総資産6兆円以上 リスクは恐れない
英マンチェスターの公営住宅で育ち、自力で身を立てたジム・ラトクリフ氏を見ていると、「マナーを守れ」というのは予想外のマントラであるかもしれない。
【画像】クルマ好きが本気で作ったオフロード4WD【イネオス・グレナディアを写真でじっくり見る】 全36枚
化学大手イネオスの社員は全員、元気な挨拶で彼を迎えるようアドバイスされ、上級管理職は業績について残酷なほど正直であることが求められている。彼の会社の組織は無駄がなく、人事も同様だ。威張ったり、でたらめを言ったりする人は応募しなくていい。気概、厳格さ、そしてユーモア、これが彼の提示する条件だ。
ラトクリフ氏は70歳にして英国一の富豪であり、その資産額は400億ポンド(約6兆6800億円)と推定される。しかし、その地味なルーツと、比較的遅い時期に大成功を収めたという事実(46歳でイネオスを設立)から、彼がしっかり地に足を着けた人物であることがわかる。
「失敗は怖くない」と彼は笑う。
どう考えても、彼は計算されたリスクを取るのが好きな人間だ。イネオスの最初の買収は、高利回り債権に支えられたもので、ICIやBPのような企業から投げ出された事業であった。大型SUVのグレナディアの発売も、その例に漏れず、すでに10億ポンド以上が費やされ、1台目の納車が始まるまでに少なくともその3倍の資金が投入されているはずだ。
「銀行の残高を見て、どうしろと言うんだい?」
驚くほどエネルギッシュな70歳
なぜ本業だけでなく、自動車をはじめF1、サイクリング、セーリング、サッカーなど多くの事業を手がけるのかと尋ねると、彼は苦笑いを浮かべながら言った。「楽しいからやっているんだよ」
スローダウン? なぜ? 定年退職? 彼はニコニコと笑う。後継者計画? 必要ない。少なくとも20年は生きられる。スキー、釣り、オートバイ、クルマやボートで荒野を横断する奇想天外な冒険が大好きな彼に、生命保険はどうだろう?
「勧誘しても無駄だよ。わたしはやりたいことをやめないから、保険には入れてもらえないだろうね」
今年は、イネオス・グレナディア、1920年代のベントレー、1952年式のランドローバーで、仲間と一緒にモンゴルから北京まで、約2900kmを走破したいそうだ。
彼の自動車コレクションを見せてもらった。1996年のミハエル・シューマッハのフェラーリ、250 GTカリフォルニア・スパイダー、275 GTB、ル・マンのマクラーレンF1 GTR、そして1920年代のベントレーをはじめとする「古いものがいくつか」ある。
「もっといい投資先があるのでは」と筆者は微笑む。すると、彼はこう反論した。「気に入ったから買ったんだ。好きものだから、売ることもない。投資ではないんだ」
もちろん、これらはほんの一面に過ぎないが、彼の人物像がよくわかるし、彼がイネオス・オートモーティブに資金を提供するだけでなく、それを定義していることを強調している。成功は確実ではないし、失敗もあり得る。しかし、そのすべてが彼自身の、驚くべきエネルギーで進められていることに疑いの余地はない。
無骨なSUV「グレナディア」はなぜ生まれた?
ジム・ラトクリフ氏は、なぜ自動車会社を設立したのか? きっかけは、とあるパブでのさりげない会話だったという。その道のりを辿っていきたい。
――パブでの有名な会話から今日に至るまでの道のりを教えてください。
「話はパブの前から始まっています。ランドローバー・ディフェンダーでサファリに行き、あちこちを飛び回っていました。英国への帰りの飛行機が遅れたので、よく知っているガイドとカレーを食べに行ったんです。彼らは600台のディフェンダー(先代)を運用しているのですが、もう作られないと聞いて『どうすりゃいいんだ』と嘆いていました。なぜランドクルーザーを買わないのかと尋ねると、『お客さんがあまりにも跳ね回るから』と言う。そのときひらめいたんです。あなたはこう尋ねるとでしょう。『今の状況を知って、2016年と同じ決断をするか?』と。答えはイエスです」
「その後、わたし達は何年にもわたってプロジェクトを評価し、継続するに足るかどうかを自問してきました。その答えは、いつも『イエス』でした。クルマはいいし、市場にはそれを売るための明確な穴がある」
「もちろん、世界情勢は決して楽観視できるものではなく、予想以上に時間がかかりました。パンデミック、ウクライナ、中国のロックダウンなどは、あらゆる意味でコストがかかります。財務的には、10億ユーロ(約1480億円)の費用がかかると考えていましたが、15億ユーロ(約2220億円)もかかりました」
――イネオスがブランドなのでしょうか、それともグレナディア?
「当初は、自動車会社をグレナディアと呼ぼうと思っていました。しかし、イネオスは今や世界中のあらゆるスポーツ活動で知られているので、ブランドをイネオス、クルマをグレナディアと呼ぶことにしたのです。クルマを買うということは大きな決断であり、そのクルマを作った人たちがきちんとした評価を受けていることを知っておかなければなりません」
「(クルマのネーミングは)数字ではなく、名前で締めくくることになると思います。好きなパブの名前にするか、軍隊の旅団にするか、それはわからない! でも、次のクルマにはとても気の利いた名前がつけられると思いますが、それはお伝えしません。わたし達が思いついたのはごく最近のことで、使えるかどうか確認する必要がありますが、誰かが提案したときには決定的な瞬間のように感じました」
メルセデス・ベンツやBMWとの関係性
――あなたはメルセデスAMG F1チームの共同所有者であり、メルセデス・ベンツから工場を購入したわけですが、なぜBMWのエンジンを使うことになったのでしょうか?
「BMWとは本当に良い関係で、BMWと競合するわけでもないので、自然に思えたんです。BMWモトラッドのR 1200 GSは、オンロードでもオフロードでも素晴らしい走りを見せてくれるし、問題なくぶっ飛ばすことができる。わたし達がやろうとしていることと見事な対称性があるんです」
「小さなエンジンは嫌だ、というのが一番の動機でした。2.0Lではパワーが足りません。そこで、6気筒エンジンを持つ多くのメーカーに声をかけ、BMW、メルセデス、トヨタと話をしました。どれも素晴らしいエンジンであることは間違いないのですが、話をするうちにBMWとの関係が深まりました」
「その関係が決め手となったのでしょう。注文数や需要については具体的ではなかったので、プロジェクトに対するサポートが重要でした。もちろん、メルセデスも、ハンバッハの工場を購入するという契約で、大きな貢献をしてくれました」
――英国で作るつもりだったんですよね。ハンバッハ(フランス)の契約は、断るには惜しいものだったのでしょうか?
「基本的には、そうです。詳細は明かせませんが、オラ(メルセデス会長のケレニウス氏)とは友人であり、F1チームの共同経営者でもあります。よく話をする仲で、彼がアイデアを出してくれたんです。需要は縮小傾向にあり、(ハンバッハで生産していた)スマートは新たな方向性を打ち出していた。そして、最先端の工場と十分な訓練を受けた従業員を、お互いにメリットのある価格で提供してもらったんです」
世界の変化に乗り遅れるわけにはいかない
――メルセデスは、あなたの自動車業界への参入をどのように見ていますか?
「まず、メルセデスはGクラスの注文に事欠きません。作ったものはすべて売り、その多くは20万ユーロ(約3000万円)で販売されています。わたしも何台か持っていて、気に入っていますが、グレナディアとは違います。グレナディアは、まったく異なるスペースを占めているのです。事実、ルイス(・ハミルトン)とジョージ(・ラッセル)がグレナディアを運転することを許可されたことは、わたし達の間で競争するとは全く考えていない証拠です」
――それならば、ガソリンやディーゼルにこだわってもいいのでは?
「世界は変化しており、レイトアダプターになるわけにはいきません。技術はまだ発展途上で、それはリスクでもあるのですが、完全に成熟するまで待って市場に参入することはできません。それでは遅すぎるのです。わたし達は、2026年に何にでも勝るクルマを発売し、そこから市場の最先端で開発を続けられると信じています。航続距離400kmでロンドンからマンチェスターまで行ける。2026年には、そんな距離を走れるクルマができるはずです」
――なぜ、オーストリアのシェークル山を登れることが、グレナディアの特徴になったのでしょうか?
「正直なところ、すべてを制覇したと思っても、最後にシェークルがある。メルセデスがGクラスをシェークルに持っていくのはそのためです」
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