クルーザーでもない、復活でもない?
2023年5月中旬に開催されたカワサキ新型エリミネーターの試乗会で、僕がちょっとビックリしたのは「クルーザーを作るつもりはなかったし、かつてのエリミネーターを復活させようという意識もありませんでした」という技術者の言葉だった。
ついでに言うと、国内外で大人気のホンダ レブル250/500への対抗意識も特になかったそうである。
【画像25点】カワサキ新型エリミネーターの装備、足着きを写真を見る!上級仕様「エリミネーターSE」も詳細解説
ではカワサキがどうして新型エリミネーターを開発したのかというと、非常に出来がいいニンジャ400のエンジンを多くのライダーに味わって欲しいから……とのこと。そう言われても、いまひとつピンと来ない人がいるかもしれないが、確かにニンジャ400は出来がいいのだ。
もっとも僕がニンジャ400で好感触を抱いたのは、エンジン単体ではなく、マシンをトータルで見ての話である。2018年から発売が始まった現行モデルのバランスは素晴らしく良好で、過去にこのバイクでいろいろなシチュエーションを走った僕は、最近ではめったに聞かない「ライトウェイトスポーツ」という言葉を思い出した。
その背景にはニンジャ250と基本設計の多くを共有することで実現した167kgという車重があるのだが(一方ニンジャ650は194kgで、世間で同車のライバルと認知されているホンダ CBR400Rは192kg)、新型エリミネーターはそこまでの軽量車ではない。まあでも、レブル250:171kg、レブル500:191kgという車重を考えると、176kgは十分軽いと言っていいのかもしれない。
ニンジャ400譲りのパラレルツイン
ニンジャ400には兄弟車として、ネイキッド仕様のZ400が存在する。そして新型エリミネーターは、Z400以上の気軽さと親しみやすさを追求した結果として、車体関連パーツのほとんどを専用設計。フレームは細めの高張力鋼管を用いたトリレスタイプで、エンジン後部にはスイングアームマウントプレートをボルト留めしている。
この構成の原点は2015年にデビューしたニンジャH2で、2018年以降のニンジャ250/400も同様の構成を導入しているが、新型エリミネーターのフレームは完全な別物だ。
そしてディメンションに注目すると、カワサキにその気がなくても、ホイールベース:1520mm、キャスター:30度、トレール:121mm、シート高:735m、タイヤサイズ:フロント130/70-18 リヤ150/80-16という数値は、思いっ切りクルーザーである。
その事実をどう捉えるかはさておき、ニンジャ400のディメンションは、ホイールベース:1370mm、キャスター:24.7度、トレール:92mm、シート高:785mm、タイヤサイズ:フロント110/70R17 リヤ150/60R17という数値と比較すれば(キャスターが24.5度となる以外、その他の数値はZ400とニンジャ400で共通)、新型エリミネーターの狙いが理解できるだろう。
一方のエンジンは、前述したようにニンジャ400から転用したパラレルツインで、最高出力:48ps/1万rpm、最大トルク:3.8kgf-m/8000rpmというスペックに変更はない。ただし排気系は専用設計で、2次減速比はローギヤード化(41/14 → 43/14)が図られているのだが、クルーザー的なバイクであるにも関わらず、あえて低中速域を重視したモディファイを行わない姿勢には、開発陣のこのエンジンに対する自信が現れていると思う。
フルスロットル&フルブレーキングも安心してできる
ここからは乗り味の話で、先にお断りしておくと、僕はこれまでにニンジャ400とZ400に対して、乗り手の技量や走る場面を問うなどという印象を抱いたことは一切ない。でも新型エリミネーターを体感した現在は、必ずしもそうではなかったのかも……という気がしている。
というのも、やっぱり新型エリミネーターはムチャクチャ気軽でフレンドリーなのだ。そう感じる主な理由はシートの低さと安定感の高さで、この感触なら初心者やリターンライダーでも不安を感じることはないだろう。
もちろん、新型エリミネーターの特徴はそれだけではない。適度な重厚さがありながら重ったるくはないこと、18インチの前輪がライダーを優しく導いてくれるかのような挙動を示すこと、排気系と2次減速比を変更した効果でニンジャ400用パラレルツインの二面性が際立ったことなども(低回転域で適度な鼓動が満喫できる一方で、中高回転域で180度クランクのシャープな吹け上がりが味わえる)、他のバイクでは味わえない要素だと思う。
そして特徴というよりも意外だったのは、ワインディングロードでの運動性能。具体的な話をするなら、安定感が十分以上のこのバイクは車体を寝かせる際の恐怖感がほとんど無いし、長めのホイールベースや低めのシートのおかげで、ニンジャ400とZ400よりも、フルスロットルやフルブレーキングがイージーに行える。もちろん、絶対的な旋回性はニンジャ400とZ400に軍配が上がるのだけれど、誰もが気軽にスポーツライディングを楽しめるのは、新型エリミネーターのほうではないだろうか。
意外な発見「ドゥカティ デァイベル/ディアベルV4と共通点がある?」
試乗を終えて車両をじっくり眺めている最中、僕の頭にふと浮かんだのは、ドゥカティのディアベル/ディアベルV4(*)だった。改めて振り返るとあのシリーズも、クルーザースタイルでありながら気軽にしてフレンドリーで、エンジンの基本を共有するパニガーレやストリートファイターより、潜在能力を引き出せている感覚が味わいやすいのである。
となると、エリミネーターの開発陣はディアベルを参考にしたのかも……という気が一瞬だけしたのだが、そんなことはないだろう。
何と言ってもカワサキは、1976年から空冷Zにクルーザーの要素を注入したLTDシリーズを手がけているし、1985年から展開が始まった初代エリミネーターシリーズは、ストリートドラッガーのイメージが強くても、エンジンの原点であるGPZシリーズと比較すれば、気軽でフレンドリーな特性だったのだから。
そのあたりを考えると、新型エリミネーターの素性は実にカワサキらしいのだ。そして近年になって徐々に縮小している400ccクラスに、ライダー人口の増加に貢献しそうなこのモデルが加わったことは、2輪メディアで仕事をする1人して、大変喜ばしいことだと思っている。
*編集部註:ディアベルはスーパーバイク「1198」をルーツとするL型2気筒エンジンを搭載したクルーザースタイルのモデル。ディアベルV4も同様にスーパーバイク「パニガーレV4」をルーツとするV型4気筒エンジンを搭載したクルーザースタイルのモデル。
カワサキ新型エリミネーターの足着き&ライディングポジション
身長182cmの筆者ではあまり参考にならないが、シート高はニンジャ400/Z400より50mmも低い735mmなので(ちなみに現行スーパーカブ110より3mm低い!!)足着き性は素晴らしく良好。
身長160cmのライダーでも両足の半分が接地するようだ。ただしライディングポジションは一世代前の400ccネイキッド的で、「クルーザーに乗っている感」とはちょっと違う。
カワサキ新型エリミネーター主要諸元
*[ ]内は上級グレード・エリミネーターSEの数値
【エンジン・性能】
種類:水冷4サイクル並列2気筒DOHC4バルブ ボア・ストローク:70.0mm×51.8mm 総排気量:398cc 最高出力:35kW<48ps>/1万rpm 最大トルク:37Nm<3.8kgm・f>/8000rpm 変速機:6段リターン
【寸法・重量】
全長:2250 全幅:785 全高:1100[1140] ホイールベース:1520 シート高735(各mm) タイヤサイズ:F130/70-18 R150/80-16 車両重量:176kg[178kg] 燃料タンク容量:12L
【車体色】
スタンダード:パールロボティックホワイト、メタリックフラットスパークブラック
SE:メタリックマットカーボングレー×フラットエボニー
【価格】
スタンダード:75万9000円
SE:85万8000円
新型エリミネーターの装備&機能
円形の液晶メーターは新規開発。中央にデジタル式速度計、外周上部に回転計、下部に燃料計というレイアウト。ギヤポジション、時計、オド&ツイントリップ、平均燃費なども表示される。
スマートフォンとの連携機能もあり、専用アプリ「RIDEOLOGY THE APP」でメンテナンススケジュールなどの車両情報、ライディングログをスマホに表示したり(GPSで走行ルートを記録)、電話やメールの着信をメーターに表示したりすることができる。
高さをコンパクトに抑えたという燃料タンクは容量12L。
シート下にはETC2.0車載器を標準装備。現在カワサキでは650cc以上のモデルに車載器を標準装備しているが、400ccクラスで標準装備は初。
灯火類はすべてLEDで、ウインカーはクリアレンズ。テールランプは初代エリミネーター400をイメージさせるデザイン。
試乗レポート●中村友彦 写真●吉見雅幸/岡 拓(車両解説) 図版●カワサキ
編集●上野茂岐
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