F150 EV ゲームチェンジャーになるか?
text:Kenji Momota(桃田健史)
【画像】ピックアップにもEV化の波?【フォードFシリーズとトヨタ・ハイラックスを比較】 全65枚
editor:Taro Ueno(上野太朗)
フォードF150のEVバージョンの2022年春発売が決定した。
フォードは、この歴史的な瞬間の準備として、特設サイトでティザー動画が流してきたが、そこには歴代F150がズラリと並び、その先にF150の新しい未来が待っていると、来たるべき新型車の登場を煽った。
ピックアップトラック王国のアメリカはもとより、グローバルに展開するさまざまなタイプのピックアップトラックオーナーが、その姿をいち早く見ようと、オンラインでのワールドプレミアを視聴した。
アンベールされたモデル名は、なんとF150ライトニングだった。
ライトニングといえば、1990年代から2000年代にかけて、F150のハイパワーなスポーティモデルとして君臨した。
筆者(桃田健史)もフォード本社主催の各種試乗会などで、全米各地のサーキットや市街地にて、当時のF150ライトニングを走らせたが、まさかあれから20年後に、ライトニングがピュアなEVに変身するとはまったく想像できなかった。
当時のライトニングは、スーパーチャージャーなどによるV型8気筒のパワーによる衝撃的な走りで、ライトニング(稲妻)のイメージとしていた。
それが、最新ライトニングは電動に直結するのだが、公開された内容を見ると、特長は強靭な電動パワーだけではなかった……。
「ピックアップはEVに向かない」を覆す
そもそも、ピックアップトラックとEVとの「相性は良くない」イメージがある。
いわゆるEVの三重苦といわれてきた、満充電での航続距離の短さ、充電時間の長さ、そして電池のコスト高による車両価格の高さが関係する。
ピックアップトラックの信条とは、タフネスである。
工事現場、農場、牧場などで荷台に高負荷をかけての作業、またキャンピングトレーラーなどをけん引するためのトーニング性能など、過酷な環境や走行条件での実務をこなす必要があり、どうみてもEVとの相性は良くないのだ。
そうしたネガティブなイメージの「ほとんど」を、F150ライトニングは払拭した。
今回発表された内容では、走行性能について最大出力のターゲットは581psで、加速性能は停止状態から時速60マイル(約96km/h)が4秒台半ばと、高性能スポーツカーやテスラのようなハイパフォーマンスをみせるという。
在りし日のライトニングを超えるスーパートラックである。
そのうえで、トーイング性能は1万ポンドを誇り、ガソリンモデル以上のタフな利活用が可能だ。
ただし、バッテリー容量について詳しい数値がなく、満充電での航続距離はベースモデルが230マイル(368km)でオプションで300マイル(480km)対応までバッテリーサイズを拡張できると発表するにとどめた。
車両価格 大型EVではリーズナブル?
タフネス以外には、防災のためのV2H(ビークル・トゥ・ホーム)を強調した。
30kWhで一般家庭へ3日間の電力供給を可能とする。
また、荷台の脇には交流用の出力用のプラグがあり、電動工具などが使えるというイメージ動画も公開された。
これまで、欧米のEVではこうしたクルマから外部への電力供給という発想の商品コンセプトが目立たなかっただけに、フォードの新たなる試みに興味を抱くアメリカ人は多いはずだ。
さて、F150ライトニングで最も気になるのは、車両価格である。
ベースモデルが3万9974ドル(1ドル109円換算で436万円)、また上級グレードのXLTの5万2974ドル(577万円)と大型EVとしてはリーズナブルな印象がある。
こうした値付けは明らかに、GMシボレーのシルバラードEVバージョンや、テスラのサイバートラックを意識したものだ。
EVの製造コストとして大きな比重を占めるのは、いまだに駆動用バッテリーであり、GMは韓国LG化学と共同開発したEVプラットフォーム「アルティウム」があるが、シルバラードEVでは既存の車体にバッテリーなど電動パーツを移植するケースが考えられる。
こうしたやり方を、日系メーカーでも今後、採用する可能性は否定できない。
その理由はF150がピックアップトラック市場のリーダー的存在だからだ。
トヨタのEVピックアップはあるのか?
Fシリーズは、いわずと知れた「アメリカで最も売れているクルマ」だ。
過去44年間連続でピックアップトラック販売No.1。近年、アメリカ市場の約7割が、ピックアップトラックとSUVによるライトトラック市場で、残り3割強が乗用車だ。
直近の2020年のFシリーズ全体の米国販売台数は78万7422台で、2位のGMシルバラード(58万6675台)を大きく引き離した。乗用車ではSUVシフトが進んでおり、トヨタRAV4が43万387台となっているが、Fシリーズはその2倍近い規模で売れている。
つまり、Fシリーズでの変化は、アメリカ自動車産業に大きな影響を与える。
ライバルのシルバラードEVも量産確定のため、これに続くはステランティスのラムとなり、さらにトヨタのタンドラ、そして日産のタイタンとフルサイズピックアップトラックのEV化が進むかもしれない。
その中でタンドラはフルモデルチェンジ時期が近く、ハイブリッドがラインナップされるとのうわさもある。
次は、北米向けを含めたグローバルでのミドサイズピックアップトラックへとEV化の波が押し寄せる可能性がある。
そうなれば当然、トヨタではハイラックスの電動化が視野に入る。
はたしてトヨタは、EVプラットフォーム「e-TNGA」を、世界戦略トラックIMVといかに連携させていくのか?
今後のトヨタの動きにも注目したい。
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みんなのコメント
日本のように、EVスタンド設置に関しても利権が絡むと設置しない形に成りやすい国とは違うだろうから。