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【第108回インディ500プレビュー】有力はチップ・ガナッシのふたり。牙を削がれた昨年覇者と、琢磨勝利のカギ

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【第108回インディ500プレビュー】有力はチップ・ガナッシのふたり。牙を削がれた昨年覇者と、琢磨勝利のカギ

 2024年シーズンは早くも4大会を終え、いよいよインディ500の季節を迎えた。今年も行われるインディアナポリス500マイルレース(通称インディ500)は、モナコGPとル・マン24時間レースに並ぶ世界3大レースのひとつで、今年で108回目の開催となる。

 第108回インディ500の優勝候補筆頭にはアレックス・パロウ(チップ・ガナッシ・レーシング)を挙げよう。11日(土)にインディアナポリス・モーター・スピードウェイのロードコースで行われた第4戦ソンシオ・グランプリにて、ポールポジションから優勝した彼にはかつてない勢いが備わっている。

ロードコースは譲らない。王者アレックス・パロウが圧巻のポール・トゥ・ウイン/インディカー第4戦

 ここ数年を振り返っても、パロウのインディ500での強さには素晴らしいものがある。デイル・コイン・レーシング・ウィズ・ゴウで初挑戦となった2020年には、いきなり予選7番手に食い込み、2021年にはエリオ・カストロネベスと優勝争いを繰り広げ、2度目の参戦にして2位フィニッシュとなった。

 翌2022年にはチップ・ガナッシ・レーシングの一員となって参戦したが、最悪のタイミングでフル・コース・コーションが出され、イエロー中の給油を避けられなくなって大幅後退。そして去年、パロウはまたしてもトップ争いを行っていたが、ピットロードでスピンしたリナス・ヴィーケイ(エド・カーペンター・レーシング)にぶつけられ、マシンにダメージを負って勝機を逃した。

 パロウのこれまでの走りを見れば、彼のインディ500での速さはもう証明済み。そのうえ、彼は2021年に初めてシリーズ・チャンピオンとなり、昨2023年には二度目の王座に輝いている。インディ500のポールポジション獲得も昨年達成しており、残る栄冠はインディ500のみ、と言い得るほどの活躍だ。

 そして、2024年シーズンをすでにリードしているパロウとなれば、3年前のように終盤の土壇場で勝負どころを見誤ることもないだろう。不運にさえ見舞われなければ、バロセロナ出身の27歳はアメリカ伝統のレースで順当な勝利を収める可能性が高いと言える。

■最大の脅威となるのはチームメイトか

 パロウにとってもっとも手強いライバルは、彼の先輩チームメイトのスコット・ディクソンだろう。これまでに6度もチャンピオンとなり、A.J.フォイトに次ぐ歴代2番目にランクされるキャリア57勝を誇るドライバーだ。

 意外なことに、彼はインディ500では2008年の1度しか勝つことができていない。それでも、彼が最速、最強の存在だった回数はパロウよりもはるかに多く、ポールポジションの獲得回数はリック・メアーズに次ぐ歴代2位の5回を数える。

 それでもなお、ピットでのミスや他車のアクシデントに巻き込まれる不運、自らのピットロードでのスピード違反……などなどが重なり、いまだに2勝目の実現には至っていない。

 インディアナポリス・モーター・スピードウェイにおけるディクソンのスピードは、予選でもレースでも、いまだにパロウ以上か、ほぼ同等のものがある。こちらも不運さえ避けることができれば、熱望し続けているインディ500での2勝目が可能だろう。

 チップ・ガナッシ・レーシングのふたりが優勝争い……とはならない可能性があるとしたら、それはシボレーエンジンが大幅にパフォーマンスをアップをし、ホンダ勢に優勝を争う戦闘力がなくなっている場合だ。昨年まではホンダエンジンがパワー、ドライバビリティともにシボレーエンジンを凌駕していたと映っていたが、そこが今年は変わっている可能性も考えられるのだ。

■牙を削がれたオーバル最強のニューガーデンの顛末やいかに

 そうなった場合、パロウとディクソンに立ち向かうのは誰なのか。その筆頭にくるのは、昨年のウイナーであり、2023年にはオーバルレースで無類の強さを誇ったジョセフ・ニューガーデン(チーム・ペンスキー)のはずだった。

 今年も彼はインディ500で強いだろう。4月中に行われた合同テストで最速ラップをマークした彼にはそうした評価がなされていた。しかし、今年もニューガーデンが勝つ可能性は急速に萎んでいる。

 ニューガーデンは、開幕戦セント・ピーターズバーグでの重大な違反によって優勝が取り消され、その違反行為を重く見たロジャー・ペンスキーがニューガーデン担当の重要スタッフをインディアナポリス・モーター・スピードウェイでのロードレース、インディ500の2戦で出場禁止にした。

 痛いのは作戦担当のティム・シンドリック(チーム・ペンスキー社長)、ニューガーデン担当エンジニアのルーク・メイソンというふたりを失うこと。シンドリックの代役にはペンスキーでキャリアを重ねているジョン・ブースログがあてがわれ、ダメージは最小限に抑えられたと思われる。

 しかしエンジニア交代は手痛く、第4戦ソンシオ・グランプリでのニューガーデンは思いのほか低いパフォーマンスしか見せることができなかった。インディ500では、それ以上に苦戦をしたとしても不思議はない。ニューガーデンが優勝を争う可能性はかなり低くなっている。

■チーム・ペンスキーでの最有力はウィル・パワーか

 ペンスキーでなら、パワーの方が優勝の可能性は高いように見えている。第4戦ソンシオ・グランプリでは2位表彰台フィニッシュを飾り、ポイントでもパロウに次ぐ2位につける彼は、インディ500を前に勢いを掴むことに成功したと言える。

 そうは言うものの、ここ数年のインディ500でもっともスピードを見せているのはガナッシ勢だ。それは誰の目にも明らか。今年のペンスキー勢、そしてシボレー軍団は戦闘力を高めるためには、前述の通りにシボレーエンジンのパワーアップが不可欠だ。一昨年はホンダエンジンが優位にあり、去年その差が大幅に縮まった。そのトレンドは今年も続くだろうか。

 ペンスキーで走るパワーはシーズン開幕時から”シボレーエンジンが性能を上げている”というコメントを繰り返し口にしてきている。インディ500でのパフォーマンスアップが期待できる状況であると、彼の目には映っているらしい。大会のなかでも、本当の実力が見えてくるのは予選前あたりだろう。ファストフライデイにシボレー勢がどんな走りを見せるのか、目が離せない。

■2強に迫るは3チーム。NASCAR王者は環境不充分?

 チップ・ガナッシ・レーシング、チーム・ペンスキーという2強の次に勝利に近いのは、アロウ・マクラーレン、エド・カーペンター・レーシング、そして、アンドレッティ・グローバルだろうか。

 マクラーレンは、インディ500もチャンピオンシップも勝てずにいる間に、パフォーマンスが徐々に下降線を辿り始めているようだ。エースのパト・オワードだけは2020年から4年連続で優勝争いに絡んでいるが、それでも最後の最後で決定力を発揮できていない。

 昨年の彼は、インディ500以外のレースでも勝利を挙げることができなかった。インディ500優勝への接近度合いは、年を追う毎に下がっている印象だ。そして、アンドレッティ時代にインディ500で1勝を挙げているアレクサンダー・ロッシも、鋭い走りの印象こそ強いが、レースを通しての安定感という部分でガナッシ勢に対抗できていない。こんな状況で、NASCARチャンピオンのカイル・ラーソンはインディ500を戦うことになるが、それは注目は集めるけれどもチームとしてのパフォーマンスは上がらないのではないだろうかと、心配の声も聞こえてきている。

 マクラーレンなら、アンドレッティ・グローバルの方が“打倒ガナッシ&ペンスキー”の可能性は高いのではないだろうか。今年は2年前に優勝しているマーカス・エリクソンがガナッシから加入し、チップ・ガナッシ・レーシングの速さの秘密がアンドレッティ陣営に流入する。

 インディ500ではマルコ・アンドレッティもエントリーを行うので、彼らは4台体制となり、さらに技術提携をしているメイヤー・シャンク・レーシングもインディ500は3台体制だ。メイヤー・シャンク・レーシングで乗るエリオ・カストロネベスは、史上最多の5勝目を飾る可能性を秘めており、今季から新加入のフェリックス・ローゼンクヴィストもダークホースの一人に勘定すべきだろう。

 エド・カーペンター・レーシングも、インディ500では毎年速く、とくに予選での実績には文句のつけようがない。リナス・ヴィーケイとエド・カーペンターは、優勝しても不思議ではないスピードを備えている。彼らの課題は、インディ500というビッグレースで200周を通しての安定感、終盤戦での決定力だろうか。

 今年からチーム・ペンスキーと技術提携したA.J.フォイト・エンタープライゼスも忘れてはならない。とくに目を見張るべきは、14号車を駆るサンティノ・フェルッチだ。彼はこれまでにもインディ500で目覚ましい活躍を何度も見せてきているが、昨年は予選で4番手に食い込み、レースは3位フィニッシュという見事な結果を残した。A.J.フォイトのマシンでアメリカ人ドライバーが優勝争い、これはアメリカのファンをおおいに沸かせるだろう。

■レイホール・レターマン復帰の佐藤琢磨は3度目の栄冠なるか

 今年もっとも注目されるダークホースは、レイホール・レターマン・ラニガン・レーシング、そして佐藤琢磨だろう。

 2023年は、スーパースピードウェイ用のマシンが覇気に欠け、グラハム・レイホールがまさかの予選落ち。その他のドライバーたちクリスチャン・ルンガー、ジャック・ハーベイ、キャサリン・レッグはほぼ最後尾にしかグリッドを得られなかった。

 そんな苦境のなか、インディ500で2勝をあげてきた琢磨が復帰することで、チームがオーバルでの戦闘力を取り戻すことができるかどうかが勝利のカギになってくる。

 琢磨がチームに期待しているのは、インディ500予選落ちの悔しさをバネにした躍進。2023年シーズン後半戦でのレイホール・レターマン・ラニガン・レーシングは、常設ロードコースにてポールポジションを連続で獲得するなど、確かな速さを見せつけた。

 琢磨にとっては、同チームで勝利を挙げた実績と経験からくる自信はもちろん、チームにはハイスピードオーバルでのスピードもアップさせるポテンシャルがある、と見ているのだ。

 公式プラクティスは予選前の14日(火)、日本時間で15日(水)にスタートする。17日(金)には予選用のハイブーストでの走行が始まり、続く土日が予選だ。

 そのため、レースに向けたマシン・セッティングができるのは14から16日までの実質3日間しかない。そのうちの1日が雨になる心配もなされており、どの部分のファインチューニングに焦点を当てるか、限られた時間を有効に使ってマシンを仕上げる能力がチームにもドライバーにも問われる戦いとなる。

 今年のエントリーは34台。シリーズレギュラーのチームも、それぞれ追加でエントリーを行っている。スポット参戦をするのはドレイヤー&レインボールド・レーシングで、彼らのドライバーはライアン・ハンター-レイとコナー・デイリーだ。

 決勝に出場できるのはこれら34台のうちの33台だけ。つまり、1台は予選落ちを喫するということだ。レースに進めないのは1台だけ……という、ある意味残酷な状況となっている。

 いよいよ迎えるシーズンハイライトの一戦は、現地時間14日(火)の9時(日本時間14日(火)22時より走行を開始、決勝レースは26日(日)11時(日本時間で27日(月)0時)にスタートが切られる予定だ。

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