限界領域でドライバーにコントロールの余地を持たせている
ニュルブルクリンク北コース量産FF車最速のタイトルは、現在ルノーメガーヌRSトロフィーRが保持している。タイムは7分40秒100。現在と書いたのは、このタイムアタック競争はまだ終わっておらず、今後塗り替えられる可能性を多分に含んでいるからだ。直近のデータでいうと、VWゴルフGTIクラブスポーツSが7分47秒19、ホンダ シビック・タイプRが7分43秒80をマークし、これを抑えてメガーヌRSトロフィーRが量産FF車最速の座に就いた。
FF車は、前輪で駆動するためパワーさえ出せばタイムが縮まるというわけではない。前輪2輪で伝えられるトラクションの限界があるからだ。この3車のパワースペックを見る限り、最高出力300ps前後、最大トルク400Nm前後あたりが一つの上限となっているようだ。
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トロフィーRのパワースペックは、1798ccの直4直噴DOHCターボから最高出力300ps/6000rpm、最大トルク400Nm/2400rpmを発揮する。パワーやトルクの上限があるとなると、おのずとシャシー性能や車重がタイムアップのための大きな要素となってくる。
ルノーは、メガーヌRSトロフィーRの開発に当たって、メガーヌRSと比べ130kg(カーボン・セラミックパック)もの軽量化を施している。カーボンコンポジットボンネット、カーボンリアデュフューザー、サベルト製モノコックレーシングシート、リヤシート取り外し等々。さらにカーボン・セラミック・パック車はカーボンセラミック・ブレーキローターのほかカーボンホイールまで採用している。
マニュアルトランスミッションの採用や、後輪操舵システムの取り外しも行われている。MTよりもEDCのほうがシフトミスがなく、かつ素早く行えるのではないかという疑問が思い浮ぶが、シミュレーションの結果、より軽いMTを選択したのだという。
エンジンは、300psとスペック上は変わらないが、ターボチャージャーにセラミックボールベアリングターボを採用することで、摩擦抵抗が従来のスチールボールベアリングターボに比べ3分の1に低減。応答性を向上させている。またこのターボの採用によって0→100km/h加速はメガーヌRSトロフィーの5.7秒から5.4秒へ短縮しているという。
シャシー回りでは、倒立式で車高調整機能とダブルチャンネルアジャストメント(減衰力調整機能)のついたオーリンズダンパーユニットやヘリカルタイプのトルセンLSD、 RSの刻印を打った専用開発タイヤ=ポテンザS007を装備、アルミホイールもメガーヌRよりも1本当たり2kg軽量化されている。さらにカーボン・セラミック・パックでは、トロフィーRのアルミホイールよりもさらに1本当たり2kg軽いカーボンアルミホイールが装着されている。
一見すると、ちょっとやる気のあるメガーヌRSなのだが、その内容はここまでやるか!? と言いたくなるほど徹底したメーカーチューンが施されている。
さて、前置きが長くなったが、そんなメガーヌRSトロフィーRカーボン・セラミック・パックに試乗できることになった。
ただあらかじめお断りしておくと、超軽量のカーボンホイールは鈴鹿のタイムアタックのときにリムを痛めてしまったようで、トロフィーRに標準装備される軽量アルミホイールが装着されていたことをお断りしておく。
今回は筑波サーキットでたった2周の試乗時間なので、性能のすべてなど全く語れないが、その断片だけでもお伝えしたいと思う。走り出してまず感じるのは、出足の軽さとターボの付きの良さ。まるでエコタイヤか? と思えるほど走り出しが軽いのは、軽量アルミホイール効果なのだろう。さらに2輪当たり2kg軽いカーボンないったいどんなフィーリングなのか? と思わずにはいられない。
アクセルを軽く踏み込んだ時の過給のかかり方がまた素晴らしく速い。メガーヌRSでさえフワッというよりはずっと鋭くトルクが膨らみ力強い加速を見せてくれるが、トロフィーRはターボのかかり方がほとんどアクセルに連動して即座にトルクがみなぎってくる。だから、例えば第一ヘアピン立ち上がりで無造作にアクセルを踏み込んだら、予想よりずっとターボの付きが鋭く、思わず外側の縁石からはみ出してしまったほど。
アクセルを踏み込んでからMAXトルクを発揮するまでの時間が異常に短いのだ。コーナーが186個もあるニュルブルクリンクのノルドシュライフェならどれほど速さにつながるのだろう。その一方、直線の加速は、速いけれど、300ps&400Nmのイメージを超えていない。もちろんこれだって十分に速いのだが……。
操縦性も、もはや市販車の域を超えたマニアックでスパルタンなセッティングだ。このクルマを走らせてみて、改めて最近いかに生ぬるいクルマに乗っていたかを痛感した。
だからといって手に負えないということではない。めちゃめちゃチャレンジングでヒリヒリする面白さがある。例えばアクセルオフした時のタックインの挙動はシャープだ。1コーナーにフルブレーキングで進入し、コーナー頂点少し手前からブレーキ離し、ブレーキもアクセルも操作しない状態を作り出すと、鋭い挙動でスッとリヤが滑り出す。
理想を言えば、ここで作り出したヨーを殺さずにトルセンLSDを効かせてコーナーを立ち上がることができれば100点なのだろうがさすがにそれをいきなりやるのは無理。ただスパッとリヤタイヤが滑り出しはするのだが、そこからの挙動は拍子抜けするくらい穏やかで、アクセルを踏んでリヤの滑りを抑えるくらいの操作は十分できる余裕がある。ダンロップコーナーもそうだ。コーナー入り口でアクセルオフとともにタックインで車の向きを変えリヤを軽く滑らせたままダンロップコーナーを抜けていくといった走り方ができる。
と書くとかなりカッコよく走り切ったように聞こえるが、実際にはもがき苦しんでいたというのが正直なところ。
ただ、一つ言えるのは、トロフィーRは、ガチガチにグリップする速いクルマではなく、限界領域でドライバーにコントロールの余地を持たせているのだ。そのコントロール性は最近のクルマの中では抜きん出てマニアック。乗りこなせれば素晴らしく速く走ることができるし、またそうした走り方を目標にチャレンジを繰り返す楽しさがある。
谷口信輝選手による筑波サーキットタイムアタックも開催
試乗当日は、レーシングドライバーの谷口信輝選手によるタイムアタックも開催された。ルノー メガーヌRSトロフィーRは以前にも鈴鹿サーキットでタイムアタックを行っており、先代モデルの2分28秒465を3秒以上短縮する2分25秒454をマークし新記録を達成している。今回のチャレンジはいわば「筑波サーキットでの量産FF最速」を狙ったもの。谷口選手は事前のテストで1分3秒台のラップタイムをマークしており、そのことから「今回は1分2秒台を目指す」と意気込みを語っていた。
当日はタイヤウォーマーを持ち込むなど準備も万端であったが、軽量なカーボンホイールが使用できなかったのとコース内に強風が吹いていた関係もあり、惜しくも1分3秒984でタイム更新ならず。しかしながら量産FF最速のタイムはマークできたとのことだ。
谷口選手は「今回は基本的に鈴鹿でタイムアタックしたのと同じセッティングで臨みました。残念ながら目標タイムには届きませんでしたが、安定して1分4秒台のペースをマークできるメガーヌRSトロフィーRのポテンシャルはすごいと改めて感心しました。最新の制御デバイスである4コントロールやEDCが装備されないですが、これもテストドライバーのロラン・ウルゴン氏が軽量化に拘った結果でしょう」と感想を語ってくれた。
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比べるのは少し酷じゃないか?