ドゥカティが市販単気筒マシンを造るのは約50年ぶり!
ドゥカティの市販車としては1970年代の250デスモ、350デスモ、450デスモなどの単気筒シリーズ以降、およそ50年ぶりとなるシングルエンジンを搭載するスポーツモデル「ハイパーモタード698モノ」を発売する。
日本導入時期は2024年夏ごろとされているが、多くの期待が集まっているモデルだけにその素性を一日も早く知りたいところだ。
【画像16点】ドゥカティは単気筒でも速かった!新型モデル「ハイパーモタード698モノ」を写真で解説
そんなタイミングで、本サイトではおなじみのイギリス人モーターサイクルジャーナリスト、アダム・チャイルド氏がスペインのバレンシアにあるスーパーモトサーキットにて、ハイパーモタード698モノを試乗してきた。ドゥカティが新開発したシングルエンジンのスーパーモタードはいったいどんな真価を秘めたバイクなのか、そのレポートで読み解いていこう。
スーパーバイク「1299パニガーレ」のLエンジンを真っ二つにした単気筒
「ドゥカティといえばLツイン」というブランドイメージを持っている人が多いが、それを考え直す時期が来たといえるだろう。もちろん、90度V型2気筒というエンジンレイアウトは今もラインアップに多くあるし、人気のあるモデルだ。しかしここ数年、販売台数を伸ばしているドゥカティは、V型4気筒エンジンを搭載するパニガーレやムルティストラーダである。
そして2024年、ドゥカティはシングルエンジン搭載モデルを登場させる。これはLツインに心酔している純粋なドゥカティスタだけでなく、単気筒エンジンとはどうあるべきかという私たちの認識を揺るがす可能性を秘めた、ハイパフォーマンスエンジンなのだ。
新開発されたエンジンは「スーパークアドロ・モノ」と呼ばれは、ドゥカティにとって1990年代半ばに発表した排気量549ccのレーサー「スーパーモノ」以来となる単気筒エンジンだ。市販車としては、1970年代のベベルエンジン以来となる。
「スーパークアドロ・モノ」の排気量は、1285ccの「スーパークアドロV2エンジン」(*)のおよそ半分となる659ccで、2気筒のリヤバンクを取り去ったようなエンジンだ。
ヘッド構造はデスモドロミック、DOHC4バルブ。最高出力は77.5ps/9750rpm、最大トルク6.4kgm/8000rpmを発生する、世界に類を見ないほどパワフルで驚異的な量産シングルエンジンである。
*編集部註:「スーパークアドロV2エンジン」は、パニガーレV4登場前、ドゥカティの最高峰スーパーバイクだった「1299パニガーレ」に搭載されたエンジンで、208psという高出力を誇った。
ドゥカティ ハイパーモタード698モノの装備、電子制御デバイス
このパワーユニットを搭載した最初のマシンが、ブランニューとなる「ハイパーモタード698モノ」だ。乾燥車重は151kgと超軽量で、俊敏なハンドリングによるスポーティな走行性能を持つ。もちろん公道走行可能な市販車だが、今すぐレースに出られるスペックを持っている。
フレームは、重量わずか7.2kgのスチールトレリスで、マルゾッキ製45mm倒立フォークはフルアジャスタブル、リヤサスペンションはザックス製フルアジャスタブルモノショックと両持ち式スイングアーム、ワイヤースポークホイールよりも軽量なY字型スポークのアルミキャストホイールを備える。
ブレーキは、フロントにブレンボ製M4.32キャリパーと330mmシングルディスク、リヤはブレンボ製キャリパーに245mmディスクを組み合わせている。
電子制御デバイスもドゥカティだからこその最新テクノロジーを搭載している。6軸IMUによるコーナリング対応のABSとトラクションコントロール、3種のパワーモードと4種のライディングモード(スポーツ、ロード、アーバン、ウエット)を搭載。
前輪を浮かせながら走行するウィリーについては、4段階のウイリーコントロールに加えて、ウイリー中の車体角度を安定させるウイリーアシストも備える。ほかにもスライド・バイ・ブレーキも搭載し、ベテランライダーでなくともリヤをスライドさせながらコーナーへ進入していける。この機能についてはのちほど詳しく説明しよう。
V型2気筒エンジンのハイパーモタード950と同様に、ハイパーモタード698モノには、スタンダードモデルのほかに特別色のグラフィティカラー「RVE」がラインアップされる。RVEは特別なボディカラー以外にアップ/ダウン対応のクイックシフターを標準装備する。
今回試乗したRVEには、最高出力を84.5psまで引き上げるテルミニョーニ製エキゾーストシステム、レース用シート、レース用ステップ、スキッドプレートが装着されていた。
単気筒らしいトラクションフィーリングはあるが、2気筒のように高回転までスムーズに回る
試乗レポートに入る前に、まずスーパークアドロ・モノについて忌憚のない話をしよう。車名には698の数字があるが、実際の排気量は659ccだ。しかし本当に重要な数字はボア×ストロークにある。
116mm×62.4mmという数値は1299パニガーレのエンジンをベースにしたもので、ボア×ストローク比は1.86となるオーバースクエアの超ショートストロークエンジンだ。
シリンダースリーブはアルミ製、インテークバルブはチタン製、DLCコーティングしたピストンピンやロッカアーム、優れた2軸バランサーシャフトなどによって、レブリミットを1万250rpmの超高回転域まで引き上げている。
スペイン南部にあるバレンシア・スーパーモト・サーキットは天候条件が複雑で、ハイパーモタード698モノが搭載している電子制御デバイスが走行性能を左右するカギになった。
この一帯は、午前中は空気が湿っていて気温も低い。そのため、走行モードをウエット、パワーモードをロー(出力58ps)、ABSはレベル4(最大値)、ウィリーコントロール4(最大値)、トラクションコントロール4(8段階なのでほぼ中間)、リヤブレーキコントロールも中間の設定を選択した。
とはいうものの、燃調マップと電子制御デバイスのセットが非常に優れているため、ピレリ・ディアブロロッソIVのタイヤ温度が冷えた状態でもブレーキングポイントを正確に把握することができ、難しい局面でも不安なく自信を持って走ることができた。
ウエットモードでのスロットルレスポンスはソフト、かつフレンドリーだ。そして、コーナー直前でスロットルを全閉にしたときにはトラクションコントロールが連続的に作動しているのをしっかりと感じられる。
路面が乾きはじめたので、走行モードをロードへ。フルパワー(77.5ps)となり、電子制御デバイスの介入はウエットよりも低減する。だからといってスロットルレスポンスに唐突さはない。
そして、走り込むほどに、単気筒エンジンというよりは非常にバランスに優れた2気筒エンジンのように感じられた。たしかに単気筒特有のトラクションフィーリングなのだが、ピストンがひとつしかないとは信じられないほどスムーズで、なおかつ激しくエンジンが吹け上がる。
パワーバンドを超えてもなお回転を上げ続けるエンジンのおかげで、連続するコーナーの中間エリアでも高回転域をキープしたまま走れる。タイトコーナーが連続するコースではこの特性が存分に発揮される。
単気筒エンジンを搭載するスーパーモタードを長年走らせてきた私は、中回転域を使って素早くシフトチェンジする走り方が身についているが、モタードの経験がなかったとしてもそのようにライディングできるはずだ。
ハイパーモタード698モノのショートストローク型シングルエンジンは、低回転域でもたついたり不快なノイズをあげることもない。ドゥカティによれば、3000rpmで最大トルクの70%を発生し、4000rpmで80%に達するという。そのため、走行中は常にトラクションを感じられる。ウィリーコントロールを解除すると、1速から3速までは簡単にフロントを浮かせられるし、バイクはスムーズに加速していく。
ハイパーモタード698モノのフレーム・サスペンション
この優れた特性を支えているのは、トレリスフレームとサスペンションだ。
ただしRVEの試乗車にはサーキット走行のためピレリのスリックタイヤが装着されていたので、サスペンションの減衰力を微調整した。スタンダードモデルの走行ではノーマルセッティングのままだ。
ドゥカティが巧みな設計をしたと感じたのは、コーナリングするときモトクロスのようにイン側の足を前方へ出すスタイルでも、リーンインしてヒザを擦るスタイル(ニーダウン)でも、どちらでも対応できる車体にしたことだ。
私はずっとニーダウンライダーだが、高いシートとストローク量のあるサスペンション(フロント215mm/リヤ240mm)にもかかわらず、コーナリングでヒザを擦りながら走ることに違和感はなかった。
昨今はシート下に燃料タンクを配置するバイクも増えているが、ハイパーモタード698モノはオーソドックスな位置にあり、フロント荷重がしっかりとかかっている。そのためスポーツネイキッドと同じようにフロントタイヤのロードインフォメーションを的確に得られる。それでいてロングフォーク特有の、フロントタイヤ接地面との距離の遠さを感じることもない。
いくつかのコーナーではステップを路面に擦りつけたが、これはスリックタイヤを装着したRVEだけだ。車体を深くバンクさせたときでもたしかな安定感があり、ラップタイムをコンマ1秒でも縮めようとコーナーを攻めたときに起こりがちなドリフトもなかった。
モタードビギナーでもスライド走行できるABS「スライド・バイ・ブレーキ」
フレームとサスペンションの出来のよさに加えて、ドゥカティの最新電子制御デバイス群がハイパーモタード698モノの完成度を高めている。パワーモードとライディングモードをはじめとする豊富な電子制御デバイスの総合的な効果により、ライダーの技量にかかわらず、あらゆるライダーがセーフティにバイクを乗りこなせる。
モタードに乗り慣れていなくても、ABSとトラクションコントロールを作動させ、ウイリーコントロールを低めに設定するだけで、前輪を浮かせながらラップを刻むことができる。そうして周回を重ねて経験を積んだら、それぞれの電子制御デバイスを調整することでライダーのスキルアップに合わせられるのだ。
中でもボッシュが開発したABS「スライド・バイ・ブレーキ」は、とくにライダーに自信を与えてくれるデバイスだ。
モタードのコーナリング常套手段であるハーフスライドをするには、ブレーキを強くかけながらギヤを落とし、クラッチとエンジンブレーキをバランスさせる必要がある。瞬間的にリヤタイヤのトラクションを切るアグレッシブさが不可欠で、この習得はなかなか難しい。しかも、ひとつ間違えばハイサイドを誘発してしまうし、最悪の場合は大怪我を負ってしまう。
しかしハイパーモタード698モノならそんな心配は無用だ。
スライド・バイ・ブレーキは4通りの設定パラメータを持っている。
レベル4は通常のコーナリングABSで、リヤタイヤがグリップを失ってフリーになることはない。
レベル3は私がウエット路面で使用した設定値で、スーパーモタードの初心者向けだ。
レベル2はブレーキでリヤタイヤを流すことはできるが、ロックはしない。強烈にブレーキをかけてシフトダウンしてクラッチをつなげば、あとは電子制御デバイスが車体姿勢を安定させつつコーナリングできる。
レベル1はエキスパート向けの設定で、6軸IMUによるサポートは作動しない。リヤタイヤはロックさせられるが、フロントはABSが介入する。
だからといって即座に誰もがモタードのエキスパートになれるわけではないが、転倒による怪我を心配することなく、周回を重ねるたびにリヤタイヤを滑らせて自由なスタイルで走れることを感じ始めるだろう。
いくらしっかりと熱が入ったスリックタイヤを履いていても、普段ならプレイステーションのバイクレースゲームでしか試せないような、ギヤを1速まで落としてリヤをスライドさせながらコーナーを抜けていく──そんな芸当もできた。
モタードやオフロードバイクに乗るとき、気になるのは高いシート高だ。
ハイパーモタード698モノのシート高も904mm(日本仕様は864mm)と非常に高く、誰もにマッチするわけではない。オプションで889mmのローシート(欧州仕様)も用意されているが、身長170cmくらいの私には合わなかったから、標準シートでも大きな問題はないだろう。
なぜなら、フレームとシートがとてもスリムで足を着きやすく、乾燥重量が151kgと軽いからだ。車重が200kgをゆうに超え、車格が大きく、着座位置も高いアドベンチャーバイクとは違うのだ。
ハイレベルのサーキット走行をこなせるスーパーモタードゆえ、犠牲になった部分もある。メーターは3.8インチLCDディスプレイで、ドゥカティのほかのモデルと比べても小さい。そのためモードやセッティングの変更をコース上で行うのは好ましくない。ピットで停車した状態でやるべきだろう。
ハイパーモタード698モノは、乗りながらライダーのスキルを上げてくれるバイク
今回はサーキットのみの試乗だった。総合的な意見を表明するには一般道や高速道路で走らせる必要がある。しかし今回の走行条件で丸一日走らせ、ラップタイムをあらためて見てみれば、ドゥカティがスーパーモタードとシングルエンジンを再定義し、それらに対する私たちの概念を変えたのは明らかだ。
伸び伸びとよく回るスーパークアドロ・モノは、おそらく市販車最強のシングルエンジンだ。エンジン開発にかけるドゥカティのエンジニアたちの情熱と、それが結実した優れたエンジンメカニズム、そして燃調マップによって、低回転域から高回転域まで強いトルクを発生する。
さらに、ドゥカティはオイル交換周期を1万5000km(または24ヵ月)とするほど耐久性に自信を持っている。車体は軽く、ハンドリングは安定していながらシャープだ。そして電子制御デバイス群はこの世のものとは思えないほど優れていて、レーシングライダーから週末のツーリングライダーまで、あらゆるライダーが安全にライディングスキルを高めることができるのだ。
レポート●アダム・チャイルド まとめ●山下 剛 写真●アレックスフォト/ドゥカティ
ドゥカティ ハイパーモタード698モノ主要諸元(日本仕様)
【エンジン・性能】
種類:水冷4ストローク単気筒DOHC4バルブ ボア・ストローク:116×62.4mm 総排気量:659cc 最高出力:57kW(77.5ps)/9750rpm 最大トルク:63Nm(6.4kgm)/8000rpm 変速機:6段リターン
【寸法・重量】
全長:── 全幅:── 全高:── ホイールベース:1443 シート高:864(各mm) 車両重量:151kg(燃料を除く) タイヤサイズ:F120/70ZR17 R160/60ZR17 燃料タンク容量:12L
【カラー】
スタンダード:ドゥカティレッド
RVE:グラフィティ
【メーカー希望小売価格】
スタンダード:170万円
RVE:182万円
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みんなのコメント
あと、日本仕様のシート高が低いのは、どこで削っているのかな?
この手のバイクは日本では人気があるようで、無い。
しばらくラインナップがあるのですがひっそりと無くなってしまう。
モタードで最強はオンロードバイク最強では無いのです。
だが、希少性もあり乗ったら楽しいんです。