全線開通から40年以上
中央自動車道(中央道)は、首都圏と中京圏を結ぶ重要な交通網で、古くから多くの人々に利用されてきた。東京都杉並区の高井戸インターチェンジ(IC)を起点に、神奈川県、山梨県、長野県、岐阜県を経由し、愛知県小牧市の小牧ジャンクション(JCT)で終点を迎える、全長300kmを超える長距離路線だ。
【画像】「えぇぇ!」 これが「60年前の高井戸IC」です! 画像で見る(計16枚)
中央道は1967(昭和42)年に初区間が開通し、ルートやICの設置といったさまざまな課題を克服しながら、1982年に全線が開通した。つまり、2024年11月現在、40年以上の歴史を持っているのだ。
中央道が開通したことで、さまざまな恩恵がもたらされた。特に経済面での効果は顕著で、中央道開通から約40年間での生産変化額は
「約26兆円」
に達するというデータがある。
では、具体的にどのような経済効果があったのかを見ていこう。
計画の舞台裏
中央道の構想は、1950年代の高速道路建設案の段階から存在していた。
政府は“日本の大動脈”である首都圏、中京圏、関西圏を最短かつ最速で結ぶことを優先しており、そのためには首都圏から南アルプスを貫いて中京圏へ至るルートが理想とされていた。
しかし、当時の予算と技術では南アルプスを貫く工事を行うことができず、中央道の建設は停滞してしまった。その後、首都圏から中京圏を結ぶ東名高速道路(東名)が開通し、中央道の建設意義が失われつつあった。
そんななか、長野県出身の参議院議員、青木一男(1889~1982年)の提案によりルートが変更され、現在の中央道のルートで建設が進められた。そして、初区間が開通してから25年後の1982(昭和57)年に、ようやく中央道は全線開通を迎えた。
高速道路の意義
中央道の開通により、さまざまな効果が現れた。特に、所要時間の短縮と経済効果のふたつは、中央道開通の大きな成果といえる。
2015年のデータに基づき、首都圏から中央道沿道の主要駅、中京圏から中央道沿道の主要駅への一般道と中央道利用の所要時間を比較してみると、次のような結果が得られた。
●東京駅~甲府駅
・一般道:290分
・中央道:128分
・差:162分
・短縮割合:56%
●東京駅~塩尻駅
・一般道:430分
・中央道:178分
・差:252分
・短縮割合:59%
●名古屋駅~飯田駅
・一般道:226分
・中央道:108分
・差:118分
・短縮割合:52%
●名古屋駅~伊那駅
・一般道:239分
・中央道:131分
・差:108分
・短縮割合:45%
利用する距離が長くなるほど、一般道と中央道の所要時間の差は大きくなる。
中央道沿道は日本有数の険しい山岳地帯で、一般道も主に国道であるため、片側1車線の設計が多く、速度が出しにくい。そのため、ノンストップで速い速度で走行可能な高規格道路の存在は非常に重要である。
この所要時間の短縮は、企業の発展、農産物の輸送、観光産業に大きな影響を与え、中央道開通後には約26兆円の生産変化額につながっている。年間の生産変化額は、1982年の中央道全線開通後、次のように年々上昇していった。
・1990年代:約4000億円
・2000年代:約6000億円
・2020年代:約8000億円
このように、中央道の開通は経済成長に寄与している。
開通で生まれた8万人雇用
中央道の開通は、特に山梨県、長野県、岐阜県の3県に対して、さまざまな産業や経済発展に大きな影響を与えた。開通により、雇用が増加したことが報告されており、
・山梨県:約3万人
・長野県:約4万人
・岐阜県:約1万人
合計で約8万人の企業雇用が生まれた。特に製造業の発展が著しい。
中央道沿道には、山梨県の甲府南IC近くに国母工業団地があり、ここには電気機械、輸送用機械、金属製造業などが集まっている。また、長野県塩尻市では情報通信機器の産業出荷額が全国1位を誇っている。
さらに、長野県の伊那地域や岐阜県の東濃地域は、アジアナンバー1の航空宇宙産業クラスター形成特区に指定されている。
このように、さまざまな産業が中央道の開通によって発展してきた結果、3県の中央道沿道市町村の製造品出荷額は1966(昭和41)年から2020年の54年間で
「約14倍」
に増加した。
農水産物輸送量6倍増の理由
山梨県、長野県、岐阜県は農産物の生産が盛んで、特に山梨県と長野県は全国有数の農産物生産地域だ。具体的な生産状況は次のとおり。
・ぶどう:山梨県が全国1位、長野県が全国2位
・もも:山梨県が全国1位、長野県が全国3位
・りんご:長野県が全国2位
・レタス:長野県が全国1位
農産物は鮮度が重要なので、できるだけ早く消費地域に届けることが大切だ。中央道の開通によって、山梨県や長野県から消費の多い首都圏や中京圏へ迅速に輸送できるようになった。
この結果、1965年から2020年の55年間で、中央道沿道の3県の農水産物の県外向け自動車貨物輸送量が
「約6倍」
に増加した。特に果物と野菜は約4倍増加し、これにより山梨県と長野県では農産物の生産がさらに活発になった。
6割が首都圏から 車利用の実態
中央道の開通によって、首都圏や中京圏からのアクセスがよくなり、沿道の3県、山梨県、長野県、岐阜県の観光入込客数が大幅に増加した。これらの県はもともと魅力的な観光スポットが多く、中央道はそれらのスポットへのアクセスを支えている。
特に山梨県では、観光客の
「約6割」
が首都圏に住んでおり、主に中央道を利用して観光に訪れる。実際、山梨県で観光に使われる交通手段の約6割が車であるというデータもあり、中央道の重要性がここでも示されている。
例えば、東京駅から山梨県の中心地である甲府までは、首都高と中央道を利用して約2時間で到着できる。また、観光地として人気の河口湖へは約1時間30分で行けるため、日帰りでの観光が可能であり、これが観光促進に寄与しているといえる。
仕事とプライベートで年間約6万kmを走る私(都野塚也、ドライブライター)は山梨県出身で東京都に住んでおり、生まれてからずっと中央道沿道で生活してきた。物心がついた頃には中央道が全線開通していて、これまで何度も利用してきた。
老朽化と安全対策、急務のリニューアル
これまで、多くの人々の交通や生活を支えてきた中央道。1967(昭和42)年の初区間開通から2021年度末までの累計で、約38億台の車が利用してきた。しかし、2016年度から年間利用台数は年々減少傾向にある。ピーク時には、1日あたりの平均利用台数が約25万台を超えていたが、2020年度にはコロナ禍の影響もあり、
「約20万台」
まで減少した。
この減少の最大の理由は、圏央道や中部横断自動車道、東海環状自動車道などの他路線の開通によって、中央道と並走する東名や新東名高速道路と直接つながったことにより、中央道を利用していた人々が東名や新東名に流れたためだと考えられる。
今後も交通量の増加は見込まれない厳しい状況だが、高速道路ネットワークが発達した今だからこそ、他路線との相互関係を強化することで、中央道の存在意義がさらに高まるのではないか。実際、中央道を走行していると、神奈川県や静岡県など東名沿道のナンバープレートを見かける機会が増え、中央道が沿道以外の地域の人々にも利用されていることに期待と希望を感じている。
また、老朽化の問題も無視できない。中央道は全線開通から40年以上が経過し、道路や施設の老朽化が進んでいる。特に、2012(平成24)年12月には山梨県の笹子トンネル上り線で天井崩落事故が発生し、大きな衝撃を与えた。
今後、このような事故が起きないように、私たちが安全に高速道路を利用できるように、全国の高速道路でリニューアルプロジェクトが進められている。中央道でも、2018年からリニューアル工事が実施され、各区間で道路の補修や改善が行われている。2024年11月現在も、以下の区間でリニューアル工事が行われている。
・韮崎IC~須玉IC 上下線
・諏訪IC~岡谷JCT 下り線
・松川IC~中津川IC 上下線
・小牧東IC~土岐JCT 上り線
工事期間中は車線規制による渋滞が発生することもあるが、今後も安心して高速道路を利用するために必要な工事であることを理解しながら利用していきたい。
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