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セットアップとアプローチを変えた37号車Deloitte初優勝。笹原&アレジの苦労とトムスチームとしての伏線

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セットアップとアプローチを変えた37号車Deloitte初優勝。笹原&アレジの苦労とトムスチームとしての伏線

 6月1~2日に鈴鹿サーキットで行われた2024スーパーGT第3戦で初優勝を飾った37号車Deloitte TOM’S GR Supraの笹原右京とジュリアーノ・アレジ。昨年からコンビを組んでGT500クラスに挑むも思うような結果が残らず、最近は険しい表情をすることが多かったふたりだが、3時間レースで争われた鈴鹿大会で苦労が報われた。

■「いつ勝てるんだろう」ドライバーや首脳陣から漏れた本音
「ここまで本当に長すぎて……『いつ勝てるのだろう?』と思ってしまいそうな場面もありました。ずっと信じて本当に良かったなと思います」

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 そう語るのは、昨年からTGR TEAM Deloitte TOM'Sに加入した笹原。さらなる活躍の場を求めてホンダからトヨタへ移籍した初年度ということで、本人も好結果を出そうと意気込んでいたが、苦戦続きのレースが続き、その流れから脱するのに時間がかかったという。

「想像とは違ったスタートになりました。(福住)仁嶺や(大湯)都史樹もトヨタに来て最初から良いパフォーマンスを出せていますけど、本当は自分もそういったイメージでした。今となってはそうできるはずだったんですけど、いろいろなことがあり、急に霧の中に入ってしまったという感じでした。そこから抜け出すのがめちゃくちゃ大変でした」

 なかなか結果が出ない日々が続き、不振の矛先がドライバーに向くこともあったとのこと。パートナーのアレジも、速さを見せられず怒りが爆発しそうになる場面もあったという。

「ジュリアーノがかなり怒っているときもありましたけど『自分たちを信じられなくなったら、どんなに大きなチャンスが来ても勝てなくなってしまう。今は苦しいけど、とにかく耐え続けてひとつひとつ解決していこう』と言い続けていました」と笹原。

「いつか絶対に凄いことが起こると信じてやってきましたけど……まさか今回、それが形となって全部やってくるとは思わなかったです」と感慨深い表情をみせた。

 同じくDeloitte TOM'Sに加入して以降は辛い思いをすることが多かったアレジ。特に今シーズンはスーパーGTのパドックでも笑顔が少なくなっている印象だった。「本当に長かったし、辛かったです」と、本人としても精神的にキツくなる時間を過ごしていたようだ。

「(うまくいかないときに)ドライバーのせいにするのは簡単。もちろん僕たちが失敗するときはあったけど、原因がそれだけでないときもありました。そのなかで僕自身のパフォーマンスを見せられない時間が続いたのは何より辛かったです」とアレジ。

「でも、今回はクルマが速く、あとは僕たちがパフォーマンスをしっかり出し切るだけという状態だったので、とにかくそこに集中しました。レースでも右京がトップを守り、チームも良い仕事をしてくれたので、最後の10周はしっかりとゴールまでクルマを運ばないといけないと思っていました」と、最終スティントはみんなが繋いでくれたバトンをゴールまで届けるべく、着実なドライビングを心がけたという。

 そうしてトップチェッカーを受けたDeloitte TOM’S GR Supra。ピットのプラットホームで見届けた大立健太エンジニアは笑顔を見せながらも胸を撫で下ろしていた。

「ポールポジションのときもそうでしたけど……ホッとしたというのが一番の気持ちです」と大立エンジニア。

「ずっと強い37号車という部分が、昨年からドライバーラインナップが変わり、そこ(以前のような強さ)を発揮し切れなかったですし、小枝(正樹/現チーフエンジニア)さんからクルマを引き継ぎ、プレッシャーはずっと感じていました。嬉しいというよりも、ここ最近は苦しい時間がずっと続いていたので、予選もそうですし、決勝に関しても何か『ホッとした』というのが一番の感想です」と、大立エンジニアの表情にもようやく笑顔が戻っていた。

 今季からTGR TEAM Deloitte TOM'Sの監督に就任したミハエル・クルムも「前回の富士がかなり苦戦したので、今回の結果は本当にミラクルです!」と興奮気味に話した。

■優勝への伏線はスーパーフォーミュラ。笹原&大立エンジニアコンビに変化
 鈴鹿大会でのDeloitte TOM’S GR Supraは、土曜日の公式練習から好調な走りをみせ、予選でもポールポジションを奪取。決勝でもふたりのドライバーともにペース良く周回を重ねたことが勝利につながった。

「今回は36号車(au TOM’S GR Supra)のセットアップを参考にさせてもらいながら進めていきました」と大立エンジニアは語るものの、それ以外にも勝利につながった“きっかけ”があったという。それが、2週間前にオートポリスで開催された全日本スーパーフォーミュラ選手権の第2戦だ。

 大立エンジニアはスーパーフォーミュラでも笹原が乗る37号車を担当しているが、セットアップがなかなか決まらず苦戦が続いていた。それが、オートポリス戦でお互いが求めるものが合致し、これまでにない前進を遂げたという。

「やはり、僕もしっかりと右京の運転と言いたいことを理解できてなかったですし、右京も僕に対して伝えるときに『こうしたい、ああしたい』ということを十分に伝えきれていませんでした。そこの意見が噛み合わなかったので、話をしていても『何それ、どういうこと?』となるところが今まであったんです」と大立エンジニア。

「例えば『アンダーだ、オーバーだ』という話のなかで『運転でこういうふうにしたいけど、それができないクルマだったから、こうなってしまっている』という部分があり、それを改めて突き詰めていった結果『こっちでいいんだよね!』という方向性が見つかり……初めてふたりで『カチッ』と噛み合った感じがあったのが、スーパーフォーミュラオートポリスでの8分間のウォームアップ走行でした」

「(ウォームアップから)決勝に向けてにも『結果的にこっちの方が良かったね』というところの確認もとれましたし、そこで掴んだことを引き継げたことが、今回セットアップを外さなかった要因でもあるのかなと思います。その部分は両カテゴリーでタッグを組んでいる強みを活かせました」

 これについては笹原も手応えを感じている様子で「その前から伏線はいくつかあったんですけど、スーパーフォーミュラのオートポリスが大きな手掛かりとなりました」とのこと。

「そこからスーパーGTに対してのアプローチの仕方や考え方が大きく変わっていき、それが今回に関しては間違いなく大きく影響しました。今までやってきた試行錯誤や苦労が、いきなりピタッとハマり、ドライバーも素早く対応できました。そこが一番の勝因だったと思います」と振り返った。

■周囲が語るアレジの変化「スーパー耐久の経験が自信になっている」
 そしてスーパーGT第3戦では、予選と決勝ともに力強い走りをみせたアレジも、この快進撃を披露する伏線となるものがあった。

 アレジは、今季からスーパー耐久シリーズにFIA-GT3車両で争われるST-XクラスにROOKIE Racingから参戦。開幕戦のSUGO4時間と第2戦の富士24時間で連勝している。

「ジュリアーノはスーパー耐久ではROOKIE Racingさんで乗らせてもらっていて、SUGO、富士と2連勝していることで勝ち癖みたいなものがあったりしたのかなと思います。今回はジュリアーノにロングランをやらせても問題なかったですし、ショートランでもしっかり上がってきてくれました」と大立エンジニア。

 特に富士24時間では夜間に小雨が降ってウエット路面になったところを、スリックタイヤで次のピットストップまで凌ぎ切らないといけないシチュエーションをアレジが担当することとなった。「難しい場面だったうえに、トラフィックも処理しないといけません。そんな局面を乗り切ったことは、ドライバーとしての自信がついたと思います」とクルム監督は分析する。

 TOM’Sの山田淳総監督も、アレジのスーパー耐久での経験がプラスになっていると見ている。

「スーパー耐久の道を切り開いてくれたのは片岡(龍也)なんですけど、彼にはすごく感謝しています。スーパー耐久はスーパーGTやスーパーフォーミュラよりも一般の市販車に近い動きをするクルマで戦います。そこでしっかりとクルマの動きを再確認するチャンスを作ってくれました。それに対してジュリアーノも結果を残せたことで、自信がついた部分があると思います」

「先日の富士24時間でも、路面温度が目まぐるしく変わるコンディションでも上手に乗りこなしていて、最終的に優勝できたというのが自信につながっていると思います。そういった部分は昨年までなかったわけで、今年はそれを経験しながらスーパーGTにも参戦しています。その部分が大きな変化だと思います」と分析した。

 笹原とアレジのコンビでようやく1勝を飾ることができたという感じではあるものの、平川亮/ニック・キャシディの頃のような“強い37号車”を知っている山田総監督にとっては「ようやく勝てたというよりも、どちらかと言うと強かったときの37号車に戻りかけているという感じです。ドライバーふたりにとってもここからがスタートです。この優勝を経て、どう変わっていくかが楽しみです」と、早くも次のステップを見据えている様子だった。

文:AUTOSPORT web
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