スーパーGTのGT500クラスで、2023年、2024年とタイトルを連覇し、2025年は3連覇に挑んでいるTGR TEAM au TOM’Sの1号車au TOM’S GR Supra(坪井翔/山下健太)の特別コラムがオートスポーツでスタート。au TOM’S GR Supraで昨年までトラックエンジニアとして2連覇を飾り、2025年はチーフエンジニアを担当している吉武聡(よしたけさとし)氏が、毎戦レースのターニングポイントとなった部分を中心に振り返ります。
6月26~28日にセパン・インターナショナル・サーキットで行われた第3戦で1号車は、公式予選で8番手を獲得、決勝では1周目に接触を受けて最後尾まで順位を下げましたが7位まで挽回しました。コラム第3回では、12年ぶりのセパンへの準備や大きく変化するコンディションへの対応、1号車の作戦も解説していただきます。
TOM’S 2025スーパーGT第3戦セパン レースレポート
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■セット出しで迷走しないためのランプラン
みなさんこんにちは。TGR TEAM au TOM’Sの吉武です。
12年ぶりの開催となったセパンでのレースは、予選8番手・決勝7位でした。サクセスウエイト70kg(ウエイト50kgと燃料リストリクター2段階絞り/通称:2リスダウン)での7位は、結果としては上出来です。それでも、ペースは優勝のDeloitte TOM’S GR Supra(笹原右京/ジュリアーノ・アレジ)に遜色なく、1周目のアクシデントがなければ表彰台も狙えた手応えがありましたので、悔しさの残る結果でした。
そんなセパン戦でポイントとなったのは、『週末の組み立て方』と『セパンへの適応力』だと思います。
実は今回の第3戦で、1号車のトラックエンジニアである伊藤大晴が体調不良となり、自分が代打を務めました。ただ、レース前のタイヤ選択や持ち込みのセットアップ、ランプランなどは伊藤と一緒に相談していたので、基本はそのとおりに進めることができました。そして、この事前プランの組み立て方が、とくに今回の予選結果、そしてレースでのパフォーマンスに影響したのではないかと感じています。
まずタイヤ選択ですが、今回は海外戦ということでロジスティクスの日程も関係して、タイヤコンパウンドの選択期限が国内でのおよそ2週間前から、レースのほぼ1カ月前でかなり早くなりました。ですので、普段の国内レースよりも路面温度の予測がしづらく、ブリヂストンタイヤ勢のなかでも、いろいろなコンディションに対応するために3種類のコンパウンドを持ちこんだチームもあったと聞いています。そのなかで1号車は、ハード3本とソフト3本を選択しました。というのも、1月のオフシーズンテストで得ていたデータを元に、路面温度に合わせたコンパウンドの使い分けができている状態だったからです。
そして、26日午後、27日午前の2回に分けられた公式練習のランプランも、重要な要素だったと思います。まず、オフシーズンテストで理解していた前提として、セパンは午前と夕方で路面温度が大きく変化します。そのため、路面温度が比較的下がる木曜日の夕方の公式練習1回目は翌日の予選と同じ時間帯なので予選のセット出し、路面温度が高くなる午前の公式練習2回目は決勝へ向けたロングランのセット出しと、プランを分けて進めました。
加えて、今回のセパン・インターナショナル・サーキットはコースに砂が多く残っており、テスト時よりも路面コンディションが悪い状況でした。ですので、走り出しのフィーリングについては一旦スルーといいますか、あまり参考にせずに進めました。これは、セパンのテスト経験が豊富なドライバーふたりが、スムーズにコンディションを評価してくれたので、おかげですぐに判断ができました。
ただ、ライバルチームの動きを見ていると、その状況で頻繁にセットアップを変えているようなチームもあり、走り出しから迷走してしまったパターンも多かったのではないかと思います。そのなかで我々は、路面コンディションが悪かった公式練習1回目は、持ち込んだ2種類のタイヤのソフトとハードの感触を確かめる程度にとどめて、早々にショートランに取り組みました。そして、公式練習2回目は路面温度の低い序盤で予選アタックの確認を済ませ、その後は決勝へ向けたタイヤ評価とセット出しに集中しました。
こうしたセパンのコンディションに合わせたランプランの組み立て方は、予選結果に表れていたと思います。1号車は持てる力を出し切ったのですが、タイムだけを見るとちょうどトップからは燃料リストリクターの分が遅れている印象でした。それでも、Q1は何台かのライバルが実力を出し切れなかったようでした。おそらく、午前の公式練習2回目から路面温度が下がったことで、タイヤのウォームアップなどでフィーリングに差が出て苦戦したのではないかと思いますが、こうして周りが苦戦していたこともあって1号車は無事にQ1を通過し、Q2でも8番手となりました。
■ドライバーふたりの高レースIQが活きた7位
ライバルが脱落したおかげでもありますが、2リスダウンでの予選8番手は自分でもびっくりの好位置です。それでも決勝は、2リスダウンのマシンではバトルは厳しいと予想していたので、当初のプランとしては早めにピット作業を行ってアンダーカットを狙い、以降は後続をなんとか抑えるという展開を望んでいました。スタートも、坪井選手が過去のレースを参考にしながらシグナルのタイミングを合わせてうまく決めてくれたのですが、第3コーナーで後続に追突されてスピン。最後尾まで下がってしまいました。
坪井選手は無線で、接触自体のことやペナルティの裁定に時間がかかっていたことについてヒートアップしていましたが、エンジニアとしては冷静になだめつつ、戦略を練り直さないといけません(内心は「あぁ、終わったな……」と思っていましたが/苦笑)。ただ、坪井選手は2周ほどで隊列に追いつきました。この時、ペースがかなり良さそうだったことに加えて、その後に多くのライバルがミニマムの周回数(レース周回数の3分の1)でピットインしていったので、1号車は当初のプランを変えてステイ(コースに留まる)方向に切り替えました。そして前が空いてからは、ペースもさらに上がっていきました。
坪井選手がスティント後半でもペースを上げられたのは、優勝したDeloitte TOM’S GR Supraの笹原右京選手も同じことが言えると思いますが、我々がテストのデータを参考に選んだハード側のタイヤがハマっていたことも要因だと思います。それでも、21周目からはENEOS X PRIME GR Supraの後ろのポジションを走り、数周の間はこの位置関係が続きました。
1号車としては、ペースが良いのでこのままピットに入らずにステイしたい場面でしたが、引っかかるようならピットインしようと考えて、作業の準備をしました。それでも、戦略としてはステイが本望で、坪井選手も状況をよく理解していて「前が入ったら自分は入らない」と無線で返答がありました。ここで、ENEOS X PRIME GR Supraがウチのピットイン準備の動きに反応したのかピットへ向かったので、ウチはピットインをキャンセルして、坪井選手は前が空いた状態になり、そのままハイペースを保つことができました。
その間も、坪井選手はこちらから指示をせずとも燃費走行をしてくれていたこともあり、32周目にピット作業を短時間で終え、KeePer CERUMO GR Supraの後ろの8番手で合流。第1スティントだけでポジションをスタート時の位置まで戻すことができました。そこからは、山下選手と大湯都史樹選手の熱いバトルが続きました。
セパンで仕掛けられる場所は、基本的にストレートエンドしかありません。ただ、燃料リストリクターの影響で、1号車のストレートスピードは時速4~5キロほど遅れてしまいます。その一方で、1号車はコーナーでリズムよく走ることができた利点もありました。
基本的にペースは山下選手の方が速かったので、コーナーで追いつき、ストレートで離されるというパターンが続きました。ですが、KeePer CERUMO GR Supraもタイヤが垂れてきたのか、さらにペースに差が出てきたころ、山下選手は積極的に並びかけて相手のペースをすこしずつ落とし、その隙にスリップストリームに入りこむ、という流れで攻略しました。あれはもう、完全に山下選手の技でしたね。
ここでひとつポジションを上げることができたのは、ポイントを稼ぐうえでかなり大きいと思います。欲を言えば、10秒のタイムペナルティを受けながらの3位フィニッシュとなったSTANLEY CIVIC TYPE R-GTと0.8秒ほどの差だったので、そこも前に出ておきたかったですが、順位としては上出来です。Deloitte TOM’S GR Supraも優勝しましたし、チームとしては最高にハッピーな結果になりました。
今回のレース結果を見ると、TRS IMPUL with SDG ZやSTANLEY CIVIC TYPE R-GTなど、セパンでのオフシーズンテストの常連組が上位に集まっています。やはりオフのテストでのチーム、そしてドライバーの経験をもとに週末を組み立てられたチームのパフォーマンスが良かったように見えました。
さて、次の第4戦はふたたび富士スピードウェイでのレースですが、スプリントフォーマットでのレースが行われます。とは言いつつも、土曜日は両クラス混走で35周、日曜日はクラス別で50分間とのことで、タイヤはそれなりに垂れるはずです。なので、スプリント用に特別なタイヤを投入するようなことはせず、タイヤ選択はこれまでと変わらないのではないか、と感じています。富士はオーバーテイクしやすいサーキットですし、第3戦で結果は満足とはいえ、レース内容としてはドライバーのふたりはフラストレーションが相当溜まっているはずなので、ふたりとも解放してあげられるようなレースをしたいですね。
●Profile:吉武聡(よしたけさとし)
福岡県出身、1979年3月23日生まれ。自動車メーカー勤務からTRD(現TGR-D)へ入社し、2013年にトムスへ入社。F3のエンジニアを経て2020年からはスーパーGT500クラスで36号車(現1号車)を担当。2021年、2023年、2024年に王者に輝いた。2025年は1号車のチーフエンジニアを担当し、スーパーフォーミュラ・ライツでは35、36、37、38号車の4台のチーフエンジニアを務めている。
[オートスポーツweb 2025年07月09日]
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