良い意味でVWグループのクルマらしい
ブガッティのテストドライバー、アンディ・ウォレス氏がシロン・スーパースポーツの助手席に座った。筆者はステアリングホイール上のスタートボタンを親指で押す。お目覚めはそこまで過激ではない。
【画像】超絶スピード ブガッティ・シロン・スーパースポーツ ディーヴォとヴェイロンも 全108枚
排気量1.0L当たりの最高出力は、7000rpmで200psもあるハイチューン。8.0L W16気筒クワッドターボ・エンジンは、タダモノではない唸りを放つ。ただし、低回転域でのレスポンスを改善させるため、4000rpm以下ではツインターボで回る。
4気筒が4列並ぶ、W16気筒という独特なシリンダーレイアウトの回転フィールは、V型12気筒のようにシルキーではない。しかし大排気量だから、ボートや戦車のエンジンのように、サウンドのボリュームは大きい。
感心するのが、良い意味でフォルクスワーゲン・グループのクルマらしいこと。トランスミッションは7速デュアルクラッチのオートマティックで、いとも簡単に発進できる。
電動パワーステアリングが備わるステアリングホイールの重み付けは、軽すぎず重すぎず、丁度いい。ロックトゥロックは2.2回転とクイックだが、直進性が良く安定していて、切り込んだ時の応答性も良好。絶妙なブレンドだ。
乗り心地は適度に硬め。ロードノイズは大きいが、強固なカーボンファイバー製タブシャシーを備えるモデルとしては、一般的なものでもある。高級な内装素材が、適度に吸収してくれている。
姿勢制御は秀抜 言葉にばらないほど速い
ドライブモードは複数用意されているが、エンジンやトランスミッションの振る舞いは、基本的に変わらない。ステアリングホイールの感触にも違いは生じない。
どこが変わるのかというと、リアウイングの高さと角度。フロントのディフレクターも同調し、空力特性が変化する。車高が落ち、サスペンションの硬さも引き締まる。
ただし、乗り心地に明らかな差はなく、気付かないドライバーもいるだろう。ノーズリフトを機能させた時の方が、違いは大きい。
走行スピードに関わらず、姿勢制御は秀抜。僅かなボディロールも示す。コーナリングスピードが高まるほど、ステアリングホイールの重みも増す。ドライバーに、攻め込んでいけるという安心感を与えてくれる。
手のひらに伝わるフィードバックも、相当に豊か。フロントタイヤにもトルクが掛かる四輪駆動としては、珍しいといえる。全幅は2038mmもある。車重も1995kgある。それでも、スポーツカーとして運転が楽しい。
タイヤの温度がドライで25度、ウェットで35度を超えると、最大のトラクションが得られることをダッシュボードの表示が教えてくれる。フルスロットルを受け付け、本気の加速力を解き放てる。
若干緩やかにカーブしたウェット状態の道で、2速からアクセルペダルを目一杯踏み込む。ウォレスの提案だ。猛烈にダッシュし、トラクションコントロールが介入し、一瞬の振動が伝わる。すぐにトラクションが回復した。
言葉にならないほど速い。気持ち悪くなるほど。
482.8km/hを現実的に達成させた偉業
静止状態からの加速は、ポルシェ・タイカン・ターボSと同等。しかし、それ以降も鋭い加速が続く。エンジンノイズは怒り狂ったようにアグレッシブで、7000rpmを僅かに超えた途端に7速ATがシフトアップ。再び、怒涛の加速が再現される。
その変速と加速が、テストコース上で何度も繰り返される。極めて短い時間に。
ブレーキングにも息を呑む。アクセルペダルを緩めるだけで、リアウイングがエアブレーキに切り替わる。それだけで、超高速域では0.6Gの減速力が得られるという。筆者が体験した程度の速度域でも、後ろから大きな手で掴まれたようにスピードが落ちた。
ブレーキペダルを踏み込むと、重心がフロントへ移動。カーボンセラミックのディスクが運動エネルギーを熱に変換しつつ、並外れた安定性のまま、速度が絞られる。
他に例がないほどの熱と音、力、気流。シロン・ハイパースポーツを定義するワードだ。深くアクセルペダルを踏まずとも、実感できる。概念を超越したようなクルマだと思う。
その印象を一層深くするのが、先にも触れた親しみやすさ。ステアリングホイールやペダルは適度に軽く、日常的な流れの交通に合わせた走行も、何の問題もない。
ブガッティ・シロン・ハイパースポーツ最大の偉業は、リミッターカットで482.8km/hの最高速度を叩き出せることだけではない。普段のハッチバックを運転するのと大きく違わない難しさで、桁破りのスピードを実現させたことにあるのだ。
ブガッティ・シロン・ハイパースポーツ(欧州仕様)のスペック
英国価格:275万ポンド(約4億4000万円)
全長:4794mm
全幅:2038mm
全高:1212mm
最高速度:439km/h(リミッター)
0-97km/h加速:2.4秒
燃費:4.7km/L
CO2排出量:487g/km
乾燥重量:1995kg
パワートレイン:W型16気筒7993ccクワッド・ターボチャージャー
使用燃料:ガソリン
最高出力:1600ps/7000rpm
最大トルク:162.8kg-m/2250-7000rpm
ギアボックス:7速デュアルクラッチ・オートマティック
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