4戦を終えたNTTインディカー・シリーズ。2023年は4人のルーキードライバーが参戦している。
全17戦のうちの4戦を終えた時点でルーキー・ポイント(チャンピオンシップポイントと同じ)のトップに立っているのはマーカス・アームストロング(チップ・ガナッシ・レーシング)。
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ルーキーではあるが、ルーキー以外のライバルたちに対してでさえもマシンセッティング、マシンの準備、ピットストップでの作業を含めたクルーのクォリティでアドバンテージを持つ参戦体制だ。
ただし、今年の彼はストリートコースとロードコースのみへの出場。同じクルーが用意するマシンにオーバルでは佐藤琢磨が乗る。ライバル勢より5戦も少ない参戦でルーキー最多ポイント獲得は難しいだろうが、それはアームストロングにとっては良い意味でのモチベーションになるかもしれない。
2000年7月29日にニュージーランドのクライストチャーチで生まれたアームストロングは、レーシングカートで活躍すると15歳で渡欧し、2017年にイタリアF4チャンピオンに輝き、ADAC F4シリーズでもランキング2位つけた。
さらにFIA F3では2シーズンで4勝、4PP、表彰台16回という素晴らしい成績を残し、F2には3シーズンを3つのチームで戦って4勝……とF1出場に向けて着々とステップアップしていった。
しかし、F1チームに見初められるまでのパフォーマンスがなかったのか、タイミングがよくなかったのか、F1のシートを確保することはならず、今年からインディカーにチャレンジを始めた。
子供の頃からディクソンがインディカーで戦い、何度もチャンピオンになるのを故郷のニュージーランドで見ていたアームストロング。
「ずっとF1を追いかけていたが、インディカーにも随分と前から興味を持っていた。いま、自分にはもうF1の目は絶対にない……とは絶対に言わないし、現状に満足してもいる。インディカー参戦という夢がかなったのだから」と彼は話している。
まだ22歳。インディカーでの活躍次第でF1行きが叶う可能性も少しではあるが、残されている。
「今年はストリート&ロードコースのみの参戦で、それはルーキーである自分にとって悪くないことだも思う。しかし、来年以降も出場するならフルシーズンエントリーをしたい」とも彼は言っている。
インディカーで戦い続けることになったとしてもアームストロングに不満はないようだ。F1でチャンスを得るにしろ、インディカーで戦い続けるにしろ、彼がまずフォーカスすべきはインディカーで能力の高さを証明することだ。上位入賞を重ね、勝利に手を届かせれば自ずと道は開けるだろう。
「チップ・ガナッシ・レーシングではチームメイトたちが本当に多くの情報を提供してくれ、ルーキーである自分を助けてくれている。そのサポートはチーム参加前に自分が想像していたレベルを遥かに超えている」
「チームは実にオープンで、僕を歓迎してくれている。それをとても嬉しく感じている。自分としては、ルーキーイヤーから優勝を狙っていきたい。インディカーというマシンは動きがまったくもって自然なので、自分にとっては慣れていきやすい」
「F2と大きく異なるマシンではない。このシリーズの競争の激しさは理解しているつもりだし、テストもほとんどできない状況下でインディカーという自分にとって新しいマシンも、走ったことのないコースもマスターしなければならないが、私の後ろにはとてつもない力を備えたチームがついていて、何でも必要なことはチームから学ぶことができる」
シーズンが中盤戦を迎えた時、もし彼のルーキー・オブ・ザ・イヤー獲得の可能性が高い状況となっていたら、シーズン終盤のゲートウェイで急遽オーバル戦に初参戦……なんてことも起こるかもしれない。
開幕4戦でのアームストロングは、セント・ピーターズバーグが予選13番手から決勝11位(どちらもルーキー最上位)。テキサスは出場せず。ロングビーチは予選12番手から決勝で初トップ10入りする8位(2回目の予選・決勝ともルーキー最上位)。バーバーは予選で他車の走路妨害のペナルティを取られ26番手となり決勝11位(3回目のルーキー最上位)。
近頃のインディカーではカラム・アイロット、クリスチャン・ルンガーといったF2出身者が活躍している。アームストロングの実力は彼らのものに近いのではないか。だとすれば、強豪チームから出場するチャンスを手にしている彼には、より大きく飛躍するチャンスが与えられているということだ。ガナッシのエースはディクソンからアームストロングへ、ニュージーランド人からニュージーランド人へと受け継がれる??
■アルゼンチンの英雄がオープンホイール初挑戦
ルーキーランキング2番手はアグスティン・カナピノ。フンコス・ホーリンガー・レーシングの創始者で現共同オーナーのリカルド・フンコスはアルゼンチンの出身。彼がカナピノを口説き落としてインディカーへと連れて来た。
カナピノは母国で大人気のツーリングカーレースで15回もチャンピオンに輝いているスーパースター。ワールドカップ・カタールでチャンピオンになったサッカーがダントツ人気のアルゼンチンだが、レースの、それもツーリングカーの人気はとても高く、スターは悠々と暮らしていける。
カナピノは母国アルゼンチンで、F1グランプリで5回チャンピオンとなったファン・マヌエル・ファンジオに次ぐレーシングドライバーと評価されている(F1グランプリで12勝のカルロス・ロイテマンより上!?)。
すでに33歳にだが、フンコスは彼をアメリカのトップオープンホイールの世界へと引っ張って来た。彼の参戦をきっかけとして、インディカーがアルゼンチンでのレースに踏み切る可能性も出て来ている。
昨年の暮れ、フンコス・ホーリンガー・レーシングはチームのインディカーを母国へと持ち込み、エキジビションランを行った。そこでドライバーを務めたのがカナピノだった。
「あのイベントは大盛況だった。7万人(!)以上が集まった。大きな話題となったので、とても嬉しかった」と彼は話した。
リカルド・フンコスは、「彼はインディカーではルーキーかもしれない。しかし、彼が飛び抜けた才能の持ち主であることに疑いはなく、2023年のインディカーシリーズに良い意味でのインパクトを与えることとなるだろう」と予言している。
カナピノも、「新しいチャレンジをおおいに楽しみにしている。オフの間から精神的にも、技術的にも万全の準備を整えられるよう努力をしてきた。こんなチャンスを与えてもらえたことを光栄と捉え、自分の持つ100パーセントの力を出すつもりでいる。出場するレースではすべて完走を目指し、同時にドライバーとして進歩し続けることが目標だ」と決意を語ってシーズン入りした。
カナピノの驚くべき点は、英語のマスターの速さだ。開幕前の2月に行われた合同テストで彼は、「3カ月前は“ハロー”しか言えなった」と言っていたが、記者会見もほぼ問題なくこなしていた。
「インディカー挑戦が決まってから、1週間に2、3回レッスンを受けることから始めた。英語の上達にフォーカスしている。自分は完璧主義者なので、毎日勉強していおり、エンジニアとの会話ぐらいはできるようになっている」とも彼は話していた。こうした献身的な姿勢がレースでも活かされているのだろう。
カナピーノはオープンホイールの経験がない。
「インディカーは世界で挑戦のしがいがあるシリーズだ。競争の激しさは世界のナンバーワンだ。ロマン・グロージャン、スコット・ディクソン、ウィル・パワー、カラム・アイロットなどインディカーには世界中からベストのドライバーたちが集まっている」
「自分はマシンのこともコースのことも知らない。オーバルの経験もない。しかし、こんな挑戦ができるのは光栄なこと。難しいのは承知の上。でも自分には自信がある。少し時間はかかるだろうが、毎日何かを学び取り、進歩し続けるつもりだ」
母国を離れての生活も今回が初めてというカナピーノだが、アレックス・パロウ(チップ・ガナッシ・レーシング)やパト・オワード(アロウ・マクラーレン)はネイティブのスペイン語を話しており、今のインディカー・シリーズでなら孤立感はさほど感じないで済むだろう。
カナピーノの開幕4戦は、セントピータースバーグで予選21番手から12位フィニッシュし、初オーバルだった第2戦テキサスでも予選が19番手で、決勝はルーキー最上位の12位とどちらも素晴らしい結果を残した。
ロングビーチは予選26番手、決勝25位と地味な結果に終わったが、バーバーで予選でルーキー最上位となる22番手につけた。しかし、決勝は26位だった。
今回のバーバーで勝ったのはスコット・マクラフラン(チーム・ペンスキー)。彼もオープンホイールでのレース経験をほとんど持たず、ツーリングカーで圧倒的な王者となってからインディーカーへと挑戦してきて、トップチームからの参戦ではあるが、すでに4勝を挙げている。カナピノにもインディカーで成功する可能性は十分にある。
■インディライツからステップアップ組
ルーキーランキング3番目はスティング・レイ・ロブ。デイル・コイン・レーシング・ウィズRWRからのエントリーだ。
彼はアメリカ北西部の自然豊かなアイダホ州(人口191万人=2021年)の、ペイエット(人口8,500人=2021年)という小さな町の出身。スティング・レイという名前は、もちろんシボレーのスポーツカーであるコルベットから来ている。
アイダホ育ちの彼は高校でバスケットボールをプレイし、トレイルランニングにも挑戦していたが、レーシングカートに5歳から親しんだ彼は高校時代にフォーミュラカーの世界へと飛び込み、プロフェッショナルドライバーを目指すこととなった。
2020年にUSフォーミュラプロ2000でチャンピオンとなり、翌年からインディNXT(当時のインディライツ)にフンコス・ホーリンガー・レーシングから参戦。2022年はアンドレッティ・オートスポートに移籍し、最終戦で初勝利。年間ランキング2位となってインディカーへとステップアップしてきた。
「2022年が終わる時、自分の2023年のプランは決まっていなかったけれど、インディカーにステップアップすることは決意していた。今年からインディNXTはタイヤが変わるので、それまでの参戦で得たデータは誰も使えなくなる。残るメリットは感じられなかった」とロブ。彼の話には理系の学生的な饒舌さとロジカルさがある。
「いくつかのチームと話をしていたが、その中でデイル・コイン・レーシングが最上位にいたわけではなかった。インディライツチャンピオンのリヌス・ルンドクイストがMSDと提携しているDCRでシートを得るものと決めてかかっていたから」
「しかし、それが間違った認識だとわかって、すぐさまマネジャーのピーター・ロッシ(アレクサンダー・ロッシの父親)に交渉を始めてもらった。DCRは2022年の暮れにマーカス・アームストロングらをテスト。自分は1月になってからテストを走り、そこでのパフォーマンスが非常に良かったので話が前に進んだんだと理解している」
同い年のデイビッド・マルーカスとのコンビでロブはルーキーシーズンを戦う。
「僕らはヤングガン。力を合わせて良いパフォーマンスを発揮したい。デイルのチームは小さく、強豪チームのようなリソースは持っていないけれど、デイルほどのフレキシブルさを大きなチームは備えていないと思う。デイルが指揮をとるチームはパッと方向性を変えるが可能」とロブは自らの体制をポジティブに捉えている。
「インディライツとインディカーはマシン特性が似ており、最初のテストから自然に走らせることができた。インディライツよりマシンを振り回す走りが必要がなく、インディライツ時代に”こういう動きをしてくれたらいいのに……”と思っていた、その通りの動きをしてくれる感じ」と語っているロブ。
デビュー4戦を見ると、開幕戦は予選23番手からスタート1周目の多重アクシデントに巻き込まれ、決勝16位。インディカーでの初オーバルだったテキサスは予選23番手、決勝25位。ロングビーチは予選21番手、決勝18位。バーバーは予選23番手、決勝はマシン・トラブルで27位と、まだ思うように力を発揮させることができていない。
ベテランから学ぶチャンスには恵まれていないチーム体制でもあるが、理論派のロブなら一歩ずつ着実に前身し、パフォーマンスを上げて行くことが期待できる。
最後の4人目はベンジャミン・ペデルソン。デンマークのコペンハーゲン生まれでアメリカのワシントン州シアトル育ちのドライバー。現在はインディアナポリス在住だ。
「2016年にレースを始めた時から目標はインディカーだった。レース、雰囲気、ファン、イベント、コース、などなどすべてが本当に素晴らしいから」とペデルソンは言っている。
彼は2022年のうちからフォイトのピットで無線を聴きながらレースを見たり、エンジニアとのミーティングに参加させてもらったりしてインディカーへのステップアップに向けた準備を進めていた。
若手育成に意欲的なAJ・フォイト・エンタープライゼスは、ペデルソンと複数年契約を結んでいる。チームを引っ張るラリー・フォイトも、「ベンジャミンのレースに対する情熱には並々ならぬものがある。100パーセントの力を注ぎ込み、彼は優勝を目指しして行くことだろう」と将来性を高く評価している。
ペデルソンもインディライツを2シーズン戦った。そして、ロブ同様に2022年に初勝利を挙げた。それはロブより1戦前のポートランドにおいてで、彼はそのレースでポールポジションも獲得した。
「インディライツシリーズ、そしてインディライツのマシンは、ドライバーたちがインディカーへとステップアップし易いものになっている。週末のフォーマットも似ているし、ポイントシステムも、ルールも同じ。競技長も同じ。マシンはインディカーへと進んだ時に、その違いの大きさに戸惑わなくて済むものになっている」とペデルソンは話している。
第5戦GMRグランプリを前に24歳になるペデルソン。セント・ピーターズバーグは予選27番手で、決勝は1周目クラッシュでマシンを大破し、27位。テキサスのオーバルでは予選で13番手という好成績を残した。これは先輩チームメイトのサンティーノ・フェルッチのひとつ上。決勝は15位だった。これが今のところ彼のシーズンハイライト。ロングビーチは予選23番手、決勝24位。バーバーは予選25番手、決勝22位だった。
テキサスでの速さをインディ500でも発揮してくれることを期待したい。
昨シーズンも序盤戦は苦しんだルーキードライバーたち。シーズン後半にはルンガーやマルーカスが速さを見せていった。今年の4人のルーキードライバーたちもどんな成長を見せてくれるのか注目だ。
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