窮地のアストン マーティンの救世主
text:Matt Saunders(マット・ソーンダース)
translation:Kenji Nakajima(中嶋健治)
アストン マーティンDBXは、2世紀目に突入したブランドの、新しいビッグ・アストン。異論を呼ぶであろう4ドアボディの全長は5m。549psを秘めたスーパーSUVだ。
アストン マーティン・ラゴンダ・グローバル・ホールディングスが、次の100年に向けたビジネス展開計画をロンドン証券取引所で発表してからの15カ月は、挑戦的なものだったはず。株式の専門家がどう表現するかはわからないが、アストン マーティンの株は、まだ良い局面に入ったとはいえない。
2018年10月に1株19ポンド(2700円)という強気の値段で取引が開始されたが、この原稿を書いている時点で6ポンド(900円)程度にまで下がった。厳しい状況だ。ホールディングスの体制変更も近いと噂されてはいるが、根本的にバランスシートの状況が浮上できるかどうかのカギを握っている。
少し難しい内容でスタートしてしまったが、そんなアストン マーティンの救世主となりえるクルマが、臨戦態勢に入った。経営状況を知るにつけ、スクランブル発進も必要に思える。
自動車評論家の中には、歓迎しない反応もあるかもしれない。だが、筆者は大いに期待している。
ランボルギーニ・ウルスやベントレー・ベンテイガ、ポルシェ・カイエンなどで、商業的な成功を収める他ブランドを静観していられなかったはずのアストン マーティン。率いるアンディー・パーマーと上層部は、静かに、しかし明確に新分野へ依存することになった。安定化と変革をもたらすために。
ひと回りコンパクトでエレガント
英国サウスウェールズ州の新工場へ、わたしたちを招待したアストン マーティン。控え目なボディカラーに軽い偽装が施された、生産プロトタイプとしては中期にあたるDBXに、試乗する機会を用意してくれた。
まったく新しいDBXが、他の高速で高級な4輪駆動モデルの対局にある、孤高のモデルには見えない。だが、大きく力強いSUVに対する否定的な意見を、良い方向に変える可能性を持っていると、直ぐに感じ取った。
全長5mを越えるということは、ポルシェ・カイエンやレンジローバー・スポーツより長い。ベンテイガやウルスよりは短い。ホイールベースも長く、スラントしたボンネットの位置や全高は多くのライバルより低いから、サイズ感はつかみにくい。
実際に目にすると、ひと回りコンパクトで、エレガントにすら感じてしまう。過剰さを感じさせたり、強い攻撃性を放っていたりもしない。
この手のクルマに見向きもしない人に冷笑されても構わない。わたしには、ハンサムで現代的なアストン マーティンに見える。必要とされたサイズとプロポーションを考えると、一層強くそう思える。
アルミニウムと複合素材を用いたボディパネルの内側には、新設計のアルミニウム製プラットフォームが隠れている。このプラットフォーム製造のために工場を新設したことで、開発費用も膨大なものになったという。
AMG E63S由来のエンジンと4輪駆動
アストン マーティンの既存モデルから流用される部分は殆どない。エンジンはメルセデスAMG由来の4.0L V8ターボガソリンだが、アストン マーティン・ヴァンテージやDB11に積まれているものとはまったく異なる。
基本的にはメルセデス-AMG E63Sに搭載されるユニットと同じもの。そこへ、E63Sと同じアクティブ4輪駆動システムと、トルクベクタリング・リアデフがパッケージングされる。
すべてで共通するわけではななく、DBXにはメルセデス製のトルクコンバーター式9速ATを採用している。E63Sが採用する7速多板クラッチATでも、他のアストン・モデルのZF製8速ATでもない。
トランスミッションは、DBXを3t近い牽引能力に対応させ、低速トルクを豊かするために、アストン側で手直しを加えている。最大トルク71.2kg-mを伝達させるため、トルクの許容量も増やされているという。
一方で、4.0LのV8ターボエンジンから引き出せる最大トルクはまだ上にある。近い将来、この9速ATでは受け止めきれなくなる日も来るだろう。
サスペンションは、スプリングレートと車高の変更が可能な4チャンバーを持つエアサス。ビルシュタイン製のアダプティブ・ダンパーと、電圧48Vで作動するロール・キャンセリング機能を持つアクティブ・アンチロールバーを備える。車高は100mmの幅で変更できる。
これらの技術の多くはアストン マーティンとして初採用となるが、DBXが参入するカテゴリーの中では、標準的な装備内容といっていい。開発を率いたマット・ベッカーは、DBXに搭載するべき技術内容を早期に決めていたという。
程よい包まれ感の心地いいキャビン
興味深い点は、DBXには4輪ステアリングが装備されないこと。マット・ベッカーは、「4輪操舵システムはまだ取っておいてあります。追って必要になった時に、装備させるつもりです。低速域での機敏性や高い横方向のグリップ力など、この手のクルマに及ぼす良い影響は理解しています」 と話す。
「正直にいうと、(4輪操舵による)ステアリングの反応やコーナリング時の振る舞いが、気に入らないのです。4輪操舵を装備したクルマは、コーナリング中に何度かステアリングの操作が必要だと気づきました。反応が良すぎて、少し直感性に欠けます」
「DBXへは、自然なフィーリングが得られる、直感的な操縦性を与えたかったのです。進路を定めるのも簡単になります」 と助手席から教えてくれた。
アストン マーティンDBXに乗り込むのに、サイドシルへよじ登ったり身をかがめたりする必要はない。SUVの割に、そのまま身体を横に動かすだけで済む。
少し高めにある窓の高さは低く、フロントガラスはかなりスピード感のある角度。ドアパネルは適度にドライバー側に近く、車内は程よい囲まれ感がある。芳醇な設えで整えられたキャビンはゆったりしていて、想像以上に心地いい。
後部座席にも背の高い大人が座れる空間が用意されている。荷室の容量は632Lあるという。見た目にも充分広く、ゴルフバッグや犬のケージ、ベビーカーなど大きな荷物もするりと飲み込めそうだ。
DBXより実用性で優れるSUVがあることは確か。だが、快適で利便性に優れる、扱いやすい4人乗りのアストン マーティンを待っていた人には、とても好適なパッケージングだといえる。
4ドアGTのラピード以上に速く機敏
SUVとしては低めの着座位置と、角度の付いたフロントガラスの割に、スカットルの位置が低く前方視界は良好。フロントタイヤ上のボディの先に左右の前端が見えるから、ボディサイズもつかみやすい。実際以上に大きく感じることはないだろう。
ドライビングモードで、最もゆったりと快適なGTモードを選ぶ。アストン マーティンが生んだ4ドアGT、好印象なラピードSにも似た乗り心地とハンドリングが味わえる。
22インチのホイールを履いていても、とても快適で車外との隔離間に優れている。ラピードと違う体験なのが、クルマに及ぶすべての変化が、路面よりも高い位置で感じ取れること。
ボディがひと回り膨らみ、車高が高くなったのにも関わらず、スポーツやスポーツ+モードを選択すると、ラピードよりも引き締まり、速く機敏に走ることは間違いなさそうだ。エアサスはボディを下げ、姿勢制御や反応の鋭さを高め、スポーティさを全身で体現してくれる。
エンジンは全域に渡ってフレキシブル。0-100km/h加速4.5秒をうたうDBXだが、ランボルギーニ・ウルスのような荒々しさや騒々しさはない。
アストン マーティンはDBXで、4ドアモデルの完成度と走行性能を大きく向上させた。見た目の印象を反故にするパフォーマンスや一体感、ハンドリングと、優れた快適性とキャビン空間のゆとりを兼備している。完成したDBXと、開発チームを高く称賛せずにはいられない。
考え抜かれて誕生したスーパーSUV
乗り心地は、スポーツ+モード以外なら、すべてで柔らかく滑らか。酷い路面状態や鋭い起伏のある部分では一撃が届くが、それ以外の場面では、車内へ伝わる振動はわずかだ。
ステアリングフィールは自然。理想的な重み付けを得ており、常にリニアに操れる。操縦性すべてが直感的で、狙った通りにクルマを進めていける。バランスにも優れ、落ち着きがあり不安感を抱くことはない。
クラスをリードするハンドリングバランスと旋回性能を目指していたDBX。加速力や乗り心地も、ベストと呼べる水準を狙っていた。おそらく、その目標は達成している。大きなSUVボディを持つDBXながら、驚くほどのまとまりを得ている。
そして、オフロードコースでは、DBXがより楽しいこともわかった。それは改めて。最近人気のラリークロス風の砂利が惹かれた英国ウォルターズ・アリーナのコースでは、その面白さが光っていた。
プロトタイプ段階ではあるものの、アストン マーティンDBXの第一印象は秀逸。ひと回り小さく感じさせるデザインは、見た目の訴求力も高い。甘美なドライビング体験は、想像よりも少しだけマイルドだった。
慎重にデザインやポジショニングの検討を重ねた結果として生まれた、スーパーSUVがアストン マーティンDBX。敢えての、わずかなアストン マーティンらしい英国車的歩み寄りがミソだ。
なんという素晴らしい仕上がりなのだろうか。英国での発売は2020年4月が予定されている。
アストン マーティンDBXプロトタイプのスペック
価格:15万8000ポンド(2243万円)
全長:5039mm
全幅:1998mm
全高:1680mm
最高速度:291km/h
0-100km/h加速:4.5秒
燃費:6.9km/L
CO2排出量:-
乾燥重量:2245kg
パワートレイン:V型8気筒3982ccツインターボチャージャー
使用燃料:ガソリン
最高出力:549ps/6500rpm
最大トルク:71.2kg-m/2200-5000rpm
ギアボックス:9速オートマティック
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