025年シーズンを戦うドライバーラインアップが確定した。オコンが初めてF1のテストをした際にレースエンジニアを務めた縁のある小松代表だが、実はオコンとの出会いはもう少し前だったという。
さらにハースは前半戦の14レースを終え、シーズン開幕前に立てた目標よりもいい位置につけている。小松代表は、開幕時からベルギーGPまでにVF-24のパフォーマンスの改善に成功し、これまで批判を受けてきたクルーの能力を証明できたことを喜んだ。そんな2024年シーズン前半戦を振り返ります。
マグヌッセン「まずまずのレース。1ストップをやりきったから、よしとしよう」:ハース F1第14戦決勝
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2024年F1第13戦ハンガリーGP
#20 ケビン・マグヌッセン 予選15番手/決勝15位
#27 ニコ・ヒュルケンベルグ 予選11番手/決勝13位
第14戦ベルギーGP
#20 ケビン・マグヌッセン 予選17番手/決勝14位
#27 ニコ・ヒュルケンベルグ 予選16番手/決勝18位
2025年のドライバーラインアップについて、エステバン・オコンを起用することを発表しました。プレスリリースにもあるとおり、僕はエステバンが初めてF1でテストをした時にエンジニアを担当しましたが、実は初めて会ったのはもっと前で、彼が13歳くらいの時だったと思います。
思い出としてひとつよく覚えているのは、エステバンと一緒にカートの大会に出場したことです。当時僕はルノーでパフォーマンスエンジニアをしていた時代で、まだ自分がカートに乗る時間もあった頃でした。僕とエステバン、もうひとりの人と3人でチームを組んで、レンタルカートの12時間レースのチャリティイベントに出たんです。ただ僕たちのカートはエンジンのパワーが弱くて、ドライコンディションの予選ではエステバンの腕をもってしても8番手でした。
レース当日は土砂降りの雨のなか、当然チームのエースドライバーであるエステバンがスタートを務めました。スタートではごぼう抜きで、あっという間にトップに立ってリードを広げて走っていたんです。ただ徐々に路面が乾いてくると差が縮まり、結局僕たちは勝てなかったんですけどね。エステバンが走っていた時は他のチームから「ヨーロッパのトップクラスで走っていて、プロを目指しているような人を乗せるのはおかしい」と怒られたりもしましたけど、いい思い出です。
その後エステバンが初めて当時のロータスでF1のテストをすることになった時に、彼から「最初にF1に乗るときはレースエンジニアをやってほしい」と頼まれて、喜んでやるよと返事をしました。フィードバックはすごくよかったし、いい感覚を持っているなと感じたことを覚えています。
F1にデビューした時にはおめでとうと声をかけましたけど、それ以降はあまり話すこともなくて、サーキットで会ったら挨拶をするくらいでした。だから今回エステバンのマネージャーから連絡が来た時には驚きました。もちろん嬉しい驚きで、そこからマネージャーと話し、エステバン本人とも話して、ハースはどういうチームであるか、今はどういう状況にあるのか、これからどのようにしていこうと考えているのかを伝えました。きちんと話をしたのは10年ぶりくらいだったと思いますが、スムーズに話が進み、いい感触でした。
エステバンの方も、ハースは徐々に改善しているというのが見えていて、うちがこれからやろうとしているプロジェクトにも共感してくれました。エステバンはルノー時代から数えて今のチームに5年在籍していますが、その間にマネージメント陣が4回も変わってなかなか安定しない環境にいたこともあって、ハースの取り組みが新鮮に見えたみたいです。
それから彼はコース外でもチームをプッシュしてくれる存在です。今年のアルピーヌはシーズン序盤から最下位で厳しい状況でしたが、エステバンはレースのない週末には常にエンストンのファクトリーでシミュレーター作業をしたり、チームの人と仕事をしています。ハースのプロジェクトに共感してくれたこと、一緒にやろうという気持ちが強かったこと、そしてファクトリーでも熱心に作業をする態度などが起用の決め手になりました。
みなさんが気にしているのは、チームオーダーの問題やチームメイト同士のバトルについてのことだと思いますが、これについては信頼関係に尽きます。今年どうしてうちがこういう成績を残せているかというと、ドライバーの実力はもちろんですが、チーム全員がニコやケビンを信頼しサポートしているということを彼ら自身がわかっていて、チーム内に透明性があって、政治的なことがないからだと僕は考えています。当然議論をすることはありますが、僕が最後に決断を下すと、彼らはそれに納得していなかったとしてもチームの決断としてそれを尊重します。彼らも僕やチームのことを信頼してくれているからで、こういう関係を最初から築いていないと難しい状況になるのではないかと思います。
エステバンだけでなくオリーともそういう関係を築き、2025年シーズンが始まる前にチームの環境を整えていくつもりです。チームメイト同士でレースをする場合と、他のチームを相手に戦う場合のルールなどもはっきりとさせるので、そういった信頼関係が前提にあれば、ハースのプロジェクトを信じてうちに来てくれるエステバンも指示を聞いてくれるはずです。それでもレースが終わって納得できないところがあれば話をする、ということの積み重ねでしょうね。ドライバーも同じ人間ですから、その人がどういう人であるかを理解し、どうすれば最大のパフォーマンスを発揮できるのかを僕や首脳陣が考えて、それができる環境を提供するのが重要です。
また、チームを離れることになったケビンとは、今も変わらず良好な関係のままです。7年チームにいるケビンと僕の関係は最近始まったものではないし、昨年末にチームの体制が変わった時も僕のいい相談相手でした。彼はチームの状況を見ていて、内情をよくわかっている人間がチーム代表をやるべきだと思っていたようです。体制が変わってからも前向きで、いろいろなことを率先してやってくれて、チームに貢献し助けてくれる存在なので、ケビンとの契約を終了するのは難しい決断でした。
■“開発ができない”と批判を受けた空力部門の能力を証明できたことを嬉しく思う
2024年シーズンの前半戦を振り返ってみると、開幕前の予想よりはいい結果で14戦を終えることができました。ただそれがどうしてかと言えば、他のチームが躓いたことも大きいと思います。僕のなかでは、誰も開発に失敗せずみんながいい仕事をして、そういうなかで最初に立てたコンストラクターズ選手権8位という目標を達成するにはどうするか、ということが大前提にあります。実際にシーズンがスタートしてみるとうまくいかなかったチームが3チームあったので、それなら僕たちは選手権7位にいなければいけないし、それができているということ、そして8位ではなく6位に近い7位にいるということは、ある程度戦えていると評価していいと思います。
これまでの一番大きな問題はシーズン中の開発ができないことでしたが、今年はそれができていて、チームのみんなにとって自信になっています。今までずっと開発ができないと指摘されてきて、オーナーのジーン・ハースも空力担当のクルーたちも批判されていました。このチームには才能のある人たちがいるし、僕はそういう批判はふさわしくないと感じていたので、開発ができると証明できたことを嬉しく思います。
開発に関していうと、開幕時点でのVF-24があって、中国GPからエミリア・ロマーニャGPまでの3戦で投入したアップグレードでコンマ2秒速くなって、イギリスGPでのアップグレードでさらにもうコンマ2秒ほど速くなっています。そしてこういう成績を残すことができたので、ジーンはさらにチームに投資をしてくれるようになりました。自分たちでそのお金を使えるようにしたということですし、この投資のおかげでさらに開発を行うこともできるので、シーズン後半戦もアップデートを予定しています。
開幕戦でのVF-24は、昨年の開幕戦時点のVF-23より約1秒速くなっていましたし、伸び幅もいいですね。シーズン中もここまで停滞していないし、風洞実験では多少のアップダウンはありますが、毎回パフォーマンスを改善しています。やはりこれが昨年との大きな違いです。
2025年は今年とあまり技術規則が変わらないので、VF-24の開発がうまくいけば方向性を変えずに2025年のクルマを開発することになります。つまり、ドライバーがふたりとも変わることによる影響はそこまで大きくありません。特にオリーはVF-24に乗っているのでこのクルマがどう改善されてきたのかをわかっていますし、この先メキシコシティGPとアブダビGPでもFP1を走るので、VF-24の最後の状態を知ることにもなるし、それも活かせると思います。
入賞回数を見ても、14戦のうち6戦でポイントを獲れていて、入賞できなかったレースでも11位が5回ありました。それだけポイントを獲れる可能性の高いところにいるということは、安定性もあるということです。ハンガリーGPとベルギーGPのことはこれから分析して何が悪かったのかを調べなければいけませんが、レース後に話をしたときは建設的な会話ができています。クルマの開発ができたことがみんなの自信になり、ジーンも信頼してくれて、いい形で前半戦を終えられました。
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