新車時以上の値段が付き始めている
text:John Evans(ジョン・エバンス)
translation:KENJI Nakajima(中嶋健治)
読者が、2011年に1シリーズMクーペを新車で購入できた450名のうちの1人なら、賛辞を贈りたい。整備状態が良く、走行距離が程々なら、減価償却が1円も発生していない可能性がある。
英国の中古車市場には、25台ほどの1シリーズMクーペが流通しているようだが、その内の20台は4万ポンド(540万円)以上の値段が付いていた。中には6万ポンド(810万円)を超えるクルマもあった。
英国で4万ポンド(540万円)以上の値段で売られている中古車の走行距離は、すべて6万4000km未満。最も高価なクルマは、1万6000kmを切っていた。
今のオーナーは、このくらいの値段で手放せるということ。ただ、目の肥えたうるさいバイヤーもいるから、必ずしも希望通りの値が付くわけではないけれど。
1シリーズMクーペは、英国では盗難被害も少なくなかった。初期の一部のクルマでは、OBDのプログラミングを利用した盗難方法が問題となっていた。仮に戻ってきても、修理費も恐ろしく高額だった。
だが、1シリーズMクーペの素晴らしい思い出に満たされているオーナーも多いだろう。
登場したのは2011年で、価格は3万9990ポンド(539万円)。販売されたのは450台だったが、ショールームに並ぶ前に70%近いクルマは売れていたらしい。
多くの1シリーズMクーペは2011年式となるが、まれに2012年式も含まれている。年式によって価格に違いはないようだ。
英国ではオレンジ色が人気
通常の1シリーズ・クーペと差別化を図るため、幅広いトレッドと大きく膨らんだフェンダーが最大の特徴。専用設定の19インチ・アルミホイールが、足元を彩る。低くかがんだ姿は、チューニングカーのようにも見える。
搭載するエンジンは、ツインターボ付きの3.0L直列6気筒エンジンで、最高出力339ps。専用開発されたストロークの短い6速MTと組み合わされ、後輪を駆動する。
ステアリングホイールに付けられたMボタンを押すと、オーバーブースト機能が有効となり、最大トルクは一時的に5.1kg-mアップ。最大トルクは1500rpmから4500rpmという広い回転域で得られ、50.9kg-mと見た目に違わずたくましい。
リミテッド・スリップデフと、ドライバーが介入ポイントを調整できるDSCスタビリティ・コントロールが標準装備。デュアルゾーン・エアコンに、オレンジのステッチが入ったアルカンターラとレザーの内装が付いてくる。
オプションとして、ハーマン・カードン製サウンドシステムやナビ、アダプティブ・ヘッドライト、ハイビームアシストなどが選べた。どれも現在の1シリーズMクーペの価格には、大きな影響は与えないものだ。
英国では、価格が高めに付いているのが、バレンシアオレンジのボディカラー。人気色となっている。ほかに新車時は、ブラックサファイアとアルピンホワイトの2色が選べた。ただし、ボディカラーより、走行距離や状態の方が価格を左右する。
中には値頃感のあるクルマもなくはない。BMWでの整備記録がしっかり残り、6万9200kmの距離で、3万4000ポンド(459万円)というクルマが英国では見つかった。
悪くない1シリーズMクーペを見つけたのなら、動きは早い方が良い。きっと一見の価値はある。
不具合を起こしやすいポイント
エンジン
冷えた状態のスタートでアイドリングが不安定なら、インジェクターの不良。エンジンを2500rpmまで一度回し、アクセルペダルを戻して、ターボ・ウエストゲート・バルブの異音を聞く。修理には2000ポンド(27万円)の費用がかかる。
燃料ポンプや窒素酸化物センサーの不具合にも注意。キーに保存されている、整備履歴も確認しておきたい。
ドライブトレイン
試乗をして、プロペラシャフトのベアリングが振動していないか確かめる。かなり大きな振動が出る。低速コーナリングで、LSDからの異音がないか確かめる。
トランスミッション
クラッチやシンクロメッシュの状態を、試乗で確かめたい。デュアルマス・フライホイールの交換は、1200ポンド(16万円)を超える。
サスペンションとステアリング、タイヤ
リアのサスペンション・スプリングが壊れていないか確かめる。ブレーキディスクの摩耗状態も確認する。ブレーキにジャダーが生じる場合、サーキット走行を前オーナーが楽しんでいた可能性がある。
タイヤ4本が、同じプレミアムブランドが望ましい。片減りしていないかも調べる。
ボディ
サビが生じる原因は、事故の修復によることが多い。ボディパネルの隙間にムラがないか、再塗装した部分がないかも観察する。トランク内のカーペットを剥がし、事故の修復痕や再塗装の跡も確かめたい。
インテリア
運転席のサイドサポートは摩耗しやすい。エアコンのヒーターも動くかを確かめる。
iドライブの機能もすべて正常か確認する。故障するとフリーズし、修理の費用は安く済まない。
フロアのカーペットが湿っていないかも確かめる。排水口がふさがり水が車内に入ると、電子機器が濡れて故障してしまう。
専門家の意見を聞いてみる
ジャック・デイ サザーランドMパワー・カー代表
「とても珍しく、素晴らしいドライビングが味わえるクルマです。Mのエンブレムも付き、価値がありますし人気も高いですね。価格は急速に上昇中です」
「ただし、市場の値動きは少々気まぐれ。1台は1晩で売れましたが、もう1台は4カ月ほど売れずにありました。コレクターは価値に気付きはじめ、状態の良いクルマに高いに値段を払っています。最高の条件は、オレンジ色で改造されていないノーマルのクルマ」
「1シリーズMクーペを購入する場合、サーキット走行の有無に気をつけたいですね。またプレミアム銘柄でないタイヤの場合、オーナーの財力が限定的だったことも示しています」
知っておくべきこと
取材した中古車ディーラーによれば、1シリーズMクーペを最良の状態に保つには、2000km毎のメンテナンスが必要だと話していた。細かなメンテナンスが施されていないクルマは、購入しないとすら話す人もいた。
いくら払うべき?
3万4000ポンド(459万円)~3万5499ポンド(479万円)
安価な1シリーズMクーペでもこのくらいはする。英国では10万kmを超えたクルマがほとんど。整備状態や履歴もしっかりしている場合が多い。色は白か黒。
3万5500ポンド(480万円)~3万7999ポンド(514万円)
走行距離が8万km以下のクルマ。
3万8000ポンド(515万円)~3万9999ポンド(539万円)
中心となる価格帯。BMWの正規中古車も含まれる。
4万ポンド(540万円)~4万4999ポンド(606万円)
英国ではバレンシアオレンジのクルマが多くなる。走行距離は3万6000km前後。
4万5000ポンド(607万円)~6万ポンド(810万円)
走行距離が短く、過去オーナーの数も少ないクルマ。晴れた日にしか走行していない、8000kmの走行距離の極上車が、5万5000ポンド(742万円)で見つかった。
英国で掘り出し物を発見
BMW 1シリーズMクーペ 登録:2011年 走行:6万4300km 価格:3万9980ポンド(539万円)
同等の状態のクルマより4500ポンド(60万円)ほど高いが、BMWの正規中古車で、整備も保証も安心できる。人気のバレンシアオレンジだ。
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