2021年のNTTインディカー・シリーズの最終戦ロングビーチ。決勝は曇り空の下での開催となった。気温は摂氏20度にまでしか上がらなかった。
全長1.968マイルのストリートコースを85周して争われたレースは、14番グリッドからスタートしたコルトン・ハータ(アンドレッティ・オートスポート・ウィズ・カーブ・アガジェニアン)が優勝を飾った。
中団グリッドからの優勝は、フルコースコーションやピットタイミングなどの幸運を味方につけたからではなく、1周目のアクシデントで被害を被ったマシン以外はすべて、ハータが真っ向勝負を行って1台ずつパスして行くことで達成された。
金曜のプラクティス1、土曜のプラクティス2で最速だったハータは、予選のセグメント1でまだブラックタイヤでの走行中に壁にヒット。サスペンションを曲げてしまい、セグメント2に進むことができなかった。
グリッドは7列目アウト側の14番手と決まった。優勝争いを行うには厳しいスタート位置だと通常なら考えるところだが、ハータは違っていた。
「(セグメント1でしか予選を戦わなかったので)新品のレッドタイヤを決勝で2セット使えるから、レースはおもしろいものになりそうだ」と自信ありげに話していたのだ。
予選のセグメント2に進んだドライバーたち、つまりはポールポジションから12番グリッドからスタートするドライバーたちにいは新品のレッドは1セットしかなく、グリッドが13番手以降のドライバーたちには2セットある。
その差をどこまで大きなアドバンテージに変えられるか。そこが勝負だった。ハータ陣営はスタートに新品レッドを選び、セカンドスティントにも惜しみなくレッドを投入した。上位陣はユーズドのレッドでスタートし、最終スティントにレッドをとっておく作戦を採用するのがセオリーだ。
1周目のアクシデントをクリアしたハータは、そこでスピンに陥った、あるいはダメージを負ったパト・オーワード(アロウ・マクラーレンSP)、ライアン・ハンター-レイ(アンドレッティ・オートスポート)、ウィル・パワー(チーム・ペンスキー)の3人と、スコット・マクラフラン(チーム・ペンスキー)をパスし、10番手で2周目を迎えた。
その後も2周目にエド・ジョーンズ(デイル・コイン・レーシング・ウィズ・ヴァッサー・サリヴァン)をパスし、リスタート後には6周目にアレックス・パロウ(チップ・ガナッシ・レーシング)、8周目にはジェイムズ・ヒンチクリフ(アンドレッティ・スタインブレナー・オートスポート)、10周目にはシモン・パジェノー(チーム・ペンスキー)と次々パスを実現し、6番手を走行。
2回目のイエロー前にピットに入って一旦順位を下げたが、ピットタイミングの異なる面々がピットに姿を消すと上位に復活。31周目にはスコット・ディクソン(チップ・ガナッシ・レーシング)、32周目にはポール・シッターだったジョセフ・ニューガーデンチーム・ペンスキー)と、錚々たるメンバーをハータはパスして順位を上げていった。
32周目にハータは3番手に浮上。この時点で彼より前を走っていたふたりは、ピットインしないで走り続けていたエリオ・カストロネべス(メイヤー・シャンク・レーシング)と、ピット・タイミングをずらす作戦を使っていたグラハム・レイホール(レイホール・レターマン・ラニガン・レーシング)だった。そして、彼がピットロードに消えた34周目、ついにハータはトップに躍り出た。
2回目のピットストップでブラックタイヤを装着したハータだが、残してあったレッドの新品を装着して逆転を狙ってきたライバルたちを寄せ付けなかった。周回が重ねられてタイヤラバーの乗った路面では、ブラックタイヤのパフォーマンスも決してレッドに劣るものとはなっていなかったようで、リスタートでもレッドタイヤ勢に接近を許さなかった。
彼のチームの読みが見事に当たった。しかし、それ以上に素晴らしかったのは、レッド2セットで一気にトップまで上り詰めたハータのドライビングだった。
ゴールまで20周でリスタート。ここでハータはニューガーデンにすぐさま1秒の差をつけたが、残り5周となってからふたりの差が縮まり始めた。しかし、それはニューガーデンが最後の力を振り絞って差を詰めて行ったのではなく、ハータがペースを調整していたからのようだった。
ゴール前2周で差は再び広がり、ハータは最終ラップのメインストレートに出るとステアリングを左右に切って喜びを表しながらも0.5883秒の差をもって今シーズン3勝目のチェッカードフラッグを受けた。
これで優勝数はパロウと並び、シーズン最多タイとなった。そして、ラグナセカからの2連勝。それも地元カリフォルニアでのレー2戦を続けて制し、5位へとランキングをひとつ上げてシーズンを終えた。
2位はニューガーデン、3位はとうとう最後までニューガーデンを攻略できなかったディクソンのものとなった。
そして、4位でゴールしたのがスペイン出身のパロウだった。24歳という若さで、彼は2021年のインディカー・チャンピオンとなった。もちろん、彼にとっての初タイトルだ。インディカー・シリーズ参戦2年目でのタイトル獲得は快挙と言える。
ランキング2位のオーワードに35点の差をつけて最終戦を迎えたパロウは、13位以上でゴールすればチャンピオンという状況下、あと一歩で表彰台という4位でフィニッシュしてみせた。
「通常だと僕らはスターティンググリッドより順位を上げてゴールする」という予選後のコメントの通りのパフォーマンスを、チャンピオン争いのプレッシャーがかかったレースでも見せたのだからさすがだ。
スペイン人ドライバー初のインディーカーチャンピオンは、2003年のディクソン以来となる25歳以下のチャンピオン誕生ともなった。パロウはインディカー史上で7番目に若いチャンピオンになった。
チップ・ガナッシ・レーシングは14回目のシリーズタイトル獲得を達成した。しかも、昨年のディクソンに続く2年連続のチャンピオンシップでもある。
2021年のルーキーオブザイヤーはマクロクリン。オーバル3戦に出場しなかったロマン・グロージャン(デイル・コイン・レーシング・ウィズRWR)が差を詰めてきていたが、マクラフランが最終戦で11位フィニッシュ。グロージャンはトラブルもあって24位に沈み、マクラフランが新人王となった。チーム・ペンスキーのドライバーが同賞を獲得するのは史上初めてだ。
佐藤琢磨(レイホール・レターマン・ラニガン・レーシング)は予選16番手から9位まで大きくポジションアップしてゴールした。彼はランキング11位でアメリカでの12シーズン目を終えた。
「ダウンフォースを削るセッティングにして、レースでは何台かをパスできました。2回目のイエローまでは良い展開で、自分たちは上位で2回目のピットストップを行えると考えていましたが、そううまくはいきませんでした」
「それでも、シーズン終盤戦にロードコースのマシンセッティングも向上してきて、戦えるようになってきていました。今日の9位フィニッシュは、満足のできるものではないけれど、クルーたちのピットの作業スピードも今回はとても速かったし、自分たちの全力を発揮したことで得られた結果だと思います」と琢磨は語った。
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