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『先輩、スゴイっす。』STANLEY牧野任祐が驚嘆する山本尚貴の知略。そして王者たるゆえん【第4戦GT500決勝あと読み】

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『先輩、スゴイっす。』STANLEY牧野任祐が驚嘆する山本尚貴の知略。そして王者たるゆえん【第4戦GT500決勝あと読み】

 レースの後半スティント、19号車WedsSport ADVAN GRスープラの猛追を抑えきって、見事今季初優勝をポール・トゥ・ウインで飾ったSTANLEY NSX-GTの山本尚貴。ファーストスティントを担当したチームメイトで後輩でもある牧野任祐はチェッカー直後のテレビのインタビューで「先輩、スゴいっス」と、2度繰り返した。間近で見ていたチームメイトも驚く、山本尚貴の後半スティント。そこには山本尚貴がチャンピオンのゆえんとなる高次元のパフォーマンスと、心は熱く、頭はクールなベテランならではのスキルと意地が詰め込まれていた。

 スタートを担当した牧野は1周目から2番手のWedsSportの国本雄資を引き離しにかかる。だが、2周目からはWedsSportのラップタイムの方が速くなる。そして7周目に入ったところで牧野がGT300のマシンに引っかかってしまう。

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「3コーナーを曲がって4コーナーの一番嫌なタイミングでGT300に捕まって、19号車に後ろに付かれてしまった。スープラの方がストレートが速くて横に並ばれて、僕も5コーナーのブレーキングでできる限り粘ったんですけど、ただ、『あまりそこで無理をしすぎても』と思い直しました。路面温度が一番高かった時だと思いますけど、あの時間帯の19号車は特に速かったですね。スタート直後は少し離せましたけど、内圧が上がり切ってからは相手の方が速かった」と牧野。

 牧野が懸命に走りながらもWedsSportに抜かれてトップを奪われてしまった瞬間、ピット見ていた先輩、山本尚貴の心に火が付いた。

「あれを見た瞬間に『負けるわけにはいかねえ』と思いました。今週ここまでいい流れで来ていたのに、前半のスティントで任祐がやられて『絶対に取り返す』と思いました」

 牧野もWedsSport国本にトップを奪われ、一旦ギャップは開きつつあったが、スティントの終盤は盛り返し、牧野は4~5秒差でトップのWedsSportに付いていった。その牧野の懸命さにも山本は奮起し、牧野のプレッシャーが結果的にWedsSportのピットストップ作業にロスタイムを生じさせることにもなった。

 セーフティカーのリスクなどを考慮してSTANLEY NSX-GTは早めの25周目にピットインして牧野から山本へドライバーを交代。この時の制止時間はモニター上で40.1秒。その4周後の28周目にピットインしたWedsSport ADVAN GRスープラは右フロントの交換に若干手間取り、45.0秒の制止時間だった。

 WedsSportはGRスープラ陣営の中でもDENSO KOBELCO SARD GRスープラとともにもっともピット作業が早いチームとして知られているが、このトップ争いの高い緊張感のなかで痛恨のタイムロスをしてしまった。

 前半スティントで気づいた4~5秒差は、ピットアウト後に逆転してSTANLEY山本がトップに。このピットでの逆転がSTANLEYの勝因のひとつになった。そして、心に火が付いた山本の頭の中では、極めてクールに後半スティントの戦略と分析が行われていた。

「牧野選手のファーストスティントを見て、路面温度が50度を越える今回のコンディションでは、ヨコハマタイヤがかなりスピードアップしてきたのは分かっていました。できれば路面温度が下がってほしいなとは思っていましたけど、今回のレース時間ではチェッカーが15時くらいなので路面温度はほとんど変わることはない。前回の富士500kmだとスタートとチェッカーのときで路面温度は10度近く下がるのですけど、これはもう普通に行ったら19号車とヨコハマタイヤが勝てるレースになってしまうなというのは牧野選手のスティントを見て分かりました」

「でも、牧野選手が厳しいなかでもトップに食らい付いていったことで、相手のピット作業でミスがあった。正直、ピットタイミングで19号車の前に出られるとは思っていなかったので、『あれっ!?』とは思いました」

 相手のミスもあってトップに躍り出たSTANLEY NSX-GTと山本尚貴。だが、山本にはふたつの懸念があった。63周のレースの25周目という早いタイミングでピットインしたため、タイヤのライフと燃費のマネジメントという制約が課せられていたのだ。

「トップに出てからタイヤのセーブ、マネジメントをずっとしていましたけど、どちらかというとタイヤよりも燃料をセーブすることの方が作業の割合は大きくて、燃費をセーブするような走り方をしていました」

 その状況で、追い上げてくる19号車WedsSportへの戦略と覚悟を決めた。

「セッション序盤もペースを上げようと思えば上げられたのですけど、序盤でフルプッシュしたとして、19号車を離せたかというと離せないと分かっていた。僕らが決して遅かったわけではなくて、ファーストスティントと同様に、やっぱりあのコンディション下ではヨコハマタイヤとGRスープラのパッケージがかなり有利だった」

「そこで序盤から無理をしたところで、相手に詰められて自分がタイヤを使ってしまって燃料もセーブできなくて、追い抜かれてしまうことになる。僕が頑張りすぎると逆に簡単にやられてしまうなと。だったら逆にその序盤のギャップはもう捨てて、1回ペースを落として彼を引きつけて、追いつかれるまで燃料とタイヤもセーブしようと。くっついて来たところで燃料は少し多めに使うことにはなったんですけど、もてぎのコースは抜きづらいですし、要所を押さえることができれば相手に前に出られることはないだろうと思っていました」

 真っ向勝負では相手に分があると判断した山本は、相手のパフォーマンスを削ってレース終盤に勝負を懸けるプランも発動させた。

「むしろ、近づいてくれた方が好都合でした。近づいたら後ろのマシンはダウンフォースがなくなるのでタイヤを酷使することになって温度も上がるし、ダウンフォースが少なくなる分、ブレーキも厳しくなる。後ろにくっつくことで、いろいろなことがマイナスになるだろうという希望がありました」

 実際、19号車WedsSportの宮田莉朋はすぐに山本に追いつくも、なかなか抜くチャンスは与えられず、1秒を切るギャップで周回を重ねていく。ここまでは山本の戦略どおり。だが、要所要所を押さえつつも、徐々に山本とSTANLEY NSX-GTはピンチを迎えつつあった。

「タイヤの内圧と温度が上がっていくとペースが上げられない状況で、余裕はなくなってしんどかった」

●WedsSport宮田の追い上げを凌いだSTANLEY山本が最後のラストスパート

 2台の差が0.2秒という僅差になった41周目を終えた時、山本とSTANLEYにとって最初の幸運が訪れる。GT300車両で火災が発生したマシンの撤去のため、FCY(フルコースイエロー)となったのだ。

「ちょっと厳しいなと思っていたところでFCYが入って、80km/hの走行になったことでタイヤの温度、内圧が結構下がってくれた。そこで燃料の余裕もできました」

 予期せず訪れた幸運。山本はこの好機を逃さず、最大限利用する。

「FCYが解除されたところでちょっとペースを上げてみたら、相手を少し引き離せた。僕らはタイヤの温度が下がれば相手より速く走れる。稼ぎどころはここしかないなと」

 FCY前は1秒以内だった2台の差が、若干離れていく。

「ただ、ここで速く走り過ぎるとまた終盤がしんどくなると思って、ギャップを作りながら彼らのタイヤがタレてくれればなと思っていたら、僕の方のタイヤが先にタレ始めて、そこで彼らにまた追いつかれてしまった」

 再び訪れたピンチ。だがここで再び幸運が訪れる。最終コーナーでGT500車両とGT300車両のクラッシュがあり、2度目のFCYとなったのだ。
 
「追いつかれてマズイなと思っていたら2回目のFCYが入ってくれた。これでまたタイヤと燃料に余裕ができました。こんな恵まれた展開はなかなかないぞと。このチャンスは絶対にモノにしたいと思いました」

 1回目のFCY解除の時と同様、タイヤ温度が下がったときのアドバンテージを利用して山本は最後の勝負に出た。
 
「そこから今週末で一番のプッシュをしました。彼らが気持ち的に諦めるような引き離し方をしたかった。そういったプッシュができたのも、エンジニアの星(学文)さんから逐一無線で状況を教えてもらっていたお陰です。自分のマネジメントがうまくできました」

 55周目に0.7秒だった2台の差は、徐々に開いて行き、60周目には3.0秒の差になっていた。そして今季初の優勝をポール・トゥ・ウインで飾り、GT参戦12年目にして初の地元もてぎでの勝利を挙げることになった。

「どこかで19号車に抜かれるなとみんなが思っていたのかもしれないですけど、僕は逆でした。火が付いた感じがありました。セッション序盤は19号車に分があって、GT300の処理の仕方とクルマの動かし方ひとつで順位が変わってしまうというリスクは当然、感じていました。でも、そういう時にこそドライバーの真価が問われるし、僕の真骨頂でもある『諦めない』という気持ち、2位になったらそこで甘んじるのではなくて、トップを取り返す気持ちが湧いてきた」

「そういった気持ちにさせてくれたのもいいクルマがあったのと、任祐が食い下がって2番手でも離されずに付いてきたからこそ。チームのみんなに感謝ですね。まさにチーム一丸となった会心の勝利だったと思います」

 相手のミスと2度のFCYの幸運があったとはいえ、コンディションや相手の状況を細かく把握した戦略性と的確な状況判断、そして相手が有利な状況でも諦めない強い気持ち……まさにチャンピオンチーム、そして昨年のダブルチャンピオンたるゆえんを感じさせる山本のパフォーマンスに、チームメイトの牧野はただただ、感嘆する。

「同じクルマに乗っていて状況もよくわかっているので、尚貴さんが楽な状況ではないのはわかっていました。僕自身もかなり苦労していたので、その状況で僕よりも多い周回数できっちり要所要所を押さえて走るところとか、もうさすがとしか言いようがないです。本当に、今の僕はいい環境でレースをさせてもらっていると思います」

 レース直後のテレビのインタビューでも牧野は「先輩、スゴイっす」と繰り返せば、優勝会見でも「尚貴さんのお陰です」とチームメイトを讃えた。

「もちろん、僕もトップを守りたいという気持ちもありましたし抜かれたのは悔しいですけど、今回は自分のなかのテーマとして無線でも冷静に伝えようと思っていまして、そこはしっかりフィードバックもできたと思っています。(走行中の)尚貴さんの無線がものすごく冷静なんですよね。逆に僕は今まで熱くなりすぎちゃって、わーわー言っちゃうタイプだったので」
 
 昨年スーパーフォーミュラで山本とチームメイトだった福住仁嶺が今季のスーパーフォーミュラで初優勝を飾って躍進中で、スーパーGTでは牧野が山本からレースの帝王学を目の当たりにしてブレイクスルーを迎えようとしている。今回の結果で山本はトップと3ポイント差のランキング2位に浮上した。STANLEY NSX-GTとホンダ陣営の理想的な好循環が生まれている今季、2年連続のタイトル獲得も夢ではなくなってきた。

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