もくじ
ー 2日目:曲がりくねった地方道4501号
ー SS:スレート・マウンテン
ー グランドクロスが生んだアルピーヌA110
ー 番外編:1973年を振り返る
ー 3台のスペック
2日目:曲がりくねった地方道4501号
フォーカスRSの後に続いて自然保護区に延びる4501号線を走る。今年のラリーGBのブレニング・アルウェン・ステージに混ざるべく、アルピーヌA110の低くスラントしたノーズで、高く切れ上がったフォードのテールを追い回す。決して忘れられない光景だった。
アルピーヌの最高出力は、どちらかというと控えめな252psでも、想像以上に速く感じられる。かなり手を焼くような険しい道でも、本気で走るマウンチューン仕様のフォーカスRSヘリテイジ・エディションにしっかりと着いて走ることができる。
ご存知の通り、フォード・フォーカスRSヘリテイジ・エディションは超人的なパフォーマンスを備えており、ターボが生むパワーも底知れない。しかし、フォーカスとは対照的な、路面のきめ細やかなフィードバックが得られるアルピーヌA110は、1.8ℓ4気筒ターボの生み出すパワーを、自信を持って完璧に引き出すことができる。
アバルト124GTも、ウェールズの道を、やや誇張しすぎながらもクセになるエグゾーストノートを田園地帯に響かせつつ、快調に飛ばす。ただし、フットレストは垂直すぎるし、180cmを超える身長のドライバーは、背中を折り曲げなければならないほどキャビンはタイトで、例えハードトップを外したとしても、洗練性に関しては疑問符を付けなければならない。正直、価格の妥当性も疑問ではあるけれど、惹かれるのを止めることも難しい。
アバルト124GTはこの3台の中では最も遅く、仕上がりも荒いが、クルマのパフォーマンスとしては英国の郊外の道にパーフェクト。それに、フォーカスの硬すぎる乗り心地は、アバルトの容赦ないエグゾーストノートと同じくらい、ドライバーに疲労感を与えることも事実。何でもやりすぎは禁物。正直いって、人生の楽しみとしてのドライビングとは、やや一線を画すものだとは思う。
SS:スレート・マウンテン
スポンサーの影響力で、ウェールズラリーGBに生まれる新しいスタイル。現代のF1でセレブリティの存在が見過ごされがちなように、ラリーにはとても情熱的で感情的な側面もある。
我々の目前にある景色は、ウェールズの丘陵地帯に8000平方kmにも広がる鉱山と、そこに置かれたクルマ。スレート・マウンテンのランドスケープは、このラリーというスポーツの持つ魂を強く明示している。埃で目が霞んでフォーカスを見失う前に触れておくと、ここはWRCで、3.2km程のスペシャルステージとして組み入れられた場所。山頂からは、タイトなヘアピンが続くワインディングを見下ろすことができる。道端には槍のように尖った岩が剥き出しで、路面は黒いスレートで覆われている。我々のラリーのフィナーレはここに決めた。
コースに降り立ち、危険なほどきついコーナーを抜ける。一瞬逆方向にステアリングを切ってドリフト状態に持ち込む、スカンジナビアンフリックを何度か決め、往年のアリ・バタネンの走りを再現してみる。このコースを激しく攻め立てたといいたいところだけれど、今回の3台は本当のラリーカーではない。普通のタイヤを履き、充分なロードクリアランスもなく、板金の必要がない状態でメーカーに返さなければならない。現実が気持ちを抑える。
極めて高速で複雑なコースをやや抑えて走ったけれど、これまでの時間を振り返る。今回の3台の素晴らしい特徴、個性をラリーシーンが生み出したことは間違いない。
アバルト124GTはシンプルで積極的なドライビングを受け入れつつ、どこか気まぐれさも残る。アバルトにはFIAのR-GTクラスに該当するラリーバージョンも存在はするのだが、実際に壮大なラリーコースでドライブしてみても、古い英国製のロードスターやクーペほど、ラリー車としての雰囲気が強くない。ロータスエランやMG Bといった、人生を豊かにさえしてくれる、スポーツ・ロードスターという英国の自動車文化は、愛おしいものだ。
対象的にフォーカスは、ハイパフォーマンスなホットハッチとしての、偉大な道標としての完成度がある。荒々しくも楽しさに溢れ、熱い走りと利便性を兼ね備えている。確かに祖先となるエスコートとはメカニカル的に異なる成り立ちだとはいえ、他の2台と同様に、21世紀のWRCとの結びつきは確かなものだと思う。
グランドクロスが生んだアルピーヌA110
そしてアルピーヌ。価格は確かに他の2台とはかなりの差があるが、その価値は間違いないもの。フォードもアバルトも、仕上がりは秀逸ではある。それでもなお、高速道路や海岸線の道、都市部や競馬場のダートコース、郊外の道にスレートマウンテンのラリーステージなど、すべての走りは、クルマの成り立ちを骨格に至るまで証明していた。
ラリーステージから一般道へと戻れば、まるで装備を外したクラブレーサーのように、普通の運転さえいとわない。この洗煉性と使い勝手の良さは、ポルシェ718ケイマンの完成度に迫ると思う。もしオーナーになったら、小さく使いにくそうなカップホルダーを変更して、シートポジションを低めにセットし直すだけで、満足できるはず。
カップホルダーは別として、アルピーヌA110の世界観は完成している。優れた開発者とアイデア、技術、開発予算、受け入れられる市場とブランド力。すべてが一体となって、このクルマが生まれている。ここには一切、手のはいる余地が無いとさえ思う。わたしが心配なのは、このグランドクロスのような一致は、もう二度と起き得ないのではないかということ。
きっと杞憂に過ぎないとは思う。数年後、次のモデルでも、こうして集まることができると信じたい。人々が豊かな大地から生み出した、素晴らしい自動車。きっとこの巡り合わせは今回限りではないはず。特にアルピーヌA110のようなクルマとの出会いは。
番外編:1973年を振り返る
アルパイン・ルノーは1970年と1971年の国際ラリー選手権ですでに名を馳せていた。1973年に名称が世界ラリー選手権、通称WRCへと変わると、さらに独占状態が強くなる。
A110をドライブした、ジャン・クロード・アンドリュー(フランス)とオベ・アンダーソン(スウェーデン)、ジーン・ピア・ニコラス(フランス)が、開幕ランドのモンテカルロで、表彰台を独占したのだ。唯一、フォード・エスコートを駆ったハンヌ・ミッコラだけが4番手につけ、5番手にも入賞していたA110に割って入る形となった。
ラリーは、モナコを最終目的地とし、モンテカルロの険しい山岳地帯や南フランスの様々な都市で、スペシャル・ステージが開催された。その時、フィアット・アバルト124ラリーは、7位へ食い込むのがやっとだった。
今回は、1位から3位までを独占したアルピーヌと、同時期に戦ったフィアット、フォードに敬意を評して、その頃の子孫ともいえる3台を集めた。他に1973年にラリーへ参戦していたクルマの子孫として、現代のクルマを見渡せば、ポルシェ911やBMW M2、日産フェアレディZなどがあるといえる。加えて、トヨタ・オーリス、プジョー508、シトロエンDSなども含まれるだろうか。なかなかバリエーション豊かだ。
3台のスペック
アバルト124GTのスペック
■価格 3万3625ポンド(497万円)
■全長×全幅×全高 4060×1740×1240mm
■最高速度 230km/h
■0-100km/h加速 6.8秒
■燃費 15.6km/ℓ
■CO2排出量 148g/km
■乾燥重量 1060kg
■パワートレイン 直列4気筒1368ccターボ
■使用燃料 ガソリン
■最高出力 170ps/5500rpm
■最大トルク 25.3kg-m/2500rpm
■ギアボックス 6速マニュアル
アルピーヌA110プルミエールエディションのスペック
■価格 5万1805 ポンド(766万円)
■全長×全幅×全高 4205×1800×1250mm
■最高速度 249km/h(リミッター)
■0-100km/h加速 4.5秒
■燃費 16.3km/ℓ
■CO2排出量 138g/km
■乾燥重量 1103kg
■パワートレイン 直列4気筒1798ccターボ
■使用燃料 ガソリン
■最高出力 252ps/6000rpm
■最大トルク 32.9kg-m/2000rpm
■ギアボックス 7速デュアルクラッチ・オートマティック
フォード・フォーカスRSヘリテイジ・エディションのスペック
■価格 3万9895 ポンド(590万円)
■全長×全幅×全高 4390×2010(ミラー含む)×1472mm
■最高速度 265km/h
■0-100km/h加速 4.5秒
■燃費 12.9km/ℓ
■CO2排出量 175g/km
■乾燥重量 1599kg
■パワートレイン 直列4気筒2261ccターボ
■使用燃料 ガソリン
■最高出力 375ps/6000rpm
■最大トルク 51.8kg-m/3200rpm
■ギアボックス 6速マニュアル
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