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シトロエンの描く未来 試乗 シトロエン19_19コンセプト ハイドロに浮遊するキャビン

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シトロエンの描く未来 試乗 シトロエン19_19コンセプト ハイドロに浮遊するキャビン

もくじ

ー クルマでの移動を別世界のものにする
ー すべてのデザインがシトロエンの描く未来
ー 四角いステアリングホイールは運転しにくい
ー タイヤの間に浮遊するパッセンジャー・セル

画像 未来像 19_19とアミ・ワン

クルマでの移動を別世界のものにする

かつて、1955年製のシトロエンDS19に乗って旅行する人のことを、別世界のひと、と表現していた時代があった。今日のスチール製スプリングに箱型ボディの量産化モデルに慣れた自分も、スペースエイジなスタイリングを持つコンセプトカーに乗ると、同様の感覚を抱いてしまった。19_19コンセプトをドライブすることは、まさに別世界の体験だ。

くさび形のキャビンが、サイクルフェンダーで覆われた巨大なタイヤの間に浮いている。他では見たことのないアピアランスだ。ボディは部分的に青と黒で塗り分けられ、細く断面が露出したような部分がヘッドライトとテールライト。ガラス製のフロントノーズは、フェンダーのラインに合わせてえぐられている。ルーフの中央後ろよりの部分からは謎の四角い物体がふたつ飛び出し、月面走行車のような雰囲気すらある。

最低地上高は極めて高い。かつてのハイドロ・スプリングを備えていたシトロエンの中でも、最も大きいクリアランスが取られているに違いない。もちろんフルEV。例のルーフから突き出たふたつの突起物は、周囲の状況を把握するライダー(LIDAR)センサーで、自律運転車でもある。ドライバーが望めば、その手で運転することも可能だ。

すべてのデザインがシトロエンの描く未来

滑らかな曲面で覆われたキャビンの横には、大きく開くドアが切られ、開口部を仕切るピラーもない。インテリアは主に紫色で仕上げられ、センターコンソールとステアリングホイールは、大理石のようなまだらの白色。助手席のリクライニングチェアも白く色分けられ、心地よい雰囲気を生み出している。

19_19コンセプトのサイドシルは高く、乗り込むには身体を押し込むような体勢になる。ドライバーズシートの取り付け位置は低く、バケットシートのような形状だが、クッションも効いている。ただ一見快適そうに見えるが、スタイリッシュさが優先気味のコンセプトカーということもあり、それほど座り心地が良いわけではない。

運転席の正面には、角の丸い長方形をしたステアリングホイールがこちらを向いており、自ずと気がそちらに向かう。シトロエンらしい、1本のスポークで支えられているのが、トラッドでもある。その先にはカラーディスプレイが付いているが、少し読みにくいようだ。

フロントガラスは大きく傾斜し、急な角度のついた四角い断面のピラーで囲われている。サイドドアにも大きくピラーで囲まれた窓ガラスがはめられている。1940年代のピラーの太かったサルーンのようだ。だが、19_19コンセプトには当時一般的だったマッドガードは付いていない。所々でノスタルジーだが、基本的にすべての部分がシトロエンの描く未来に向かっている。

四角いステアリングホイールは運転しにくい

シトロエンのシェブロン模様があしらわれた、黒くスレンダーなダッシュボードには計器類やボタンはほとんど付いていない。そのかわり、ヘッドアップディスプレイが必要な情報を知らせてくれる。シトロエンが探求する、シンプルなインテリアの理想形なように感じる。操作スイッチやコントロールボタンを徹底的に整理統合し、より落ち着いインテリア空間を作り出すことが目的なのだろう。

ダッシュボードには大きく黒い円柱形の物体が垂直に取り付けられており、パーソナルアシスタントと呼ばれている。運転用のペダルは、必要ない時は格納される。だが、このクルマは人工知能による自律運転を指し示すためのプロトタイプではない。すでに、充分に思い描ける未来にあるためだ。

19_19コンセプトはフルEV。走行時に聞こえてくる音は、モーターが回転するハミングと、フロア下にぶら下がる巨大なグッドイヤー製のタイヤが発する転がり音だけ。このクルマはあくまでもコンセプトカーということで、英国の夏の日差しはお好みではないらしく、走行は室内に限られた。

走り出してすぐ、長方形のステアリングホイールは、クルマの進行方向を変えるのに理想的な形状ではないことに気づく。未来的という点では理想的かもしれないけれど。大理石風のセンターコンソールに配された、黒いスタートボタンと大きなリングは操作しやすい。しかも巨大で、直方系のセンターコンソールから半分がはみ出ている。それはギアセレクターも兼ねており、操作自体も楽しい。

タイヤの間に浮遊するパッセンジャー・セル

シトロエンのデザイン・チーフであるピア・ルクレルクは「このクルマの発端となったアイデアは、浮遊したパッセンジャー・セルです。ホイールの上に浮いた雲のように」 と説明する。スタジオの中で20km/h程度の低速で走らせている限り、それをイメージすることは難しい。しかし、豪奢なシートに先進的なサスペンション・システム、ラウンジのような雰囲気の車内空間は、天上の空間を想像することも難くないムードがある。

ちなみにサスペンションには、アンチロールシステムに、タイヤセンサーによる路面状態の読み取りシステム、シトロエンらしいプログレッシブ・ハイドロ・サスペンションが搭載されている。フロントシートは飛行機のファーストクラスのような快適さで、その柔らかな乗り心地と相まって、昼寝をするにはうってつけ。ダッシュボード下のパーソナルアシスタントが、目的地に到着すると優しく話しかけて、目覚めさせてくれる。

美しく前衛的なクルマを路上に持ち込みたいところだが、パーソナルアシスタントの優しい言葉とは裏腹に、それは最後まで叶わなかった。このクルマはシトロエンの未来を描いただけでなく、過去の栄光をも表現しようとしたコンセプトモデル。言語を超えた創造性の塊として、姿を表したのだ。

シトロエン19_19コンセプトのスタイリングやアイデア、パワートレイン、コミュニケーション、カラーやテクスチャなどデザインのすべては、シトロエンが持つクリエイティビティの高さを、今の時代に具現化させた象徴。この中のいくつかは、そう遠くない未来、現実のものとなるのだろうか。

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