なぜ、612スカリエッティがモントレーに?
text:Kazuhide Ueno(上野和秀)
【画像】612スカリエッティ/456【MTが選べた現代の4座フェラーリ】 全54枚
photo:RM Sotheby’s
新型コロナウイルスの感染拡大を受けて、オンラインで行われたRMサザビーズ・モントレー・オークション。相場を決めるともいわれる世界的なイベントだ。
出品車リストを見てゆくと、由緒正しきクラシックカーから最新のスーパースポーツまで、さまざまなコレクターズカー108台がその存在をアピールしていた。
インデックス・ページを精査していると、見落としてしまいそうな“地味な”クルマに気づいた。フェラーリの21世紀初頭の4シーター・レンジを担当した「612スカリエッティ」である。
当時ピニンファリーナで腕を振るっていた奥山清行氏が、クラシック・モデルのモチーフを盛り込んでデザインしたことで知られ、デビューしたのは2003年。
今回のオークションに出品されたのは、淡いブルーメタに塗られた1台で、この個体には特別な点があった。
そう、超レアな6速マニュアル仕様だったのである。
マニュアルを選べた最後の世代
21世紀に入ると、フェラーリはF355から始まった2ペダル・パドルシフト(セミ・オートマティック)のF1マティックが主流になり、生産台数のほとんどを占めるほどになっていた。
しかしながら、マニュアル・シフトに拘るオーナーに向けてマニュアル・ギアボックス仕様も用意されていた。
最後にMTを選べたモデルは、F430、599、そして612スカリエッティという世代。ほとんどのカスタマーはF1マティックを選んでいたため、マニュアル仕様はごく少数が生産されたにとどまる。
MT仕様 セミATの3倍の評価も
このあとに登場する458、カリフォルニア、F12になると、ギアボックスがDCTに切り替わり、マニュアル仕様を選ぶことはできなくなってしまった。
販売されていた当時は意識しなかったコレクターが後年になって気付いたこともあり、先頃のコレクターズカー・バブル絶頂期には、F430や599のF1マティックが1500万円前後で取引される中にあって、マニュアル仕様は5000万円以上で落札されていたほどである。
フェラーリの4シーターは、欧米ではベルリネッタやクラシック・モデルを所有するオーナーがサブで購入するものという認識がある。
しかし1台だけで済ますオーナーが多い日本では、4シーター・モデルが選択肢に入らないことが多く、中古になるとF1マティック仕様なら700万円からというお買い得な価格帯にある。
6速マニュアル+低走行=高額落札
RMサザビーズ・シフト/モントレー・オークションに出品された612スカリエッティは、超希少な6速マニュアル仕様の2005年モデル。
さらには走行が5700マイル(9120km)とローマイレージで、オプションだった上品な色合いの「アズーロ・カリフォルニア」と、ダークブルー・レザーの内装のコンビネーションが魅力を増していた。
ちなみに612スカリエッティは2003年から2011年にかけて3025台が生産されたが、6速マニュアル仕様はわずか199台が作られたにすぎない。
オークション主催者が事前に発表した予想落札額は、25~27.5万ドル(2675~2943万円)。
競売期間の終了1日前までは8件の入札しか入らず17万ドルに留まっていたが、最後にヒートアップ。最終的に29件の入札を集め、予想落札額を大きく上回る32.45万ドル(3473万円)で決着がついた。
コレクターズカー・バブルが弾け、新型コロナウイルス感染症が広がる中でのオンライン・オークションだったが、6速マニュアル仕様の希少性とコンディションの良さはしっかりと評価されて高額落札に至った。
見る人は見ているのだ。結果を確かめれば、地味なクルマではなかったのである。
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